第156話 王との初対面
闇の中で意識を取り戻して十数分、内野はもう声を出して助けを求めたりなどせず、黙ってこの状況を打開する方法を考えていた。
だが身体も動かず・何も見えず感じず・スキルも使えない状況において、ここから脱出する為の策など思い浮かばない。
そして何も策が思い浮かばない時間が増えていくにつれ、内野の不安は増加していた。
永遠にこのままなのか…?
嫌だ…そ、それってもう死と変わらないだろ…てか本当に俺は生きているのか?
もしかして死んだじゃないのか…死後の世界って…これなのか?
ここが死後の世界だというのが頭に浮かんできた瞬間、永遠にここにいる事になるのだと考え、これまで感じた事の無いほどの恐怖に襲われる。
こんな所に永遠に閉じ込められるのなんて…絶対に嫌だ…
戻りたい…生き返りたい…皆に会いたい…
「い、嫌だ……帰りたい…元の世界に帰りたい…」
なにも感じない内野はこれが自分の頭の中で考えている事なのか、自分が実際に声を出したものなのかも分からなかった。
だがそれが聞こえたかの様なタイミングで、内野は近くに何者かがいる気配を察知した。
シャワーを浴びている時に謎に後ろから感じる気配と同じで不明瞭な気配。だがそうであっても、それがこの闇で初めて感じた感覚だったので内野はそれに声をかける。
「ッ!?だ、誰…?おい、そこに誰かいるのか!?」
物なのか生き物なのか、錯覚なのか実在するのかすらも分からなかったが、もはやそれに縋るしか内野が正気を保つ手段は無かった。
「ここから出る方法は無いのか!?」
何も見えないが気配が近づいてきているのは分かり、内野は必死にそれに話しかける。
返答は帰ってこなかったが、気配は内野の目の前まで来ると止まった。
だがそれ以上は何も起こらない。
向こうから何か仕掛けてくるのを望んだが、話しかけてくる事も、触ってくることも無い。
なのでただ時間だけが過ぎていく。
だが自分はこの闇の中で一人ぼっちでは無いと感じたので、ある程度の冷静さは取り戻せていた。
そしてその状況は数時間続いていた。
ここに来てもう何時間経ったんだろう…相変わらずずっと変な気配はあるけど……
ッ!?
何も変わらない状況でボーっとして待機していると、突然右手に感覚が戻った。誰かに手を握られている暖かな感覚だ。
それは数時間ぶりに感じた触覚であったが、触覚を感じるのが酷く懐かしく感じた。
そして一瞬手を握られる感覚が消えたと思ったら、今度は手を肩に置かれて抱きしめられる感覚がする。
何も見えないので感覚だけが頼りだが、とても柔らかな感触だったのでまるで女性に抱きしめられている様に思えた。
誰かは分からないが、久々に人の温もりを感じた内野は心の底から安堵し、その見えない者を抱きしめる様に腕を回す。
そこにいる女性に触れていない間は自分の腕がどこにあるのか、動かせているのかすらも分からない状態であったが、その女性の背中に触れた瞬間触れ合っている部分の感覚が戻る。
人だ…これは人だ!
俺を抱きしめてくれてる…助けに来てくれたんだ!やった…これで帰れる!
内野が歓喜しているとまたしても触れられる場所が変わった。今度はその女性におんぶされている感覚で、身体を触れ合い感じるその背中は以前にも一度感じたことのあるものだった。
……新島?これって新島の背中だよな!?
覚えてる…ゴーレムのクエストの時に一度おんぶされたから分かる!これは新島だ!
ここまで来てくれたって事は新島は普通に歩けるのか?
あ、そうか『闇耐性』があるんだ!だから新島は普通に動けるのか!
助けに来てくれてありがとうと感謝の言葉を口にしようとするが、やはり自分の声が出ているのか、聞こえているのか分からない。
だが内野はどうしても感謝を伝えたかったので、新島の背中に指で「ありがとう」と書いてみた。だが何の反応も帰ってこない。
流石に伝わっていないか…帰れたらしっかり自分の口で言わないとな。
そう思いながら内野は新島の肩に頭を乗せ目を閉じて、そのままおんぶしてもらい続けた。子供の頃に親におんぶしてもらった時の安心感が心に広がっていくのを感じながら。
しばらくすると突然閉じていた目に光が入ってきた。それによって内野は目を反射的に開いた。
すると光に慣れていなかったので、目を開けた瞬間にあまりの眩しさに目を細める。
だが耳には聞き覚えのある多数の声がする。
「内野!新島!」
「ッ!川崎さん!新島さんが内野を連れ帰ってきました!」
工藤と新島の慌ただしい声がして、目が慣れてきた内野はゆっくり目を開いていく。
そして最初に目に入ったのは新島の横顔だった。
おんぶされているので新島の顔が一番近くにあるので当然だったが、内野は驚き目を見開く。
そして内野が目を開いていくにつれて心配そうにこちらに駆け付けてくる皆の姿が見えて来て、内野の目からは自然に涙がこぼれる。
ようやく帰ってくる事が出来たのだと実感して心が解放されたからだ。
近くに寄って来る二人と新島に、内野は口を開く。
「た、ただいま…皆…」
「…おかえり内野君」
「やった!二人共生還してきた!」
「もうだめだと思ってた…本当に良かった…」
新島の笑み、松野のガッツポーズ、工藤の涙。
それぞれの暖かい反応が内野の涙の源となって止まらず、涙が
自分の涙が垂れてしまった事に気が付いて直ぐに新島に謝ろうとする。
「え…あっごめん…涙が」
「良いんだよ…大丈夫、あんな真っ暗な所にずっと居たんだから仕方ないよ」
「…自分でも何があったのか記憶が確かじゃなかったから、てっきり死んじゃったのかと思って…永遠にこのままなんじゃないかだとか考えたら怖くなって…
だから…本当にありがとう…」
「…ふふ、お礼を言うのは二回目だね」
新島は内野を降ろして振り向き、笑顔でそう言う。その二回目というのが何の事なのかは直ぐに分かった。
「あ…あの背中に書いたやつ伝わってたのか…」
「うん、なんとなく分かったよ」
「な、なんか少し恥ずかしいな…」
内野が自分の行為を少し恥ずかしがっていると、川崎が別の病棟からやってきた。そして川崎は内野の目の前に来る。
「内野君、無事で良かった」
「はい…」
「…俺は君に謝らなければならない事がある。もしも君に予め『強欲の刃』で刺されても闇の暴発が起きるだけだと言っていれば、俺の考えを言っていれば結末は変わっていたかもしれない」
「…こうなったのは強欲の刃で刺されたせいだったんですね。念の為聞いておきますが黒沼は避難してきたりなど…」
「…脱出して来ていないぞ。本当に吞まれたかどうかはステータスボードを見れば分かるだろう」
「そう…ですね」
最後に黒沼と目が合った時の事を考えながら、内野は自分のステータスボードを開く。そしてその瞬間にとある事が確定した
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【レベル60】 SP149 QP232
MP 616
物理攻撃 195
物理防御 177
魔法力 186
魔法防御 164
敏捷性 143
運 6
【スキル】
・強欲lv,8 ()
・バリアlv,4(50)
・毒突きlv,2(20)
・火炎放射lv,5(90)
・装甲硬化lv,1(5)
・吸血lv,1(10)
・独王lv,1(20)
・ステップlv,1(5)
【パッシブスキル】
・物理攻撃耐性lv,6
・酸の身体lv,3
・火炎耐性lv,5
・穴掘りlv,2
・MP自動回復効率lv,1
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異常に高くなっているレベル、SP、QP、ステータス。
そして自分が持っていなかった『ステップ』『MP自動回復効率』『独王』などのスキルの名前。
この事から黒沼が闇に呑まれて死んだ事が発覚した。
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