第161話 異様な光景

プレイヤーしかいないとはいえ、内野達が田村のグループと合流するのには数十分走らなければならなかった。

内野はあの闇の暴発によってMPが全て無くなってしまったが、闇から出た直後に川崎から渡された魔力水である程度MPを回復したのでステータスの力を出せている。だがMP全回復は出来ていないのであまりスキルを使っての戦闘は出来ない(前回の描写不足)


魔物に遭遇したので内野達は応戦しようとしたが、川崎の出した魔物や清水によって一瞬で片が付いてしまうのでする事がなかった。

クエストをまともに受けていた時とは違って魔物を瀕死にして全員でレベルを上げるという作業もせず、川崎が少し急いでいる様に見えた。


「川崎さん、あのレベル上げ方法って今はしないんですか?」


「今は田村達と合流するのが先だ」


「でも合流してもやる事は変わらないですよね?」


「いや、田村達と合流したらレベル上げは終わりにして別の事をする」


てっきり今回のクエストはあのレベル上げ方法をして終わりだと思ってた…でも別って一体なんだ?


内野がその疑問を口にする前に、川崎は一同にこれからの予定を説明をする。


「先ずはクエストのターゲットになっている緑仮面と、さっき連絡して決めたある場所で合流する。

その後田村達と合流して『強欲』を使うに足る強さの敵を見つけに動く。君の残りMPは少ないし黒沼から手に入れた『独王』を使ったりするのは今は止めておこう。スキルの実験はまた今度だ」


「え、それじゃあこれからは俺の強化の為に全員で動くんですか?」


「全員では無い、主要戦力となる者だけ行く。主要戦力となる者を引き抜くと残されるメンバーの戦力は心もとなくなるし、彼らにはクエスト範囲外に近いいつでも逃げれる場所でレベル上げを続けてもらうつもりだ」


「そんな…自分の為にそこまでやってもらうのは…」


「『強欲』は制限のせいで一回のクエストで2回ほどしか使えないスキルだし、このクエストが終わる前に使っておかないと損だ。

それに俺は魔物の持っているスキルにも興味があるから、『強欲』でその魔物が持っているスキルとかも知りたい。だから君が気にする事は無い」


半分くらいは知的好奇心っぽいけども俺としては嬉しい話だ。



まだ距離はあるみたいだけどこれで皆に会える。

これで小野寺に謝れる。

これから仲間を守る為に強くなる。


内野の中には、もう闇の中で感じていたような負の感情はなかった。




そして数十分後、遂に川崎達は田村グループと合流した。

話に聞いていた通り強欲グループのメンバーの人数は減っていたが、幸い顔見知りのメンバーはそこにいた。


てっきり松平・飯田の元リーダー二人は脱落していったメンバーに付いて行ったのかと思っていたが、内野の予想は良い方向へと外れ、二人共そこにいた。

そこに居ないのは木村・進上・尾花ぐらいであった。


内野達は顔見知りメンバーに手を振り駆け寄る。そして一番前にいた飯田へ内野は話し掛ける。


「飯田さんも残っていたんですね」


「うん、抜けた彼らにも誘われたけどここに残ったよ。もう僕はリーダーじゃないから…自分の心に従ってね。

まだほんの少しだけだけど、ようやく本当の自分をさらけ出せた気がする」


「それは良かったです」


「これは君達がくれたチャンスだからね。絶対に無駄にはしないよ」


そう言う飯田の顔と声は今までのものとは違い、今までの物腰柔らかい態度は薄れていた。

だがそれが飯田の本当の姿だというので、内野はその姿を出してくれた事を大変うれしく思う。


もう飯田さんは取り繕った姿を見せずに済む。彼は今まで頑張ってきたんだし、これで良いはずだよな…


二人が話していると大橋・川柳・松平・梅垣もやってくる。

3人も内野の安否をこの目で直接確認出来て安心している様子だった。


そして森田も、メモ帳に何かを書き込みながらも内野の前へと来る。


「無事で何よりだ」


「そっちこそ……てか、そんな熱心にメモ帳に何を書いてるんだ?」


「…少しこっちに来てくれ」


メモ帳について尋ねると、内野に手招きしながら森田は皆から数歩離れる。言われるがままに内野はついて行く。

そして少しだけ皆から離れると振り返って立ち止まり、メモ帳の中身を見せてくる。

中身の字は少し雑であったが、メモだから簡潔で、一文一文細かく行を変えていた。


・松平は新島が好き(恋愛感情)

・新島と工藤は内野を心配(クエストの同僚らしい)

・柏原は梅垣にライバル意識を持っている

・吉本は内野が好き(恋愛感情?)

・篠原は大橋が好き(恋愛感情)

・大橋は自分を取り繕ってる

・田村は怖い、佐々木は特に怖がる


パッと目に付いたものはこれぐらいであったが他にも知らない名前の者の情報などが沢山書いてあった。どれも主に人間関係のものだ。


「うわっ…」


まさかそれぞれの人間関係をメモしていたとは思わず、内野は思わず声が出る。誰が聞いても心の底からこのメモに引いている声だったが、皆からは離れているので聞こえたのは目の前の森田だけだった。


「なんだよその反応…お前なら引かないと思ったから見せたのだが、間違いみたいだったな」


「いや、どうして俺なら引かないと思ったんだよ」


「…今はまだ少ないが、今後他の大罪グループと交流していくなかで人間関係をまとめたメモがあればお前だって上手く立ち回りやすいだろ。そんな時に少しでも役立てる為だ。

ちなみに他のページにはそれぞれの性格とかも記しておいた。今回のクエストでしか交流してない奴が多いから、これ以降何度も書き直す事になりそうだがな」


「え…それじゃあこれは俺の為に書いてくれたのか?」


「9割は自分の為だが…まぁそうだな」


「そ、そうだったのか…さっきはあんな声出してすまん。てっきり人の弱みを握って相手の上に立つつもりなのかと思った」


「…そんなわけ無いだろ」


森田はそう答えるが、この時だけ少しだけ目を逸らしていた。


これは…絶対弱みを握る目的もあったな…


内野は森田に感心してかなり好感度が上がっていたが、結局好感度は少しだけ上がっただけとなった。



だが今記されていたメモに自分が関係する事があったの、でそれについて聞いてみる。


「なあ、ここの〔吉本は内野が好き(恋愛感情?)〕って何だ?俺は吉本っていう人が誰なのか知らないのだが…」


「あ、ふぅ……やっぱり皆がいる所から離れておいて良かった。吉本は『吉本 美海』だ、だから…」


「えっ美海ちゃん!?」


吉本が美海の事だと思わず、内野はつい声を出してしまった。そしてその声が聞こえたのか、水流の様な流れる動きで人混みを抜けて美海がやってきた。


「な、何ですか内野さん…?

田村さんに「仲間との再会を邪魔してはいけません」と言われてたので後ろの方で待機していたのですが……う、内野さんご本人からの指名なら来るしかないですよね?来ても良かったですよね…?」


相変わらずオドオドした口調だが、顔から内野達の帰還を喜んでいるのが分かった。

意図せず美海を呼んでしまったが「やっぱり何でもない」と終わらせられないので、内野は言葉を頭の中で選びながら美海と話す。


「た、ただいま美海ちゃん」


「はい…で、何か御用ですかね…?わ、私は内野さんの師匠ですからなんでも言ってください…」


あ、そういえば師弟関係を結んでたんだ…(143話)

なら割と誤魔化す言い訳は思いつくな。


「黒沼と戦って自分の動きの未熟さを知ったので…是非とも今度対人戦のコツとかを教えてほしいです」


「そ、そういう事ですか!

わ、私は清水さんに鍛えられて色々教わったので…そ、それを全て教えようと思います…

人との実戦はあまりした事無いですけど……と、とにかく師匠に全て任せてください!明日から山に泊まり込みで一週間かけてトレーニングしましょ!」


え、一週間トレーニング……?


その場で思い付きの言葉をかけた結果、内野の明日から一週間の予定が決まってしまった。

だが今から断る事なども出来ない。美海はウキウキでスキップしており、今からそれを断れば彼女を傷付ける事になるからだ。

相手が他の者ならそれでも断れたりしただろうが、美海の場合は余計に厄介な事態になりそうなので内野は渋々それに従う。


その様子を松野はニヤニヤと面白がったりしていたが、他のメンバーからは「気の毒に…」というような視線が見られていた。



周囲には血痕や人と魔物の死体が散乱。耳に響くのは銃声と誰かの叫び声。

周囲がこんなであっても、ほんわかとした温かい雰囲気が辺りには生まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る