第154話 闇耐性

「う、内野君…?」


内野君の声が聞こえた新島がそう呟くと、近くにいた松野がきょろきょろと周りを見る。だが付近に内野の姿は見当たらない。


「え、内野が帰ってきたの?どこどこ?」


「いや…声が聞こえた気がしたの。「誰か…」って言っていた気が…」


《動…けない…》


「ッ!?ほらやっぱり聞こえる!」


「俺はパトカーのサイレンだとか悲鳴しか聞こえないのだが…」


二人がそう騒いでいると、田村達前線の者が脚を止める。川崎から連絡が来たのだ。

それによって川崎から内野の現状を知らされた。


今は何も出来る事が無いのでこっちのグループはクエストを続行するというのが田村の指示だったが、内野の仲間である強欲メンバーは気が気では無かった。


さっきのは間違い無く内野君の声だった…他の人には聞こえてないみたいだけど、あれは気のせいなんかじゃない。

何で声が聞こえたのはかは分からないけど…今内野君は闇の中にいるから、いくら助けを求められても助けに行けないのがもどかしい…


…って、あ…


新島は何故自分にのみ内野の声が聞こえるのか考えていると、ある事に気が付く。そして一つの仮説を思い付き、それを確証に変えるために田村に少し尋ねる。


「…すみません、離れている相手と話せるスキルって存在しますか?」


「ん、ありますよ。中々使えるスキルでしたが、今のこのメンバーの中にはいませんけどね」


「実はさっき内野君の声が聞こえたんです。気のせいだとかじゃなくて、助けを求める声が鮮明と聞こえきました。

それで…内野君の近くにいた川崎さんにも同じ現象があったか聞いてみてくれませんか?」


「ほう…分かりました。聞いてみましょう」


田村は新島の言っていた事を通話で川崎に質問するが、川崎には一切そんな事無かったという。


それによって新島の仮説はより信用足るものになった。


話を聞く限り、内野君は仮面のリーダーと共に闇に呑まれたみたい。それなら内野君は仮面のリーダーのスキルを手に入れたかもしれない。

それで内野君は仮面のリーダーが持っていたテレパシー的なスキルを手に入れて、私に助けを求めてきたと考えるのが一番納得できる。

そして近くにいた川崎さんじゃなくて私に助けを求めてきた理由も何となく分かる…


新島はステータスボードのとあるスキルに目をやる。


・闇耐性lv,1


多分このスキルを持っているからだと思う。これを持っている者なら助けに来れると考えて内野君は助けを求めたのかもしれない。

それならきっと彼女にも…


新島は田村の目の前であっても気にせず、急いで工藤に通話をかける。すると1コールもしない内に通話が繋がった。


「ねぇねぇ!さっき内野の声が聞こえたんだけど!清水が信じてくれなくて…」


「聞こえたよ!多分『闇耐性』を持っている私達にだけ届いたんだと思う!」


「「ッ!?」」

「「なっ!?」」


新島が食い気味にそう話すと、その話を聞いていた全員が驚きの声を上げた。

目の前にいる田村。スマホ越しの工藤・清水・川崎。新島の周囲にいるプレイヤー。


だが新島は周囲に説明するよりも先に、工藤に頼みごとをする。


「私は内野君の所までそこそこ離れてるけど、工藤ちゃんは近くにいるよね!?闇の中に入って内野君を助けに行ける!?」


「え、あ…分かったわ!」


工藤はそう返事すると通話を繋げたまま動き出した。清水も今ので状況を把握し、工藤に同行しているのがスマホ越しに聞こえる声から分かった。


今の状況を把握した田村は新島の考えに乗る気で、既に新島の護衛に行かせるメンバーを編成していた。


「今ので何となく分かりました。3人同行させるので行ってきなさい」


「…ありがとうございます!」


「後で『闇耐性』というスキルについて聞かせてもらいますよ」


「はい!」


田村が編成してくれた怠惰メンバー3人と共に、新島はクエスト範囲外に向かい出そうとした。

だがそこで松野が新島達の前に出る。


「俺も行かせてくれ!テレポートのレベルも上げたし時短出来るかもしれない!」


松野も同行させ、新島達は松野と共にテレポートにより青光の中に消えていった。

_________________________________


「あ、あの黒いドームみたいなやつね!」


「そうだな、見間違える訳が無い」


工藤は内野とクエスト範囲外で別れた後、清水と二人っきりだったので少し話している内にため口で話せるようになっていた。

そして今、工藤は清水に背負って運んでもらっており、新島との通話から数分経たずで病院の近くまで来ていた。周囲の者は相変わらずプレイヤーを見えないままだが黒い闇のドームは見えており、病院の近くには野次馬が集まっていた。




清水はその者達の頭上を軽々と飛び越え、駐車場付近にいる川崎の元まで合流する。駐車場には川崎と堀越のみが立っていた。


清水が着地するや否や川崎は直ぐに駆け寄ってき、工藤に尋ねる。


「君が『闇耐性』というスキルを持っているのは本当か?」


「はい…でも闇に触れた事なんて無いからこれでどれだけ防げるかは…」


「分かった。スキルレベルを上げるのに使うSP分次のクエストでもサポートするから、『闇耐性』のレベルを上げれるだけ上げてくれないか?」


「初めからそのつもりです」


流石の工藤も川崎には敬語で話し、ステータスボードを開く。


今あるSPは96で『闇耐性』はlv,1なので今のSPなら一気に8まで上げられる計算だった。 


工藤は内野を助ける為ならと決意を固めていたので、躊躇なく大量のSPを使いスキルレベルを上げようとステータスボードに触れた。




だが数値は全く変わらない。SPの値は96のまま、スキルレベルも1のまま。


「え!ちょ…なんで上げられないの!?」


「スキルレベルが上がらない…?試しに他のスキルレベルは上げられるのか試してみてくれないか?」


川崎の指示通りに工藤はスキル欄の『ヒール』に触れると、SPを9消費してスキルレベルは4に上がった。

その流れで再び『闇耐性』の文字に触れてみるが、やはりこちらには変化が無かった。


「だめ…『闇耐性』だけ上げられません…」


「スキルレベルが上げられないだなんて…そんなの初めてだ。ステータスボードに不具合だとかあるのかは知らんが、もしかすると『闇耐性』はスキルレベルを上げられない仕様なのかもしれない」


「……それじゃあ…」


「内野君を助けに行くのならば、スキルレベル1のままで行かねばならないという事だ」


工藤と川崎は視線を闇のドームに移し、工藤は数歩ドームに近づく。最初の距離で闇を見ても何も感じなかったが、近づいて見ると工藤はこの闇のドームに入るのに恐怖を感じた。

恐怖は距離を詰めれば詰めるほど大きくなり、とある一定のラインで工藤は足を止めた。


私は以前、内野が黒狼に『強欲』を使った時に一度闇が現れるのを見た。だから新島に内野を助けに向かってと言われて、闇の中に入るのなんか余裕だと思ってた。

で、でも…だめ…これ以上は入れない……怖い…


闇を目の前にすると足が地面から離れて落ち続ける感覚がし、工藤はそれ以上足を前に踏み出せなかった。



その様子を見て、川崎は工藤の腕を引っ張り後ろに戻す。


「別に無理に助けに行く必要は無い。この闇はゆっくり自分の中に入っていくから自然に消えていく。俺の時もそうだったから安心しろ。

…ただこの大きさだと何時間掛かる分からないから、内野君はもう今回のクエストには参加できそうに無いな」


「…」


腕を後ろに引っ張られた工藤は数歩下がるとその場でへたり込み、恐怖に負けて闇に入れなかった自分の不甲斐なさを悔やむ。


私じゃ無理だった…こんなのに自分から入るだなんて…


一方川崎はこの事態が自分の責任であるのは分かっていたが、考えていたのは内野の安否では無く『闇耐性』についてだった。


『闇耐性』の指す闇とやらが大罪スキルで出るこの闇を指しているのか確かめたかったが…彼女が闇に入れないのは無理もない。下手すれば死ぬんだしな。

ただ…あとでそのスキルについては色々調べさせてもらおう。そのスキルを持っている者は他の大罪と対峙した時の切り札になるかもしれないし性能は確かめておかねば。


川崎がそう思考していると、清水が肩を叩いて質問をする。


「さっき川崎さん「俺の時もそうだった」と言っていましたが…川崎さんにもこんな事があったんですか?そんなの聞かされていませんよ」


「話してなかったからな」


「何故?あんな危険な事が起きたのなら俺らには言うべきでしょう」


「これを話すとなるとについての話をしないといけないからな、言うのを躊躇っていた」


「奴とは一体………?」


大河原 おおがわらの事だ」


「…ッ!?」


かつて『大河原 おおがわら死渡しわたり』という者が怠惰グループにはいた。死渡は川崎と同じく最初のクエストからおり、あらゆる武器を自在に扱え戦闘の才能はトップクラス。なので川崎を除いたメンバーの中では一番レベルが高かった。


だが彼には二つ問題があった。一つは残虐な性格、もう一つは人と魔物に一切見境が無いという事。


死渡はレベルが上がり強くなるにつれ、魔物をどれだけ残虐に殺せるかなどして遊んでいた。

抵抗出来なくなった魔物の顔を洞窟の壁に擦り付けて走って、身体が徐々にボロボロになるのを楽しんだり。

魔物が生きている状態のまま臓器を取り出してみたり。

彼のした残虐な行為を数えればキリが無かった。


だが死渡は今から5回前のクエストの時に突如姿を消した。

一同は彼がクエスト死んでしまったのだろうと思っていたが、蘇生石を使っても一切反応が無かった。

この死渡失踪の真相は今だに分かっておらず、少しの間は「プレイヤーを辞める手段があるのかも」という噂が広まるほどプレイヤー間で話題持ち切りになった。

当時この事については川崎も分からないと言及していた。



だが今川崎の口から真相を知っていると告げられ、清水の表情は魔物と対峙する時の様に真剣なものになる。

それは真実を隠していた川崎へ不審感を抱いたからでは無く、清水が最も警戒していた死渡の名前が出たからだ。


「…あいつが何をしたんですか?」


「5回前のクエスト時、奴は俺に『強欲の刃』を刺してきた。それで大罪が『強欲の刃』で刺されると、闇が暴発して周囲を吞み込み、大罪スキルは奪われないという事が分かった。死渡はその時に闇に吞まれたんだ」


「つまり…死渡は闇で吞み込まれたから『蘇生石』で生き返れなかったと。それじゃあ今の川崎さんは『怠惰』で死渡を出すことも可能性なんですか?」


「ああ。と言っても絶対に出さない…というか出せないがな」


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余裕が出来たので更新頻度を上げますが、今回みたいにキリの良い所で終わらない事とかも増えると思います

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