第159話 闇の魔物

またしても闇の中に囚われるのかと思ったがそんな事は無く、大量の闇が内野の中に次々と入っていく。

全て吸収するのには時間は数分かかりそうだが、その間は身体も動く。


ほ…良かった良かった。これなら少し待つだけで納まりそうだ。


内野や他の者達が安堵していると、周囲のざわめきが次第に大きくなってきていた。

そして大人数の足音も聞こえてくる。


「この闇は一般人にも見えているからな、それが移動したから野次馬や警備していた自衛隊が追ってきたのだろう。

薫森達は一般人に姿を見られるから離れてろ」


内野の耳にそんな川崎の声が聞こえてくる。


え、俺はこのままここに居て大丈夫なのか?


川崎からは何の指示も無かった上に、闇で視界があまり開けていなかったので内野はその場に残る。

そして病棟の角を曲がった所から数人の声と足音が聞こえてくる。


「こっちにあの真っ黒の物が移動したぞ!」

「向こうの班の報告だと、まだあれはこの敷地を出てはいないみたいだ。近くにあるはずだ!」

「民間人に被害が及ぶ前に発見するんだ!」


そんな声を聞き、ここに向かって来ているのが軍隊の者達だと分かると内野は一つ不安を抱える。

それは、闇のせいで自分の事を魔物だと思われるかもしれないという事だ。


「ば、バリア…」


これからクエストに参加するので本来ならばMPは節約すべきだったが、流石に銃で撃たれたら不味いと思い内野はバリアを張る。


そして数秒後、銃を持った3人の自衛隊員が視界に現れた。

内野を見つけるや否や彼らは驚きながらも銃を前に構える。


「ひ、人型のモンスターです!どうしますか!?撃ってよろしいのでしょうか!?」

「待て!奴はまだ襲ってくる様子は無い…向こうの援軍が来るまでは刺激するな!それに奴の身体はどんどん小さくなっているし、様子を見るんだ」


内野の姿自体は見えないが内野が纏っている闇は見ている様で、自衛隊からは真っ黒な人型の魔物に見えている。

幸い撃ってくる様子は無いが、それも時間の問題だった。


この闇が完全に消えるのが先か、援軍が来て撃たれるのが先か…頼み、早く消えてくれ…


内野は向こうを刺激しない様に、ただその場で立ち動かない。

だが一分もしないうちに裏から、またしても足音と声が聞こえてくる。またしても声から来ているのが自衛隊の援軍だというのはなんとなく分かった。

闇も消えかけている所だが、完全に消えきるのは恐らく間に合わない。


駄目だ、このままじゃ撃たれる。でももう視界は開けてる……ならもう逃げるぞ!


内野は後ろから自衛隊の援軍が来る前に素早く病棟のある方に一歩踏み込み、そのまま壁を登る様に上へと跳躍した。


「不味い、逃げるぞ!撃て!」


隊長と思われる者の合図で容赦なく発砲される。内野に被弾しそうだった弾はバリアで弾かれて無傷だったが、銃で撃たれるだなんて始めての経験だったので、内野はまるで魔物から逃げるかの様に急いで屋上へと上がる。

後ろから飛んでくる弾が視界に映る度に背中がゾクゾクと凍りつく。


だが何とか無傷で屋上にまで上がれ、その時にはもう闇はもうほとんど消えていた。

そして内野は最後に少しだけ自衛隊員の顔を見て屋上の奥へと逃げた。これでもう地上にいる3人には撃ってくる事は出来ない。


一般人を守ろうとしている人達に本気で殺されかけるのって…なんか複雑だな…




その後内野は川崎達と見事合流し、そのままクエスト範囲内へと向かっていった。


だが今の内野の行動によって一つの大きな疑問が世に放たれた。

それは大量の魔物が現れる範囲外に現れた真っ黒の魔物の存在だ






元仮面達は姿を一般人に見られる状態だが、それはクエスト範囲内に入ると変わった。

クエスト範囲内に一度足を踏み入れた後、薫森達が試しに自衛隊員の前に立ってみても何も反応が無かったので、これでプレイヤーの姿が見えなくなるルールが判明した。


そして一同はクエスト範囲の奥へと入っていく。


「それにしても…随分と魔物の死体が多いですね」


4時間半ぶりにやってきたクエスト範囲には銃殺された魔物の死体が散乱していた、そして鳴り響く銃声の音の数も明らかに増えていた。

人間の死体もあるし普通の者なら直視したくない最悪の光景だったが、内野はこの光景に少し安心していた。


「銃が通用するみたいで良かったですね。確かプレイヤー以外も魔物を殺すとレベルが上がるんですよね?

ならこれで自衛隊員の方々もかなり強くなっているでしょうし、かなりの人を救助出来る様に…」


「それは無いな。銃で殺してもレベルは上がらないから、今クエスト範囲の中に進行しているほとんどの者は生身のままだ。

この数時間で海外からの支援も受けてかなり兵力が揃い進行は始まったが、それでも中央にまでは全然到達出来てないらしい。

海は相変わらず使徒と思わしきサボテンが占拠しているから、海岸からの進行は難しい。

航空機での空からの人員輸送も、空にいる魔物に阻まれ上手くいってないみたいだ」


「…それじゃあやっぱりプレイヤーでどうにかするしか無いんですね」


内野のその言葉を聞いて清水の顔はほんの少しだけ険しくなる。


「田村さんから言われているだろうが…重要なのは行動の目的だからな。

一般人を救う為に魔物と戦うのと、強くなる為に魔物と戦うの。この差は未来のお前の可能性を大きく変えうるものだ」


「…聞きましたよ。行動の理由が積み重なる事で、その人の思考回路もその理由中心のものになるって」


「そうだ。それが分かっているなら、一般人の為を思って動く事がお前の可能性を狭める行為になるというのは分かるな?」


「…はい、それは分かっています」


「なら良かった。クエストを受けているグループに合流する前に、内野だけじゃなくて新島にも言っておくが…お前らの強欲メンバーでかなりの脱落者がいるからな」


「「…へ?」」


二人は脱落がどういう意味なのか一瞬分からなかったが、直ぐにその意味が察せられた。

そして工藤が渋い顔をしている事からもその予想が当たっているというのも分かってしまった。


そして川崎が答え合わせの様に口にする。


「強欲メンバー40人の内、15人にグループから出てもらった。言っておくが不当な判断では無い。

急に単独行動する者など協調性が欠ける者達は除外したが、ほとんどが俺達の考え方に賛同できず自ら抜けるのを選んだ者だ。

だから今はグループに20人ぐらいいるが、離脱したメンバーを除けば誰一人死傷者は出ていないからそこは安心してくれ」


そうか…やっぱりそういう人も出てくるよな。でもそればかりは本人の意思だし仕方ない。強要も出来ないしな。


あ、そういえば進上さん達は無事なのか?確か尾花さん・進上さん・木村君は分かれて動いていたみたいだけど…


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