第158話 昨日の敵は今日の友

その後も川崎からの説明は続き、4時間半の間に何があったのかを頭に入れる為に新島と内野は真剣には話を聞いていた。



クエストの方の状況は、現在も変わらずに田村が皆を率いてレベル上げしておりやっている事は変わらない。

他の大罪グループの者とも会ったが協力して行動したりはしてなく、あくまで情報交換の為に連絡先を交換しただけである。


一応は全グループの者と連絡網が繋がり、各々が今回のクエストに関して持っている情報を交換していった。

そしてこの情報交換で提示された情報によって、それぞれのグループの使徒の能力が判明した。


先ず木曜日の話し合い時点で分かった使徒の能力3つは以下のもの。


『怠惰』グループの使徒の魂の移動という能力。塗本という男の身体を乗っ取った使徒を怠惰で捕まえて吐かせたので、これは確実な情報である。

倒し方は他に使徒が乗っ取れる身体が周囲に無い時に倒すという方法。


『憤怒』グループの使徒は、真っ暗な不思議な空間をその場に作りだすという能力。

異空間へのゲートと言った方が分かり易いもので、攻撃で破壊は出来ず、それに堕ちれば死ぬ。なにか実験するのにはあまりにも危険なので詳しい事は分かっていない。


『傲慢』グループの使徒は、恐怖を植え付ける黒い波を放つというもの。恐怖とは心の問題なので、クエストが終わったらそれが消えると言うわけでもない。なのでこれに当たり今後一切魔物と戦えなくなってしまった者もいる。

『傲慢』の椎名がほとんど一人で倒してしまったので詳しい事はよく分からない。


『強欲』の黒狼は使徒の能力が分かっていない。

候補としてあるのは雷or他の魔物を呼び寄せる能力である。



そして今回新たに分かった使徒の能力は以下のものになる


『嫉妬』の使徒は、周囲の魔物を強化+凶暴化させる能力を持っている。凶暴化した魔物は痛みなど一切感じなくなり、槍で身体が貫かれていても前に進んできたりなど通常では有り得ない行動をしてくるので対峙する際は注意が必要になる。

大人数を周囲の魔物を倒す役、使徒を倒す役にそれぞれ分けてようやく討伐出来た。


『色欲』の使徒は、身体が光に変化して高速移動する。

光になっている間は攻撃が透過するので攻撃は当たらない。だがこれは相手も同じで、透過を解除しなければこちらに攻撃出来ない。シンプルな能力だが攻守共に使われるので厄介な能力である。

倒し方は『色欲』の能力に関係するので秘密。


『暴食』の使徒はまだ確実とは言えないが、恐らく際限なく魔力を使えるのが能力。

延々と遠距離からスキルを使い攻撃してきたり、近距離戦でも常になにかしらスキルを使用していたのに一切魔力切れを起こした所を見なかったのでそう考えられた。

倒し方は『暴食』の能力に関係するので秘密。



「今の所はこれぐらい分かっている。ただ…肝心な使徒の倒し方を教えてくれた所は『嫉妬』ぐらいで、残りは大罪の能力が関係するから言えないと教えてもらえなかった。

まぁ…あったばかりの奴らに能力なんて教える訳ないし、仕方ないから今回のクエスト中に教えてもらうのは諦めた」


「それじゃあ次のクエストまでに交流を深めて教えてもらわないと駄目ですね…」


「そうなのだが、あの白い空間での言動を見た限り他の大罪メンバーは悪い意味で個性的。あれは心を開くのにも少しばかり苦労しそうだ」


たしかに数日で心を開かせるのは厳しそう…

でもこの情報を得られただけでもかなり良い。そしてなによりこれで他大罪との連絡も取れるようになったのが一番大きいな。

クエストについての情報交換を出来るし、これで他の大罪に俺がどうしても聞きたいについても聞ける。


内野が他大罪に聞きたい事とは、ステータスが1ずつしか上がらなかったり大罪スキル使用時に気絶するのが他の大罪にも起こるのか、またそれの対処法はあるのかというものだ。


内野がそんな事を考えていると川崎のスマホに清水からの着信が入ったので、川崎はそれに出る。


〔川崎さん、内野が生還してきたのならもう動いちゃって良いんじゃないですか?〕


「もう少しだけ二人を休ませてから行こう。だが奴らはもうこっちに連れて来ておいてくれ」


川崎はそれだけ言うと通話を切った。

川崎の言う「奴ら」が誰なのか気になり内野は尋ねてみるが、川崎は「すぐに分かるとだけ言い」教えてくれない。



そして2,3分後、清水は4人の男を引き連れてやって来た。

ほとんどが見慣れない顔で最初は誰なのか分からなかったが、一人だけ記憶にある顔の者がいた。

それは地下室でほんの少しだけ見えた紫仮面の素顔だった。


これで一人が紫仮面だと分かり、内野も何となく他のメンバーの察しも付いた。


「もしかしてその3人は仮面の…」


「そうだ、これからこいつらも連れてクエストに参加するぞ」


「「えッ!」」


さっきまで敵だった者と次は共闘という展開に内野と新島が驚く。

工藤が驚いていない事から新島が闇に入った後に決まった話だと分かった。


「この3人がある程度戦闘で活躍できるのは分かっているし、クエストの時間も残り少ないから使わない手は無いと思ってな。

本人達からも君への罪滅ぼしの為に好きな様に使って良いと合意をもらったし存分に役立ってもらおう」


「さっきまで敵同士だったけど、これからはよろしくね~」


他の二人は内野になんと声を掛ければ良いのか分からず気まずそうだが、元紫仮面のみニッコリしながら明るい声で話しかけてくる。


内野ですら黒沼を殺してしまった事から気まずかったというのに、元紫仮面は笑顔で内野に近づいてくる。


「君はそんなに気まずそうな顔しなくても良いんだよ~悪いのはこっち側なんだからさ。

あ、小野寺から聞いてるかもしれないけど俺の名前は薫森しげもり 一紫かずしね」


「ああ…どうも。貴方はよくそんなに元気がありますね、仲間が死んだっていうのに」


内野がそう言うと、薫森の隣にいた体格が大きい者が薫森の頭の上に手を乗せてクシャクシャする。

恐らく青の仮面を被っていた者だ。


「今のこれはから元気だ。

川崎さんにボコボコにされて《強者と戦う事こそが喜び》という自分の信条がズタボロにされたみたいで、それで精神が不安定になっているんだ。

黒沼が死んだっていうのも少し入っているかもしれんが、少なくとも俺はもう黒沼を見限っていた。だから俺らはあいつの死を悲しむつもりは無い」


それに続いてもう一人の中年の男も喋り出す。緑仮面はクエストのターゲットに選ばれているので、消去法で黄色の仮面を被っていた者だ。


「だけど後悔はしています。ああなる前に出来た事だってあったはずですからね…」


元黄仮面のその言葉を聞いて元青仮面の男もバツが悪い顔をする。

少なくとも黒沼の事を恨んでいる様子は無く、これに内野は少しだけ安心していた。


この人達ならまた小野寺とも仲直り出来そうだし良かった。

でも…小野寺は黒沼が死んだ事を知ったらどんな顔をするのだろうか、この3人みたいに今の黒沼を見限っていたわけじゃないし、きっと悲しむよな…


「小野寺には謝らないと…」


「黒沼は強欲で取り込んだんでしょ?

なら大丈夫だよ~黒沼は君の心の中でいつまでも生き続けるよ!ハハハハハ!」


「薫森お前ちょっと黙ってろ」


元青仮面は薫森を肩に担いで黙らせる。薫森はこれに慣れているのか「これ恥ずかしいからやめてって~」などと言っている。

そんな仲間同士のほのぼのとしたやり取りを見ていると、黒沼を殺してしまった罪悪感が胸を締め付けてくる。


最後の改心したあいつなら、多分またこの輪の中に入れたんだろうな…


そんな思いが内にあり、内野はやるせない気分になる。

作戦としては、仲間が誰一人死なずに『独王』を獲得したので100点満点と言える結果だ。

だが黒沼を救えなかった事で大幅減点を喰らったかの様な、そんな気分だ。




「ねぇ、内野の君はもう黒沼の…彼の能力を持ってるんだよね?」


突然新島がそんな事を聞いてきた。さっきも言った通り今の内野は黒沼を取り込んでおり、ステータスとスキルにそれが反映されている状態だ。


「そう、だから色々数値が上がってるよ」


「じゃあ『テレパシー』みたいな感じのスキルも持ってるよね?」


「…え、持ってないよ?どうしてそう思ったの?」


新島の質問の意図は分からなかったが正直にそう答えると、新島・工藤・清水・川崎の4人の表情が少し変わる。


何故こうなっているのか分からず、なにか不味い事でも言ったのか内野は不安になるが、新島と工藤から答えを聞かされる。


「…私が闇の中に入っていったのは君の声が聞こえたからなの」


「俺の声…?」


「空耳だとかじゃなくてハッキリと助けを求める声が聞こえたの、私と工藤ちゃんはね」


「そう。といっても私は怖くてあの中に入れなかったんだけどね…」


二人の説明を理解できない訳じゃ無かったが、どうして自分の声が二人に届いたのかなど見当もつかず内野は戸惑う。


「俺が新しく手に入れたスキルは『独王』『ステップ』『MP自動回復効率』の3つだけ、どれもテレパシー的な効果があるスキルでは無いのにどうして…」


「黒沼にテレパシー的なスキルが無いのはこいつらに確認済み。だからその現象が起きたのは黒沼を呑み込んだのが原因では無いのは確かだ」


川崎の言葉に合わせて元仮面達は小さく頷く。

だがそうなると内野の声が新島達に聞こえた理由が益々分からなくなってしまった。


あの闇の中で、『闇耐性』を持っている新島・工藤・進上さんの3人を思い浮かべながら助けを求めたのは覚えてる。でもどうしてその望みが叶ったんだ?

もう原因として思いつくものは…


声が届いた原因に一同で悩んでいると、内野は皆の視線が自分の足元に移っているのに気が付いた。


何事かと思い下を向いて自分の足元を確認すると



薄っすらと自分の足元が闇を纏っていた。

正確に言えば闇のドームから少しずつ闇が流れてきており、それが内野の足元に帰ってきているのだ。


「え…これは…」


「闇のドームがようやく消えるみたいだな。

俺の時は自分の身体に闇が吸収されていき消滅したが、内野君みたいに強引に闇のドームから引き抜くとこんな事になるのか」


「で、でもこれって…どんどん大きくなってません?」


闇から流れてくる闇の量は徐々に増していたので、気が付けば膝を超える程度の高さにまで闇は流れ込んでいた。


そして危機感を覚えた川崎が一堂に内野から離れる様に指示を出した次の瞬間、病院を包んでいた闇のドームが形を崩し始め、ドームを形成していた膨大な量の闇が内野の元にまで流れ込む様に一斉にこちらに向かってきた。


「「ッ!?」」


「皆離れろ!走れ!」


内野を除いた一同は離れていくが、内野目掛けて闇が来ているので内野は皆について行くわけにはいかず、ただその場で立ち尽くす。

ただ津波の様の押し寄せてくるその闇を真っ向から見つめて。

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