第148話 作戦の危機

内野が二人と別れた後、数分程経過した所で内野のスマホに非通知で通話が掛かってきた。


〔指示通りにクエスト範囲を抜けてからは一人になってくれたね~これで無駄な血を流さなくて済むってリーダーが喜ぶよ!まぁ、僕は君と戦っても良かったけどね。

取り敢えず今からそっちに向かうから少し待ってて〕


そう言って内野が返事する暇無く通話を切ると直ぐに、建物の屋上を飛び伝って紫仮面がやってきた。

屋上から内野の周囲をじっくりと見た後、内野の目の前に飛び降りてくる。


この前と同じ紫色の鬼の仮面で、服はそこらで売っている様な安物の黒シャツ、そしてクエスト関連のアイテムだと思われる半透明な水色のラインが入っている真っ白の革靴。

今の所武器は持っていないので警戒すべきは靴だけだった。


「やっぱり仲間は連れてないね。偉いね~これが終わったら頭ヨシヨシしてあげるよ~」


平然と友達と話すかのようなテンションで話しかけてくるので、内野は警戒をしながらも対応する。


「…どうしてわざわざ俺に姿を見せた?

俺が何するか分からないし、目的地に着くまで見張っておいた方が良かったんじゃないか?」


「君が何か策を練っている可能性は当然僕らも考えてるよ。

前の襲撃で君が他の大罪グループと組んでいるのも分かった。そいつらも敵におめおめと『強欲』を渡すつもりは無いだろうし、絶対に何か考えてるよね。

でもね、正直君がいくら強い人と協力して策を練っても結果は変わらないと思うんだ。『強欲』はこっちのものになるっていう結果ね」


「こっちが他グループと協力しているのを分かっているのに…随分と自信があるみたいだな」


「ふふふ」


不敵に笑う相手の自信ぶりに少し不安を覚えるが、内野は川崎を信じて作戦成功の事のみを考える。


今はまだ人質救出グループからの連絡は来てないから、この段階では黒沼の所に行ってはいけない。まだ距離は1㎞近くあるからゆっくりと移動しよう。


だがその内野の考えを阻止するかの様に紫仮面は提案してくる。


「そんじゃあもうぱぱっと『強欲』を受け渡して、直ぐにクエストに戻ろ。全力を出せば数分もせずに目的地に着くよね」


なるべく時間をかけて向かいたい内野にはその要求は呑み難かった。


どうする…ここでこいつの言うとおりに向かったら着くのが早すぎて作戦を決行できないぞ。

だが時間稼ぎをしているのがバレたらこっちの作戦を警戒して向こうまで作戦を変えてくるかもしれない。


…ここはこいつの要求を呑もう。川崎さんにもこいつらの要求には従う様に言われているし。


「分かった、行こう」


「最短ルートで行くから着いて来て。あ、あと君のスマホは一旦俺が預からせてもらうよ。それと君のスマホのメッセージの履歴だとか色々調べさせてもらうね」


追加でかけられた要求に、内野はまたしても判断に迷う。


さっきまでの川崎さんとのやり取りだとかは全部清水さんのスマホでやってたし、作戦の事は口頭で言われたから、俺のスマホを見られてもこの作戦自体はバレない。

だがグループトークで色々話しているし、ここで見られたら川崎さんの『怠惰』の能力も知られる。

この作戦で黒沼とこいつを抑えるのは川崎さんだし、もし能力がバレたら相手を抑えられなく…

…いや、いくら考えてたってどうせスマホを渡さないなんて選択肢ない訳だし、もう渡してしまおう。


内野が大人しくスマホを渡すと、この対応が以外だったのか紫仮面は「ふ~ん」と拍子抜けした様な声をだす。


紫仮面は戦闘好きな性分なので、内野達も策を練っており今日強い奴と戦えるかと期待していた。なので内野達に何の策も無いのかと思いガッカリしていた。




だが内野のスマホに残っていたトーク履歴から川崎達について知った紫仮面は、さっきまでの落胆は何処に行ったのかと思うほどテンションが上がっていた。


「へー!怠惰で魔物を沢山出せるのかー!

本体は弱そうだけど面白いスキルだから是非とも戦ってみたいな~そしてあわよくば俺もこのスキル貰っちゃおうかな。

内野君、怠惰の人はいまどこにいるの?」


「トーク履歴を見て分かっただろうが、さっきまで俺は怠惰グループと協力してたんだ。だから川崎さんは今クエストを受けている」


「ふ~ん~君を助けには来ないんだ」


「両親を人質に取られてるから大人しく『強欲』を渡そうって彼に言ったんだ。彼は俺の意見を尊重してこうして…」


「金髪の槍野郎だけ護衛に付けて君をクエスト範囲外まで送ったと。君は『強欲』よりも家族が大事だったんだね~」


紫仮面はまだ完全には信じ切っていないが、内野には何の策も無いと考えつつあった。

そしてポッケに内野のスマホを入れると、先導して目的地へと動き出した。



〈梅垣グループ〉

梅垣と柏原の二人は、内野両親のどちらかがいるであろう建物を目前にして待機していた。

梅垣の魔力感知でその建物に一人プレイヤーがいるのも分かっている状態で、今はもう片方の救出グループと内野グループの様子を川崎に尋ねているところである。


二人とも『隠密』を維持した状態なので会話は出来ず、コミュニケーションはお互いスマホで行っていた。


柏原〔道中には監視の奴はいなかったな。話しにくいしスキルを解くのも良いんじゃないか?〕


梅垣〔いや駄目だ。多分川崎さんが俺達隠密スキル持ちにこの役割を任せたのは、相手の『魔力探知』を警戒してのもの。ここでスキルを解いて奴らにバレたらこの作戦は失敗する〕


柏原〔は?奴らには魔力探知系統のスキルが無かったんじゃないのか?〕


そのはずだった。

この前の学校襲撃時、内野君の『強欲』と同じく奴らは『魔力感知』の獲得も目的だった。これは小野寺も言ってたし奴らの行動とも辻褄が合うから確実だ。


だが今回奴らに呼び出されたのは内野君のみで、折角奴らは『魔力感知』持ちの俺を突き止めたのに呼び出さなかった。


あくまで予想だが、この事から

・俺から魔力探知を奪う必要がなくなった。

・こっちが他グループと協力しているのが分かり、確実に『強欲』を奪う作戦に切り替えた。

のどちらかだと考えられる。


そもそもあいつらが魔力探知系統のスキルを必要としていたのは、『強欲』を奪ったのが内野の仲間や他グループに知られてそいつらとの戦闘を回避する為だという。

だから『魔力探知を奪う必要がなくなる』=『戦闘を回避するつもりが無くなった』とも取れるが、もう一つ考えられる。

それは俺から魔力探知を奪う必要がなくなったという可能性。


今回のクエスト発表時に新規プレイヤーはどこのグループにも現れたと思うが、もしもその中に『魔力探知』を持っているプレイヤーがいたとしたらどうだろう。

新規プレイヤーはスキルの数が少ないし、わざわざ俺から奪うよりもよっぽど楽だし使うQPも少なく済む。

奴らにとってこれをやらない手はないはずだ。


そして問題は既に『魔力探知』を奪った後かもしれない事。この可能性がある限り、奴が探知スキルを持っているかもしれないので俺達はスキルを解くことが出来ない。



梅垣は自分の考えを簡単に纏めて柏原に送る。すると柏原からは何故かメッセージが返ってこない。

姿が見えないので何処かに行ってしまったのかと思ったが、近くにあった空き缶のゴミが蹴られたかの様に急に吹っ飛んだので柏原が近くにいるのは確認出来た。



柏原は誰にも見られないのを良い事に、感情に動かされるがまま梅垣の隣で地団駄踏んでいた。


クソクソクソ!ムカつくコイツ!

清水さんに褒められてたのもそうだけど、何よりクエスト回数が俺の方が多いのにコイツの方が強いってのが悔しい!

絶対に…絶対にコイツよりも活躍して川崎さん達に褒めてもらうぞ!


こうして柏原の中に梅垣へのライバル意識が芽生えた。

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