第146話 異なる思考回路
川崎と一緒に降りてきたのは6人だった。
3人はターゲットに選出された者だが、残りの3人が何故川崎といたのかは内野達強欲メンバーには分からなかった。
しかもその内の一人は顔見知りの佐々木であった。
「あれ…どうして佐々木君が川崎と一緒にいるんですか?」
「おっと、そういえば話してなかったな。
実この前話した『契りの指輪』というアイテムの効果が今回も使えるのか試していたんだ。
クエスト開始の転移で、同じ指輪を付けている人の近くに転移するという効果が発動されるのか、試しにターゲット3人とその他の3人に装備させて検証していた。
結果は俺らにとって嬉しいものだった。ターゲットがこの指輪を付けていれば転移時に相方も同じ所に転移するみたいだから、これでターゲットの危険を減らせる」
川崎の説明時に、二階堂は指にはまっている指輪を見せてくる。特に派手な装飾などない普通の鉄製の指輪だ。
だがよく見ると指輪には小さく文字が刻まれてあった。
〔佐々木 浩太〕
どうして二階堂の指輪に佐々木の名前が刻まれているのか疑問に思っていると、二階堂が軽く説明をする。
「相方の人の名前がここに刻み込まれるんだ。今回は佐々木君がペアだからこの指輪には佐々木君の名前が刻まれてるの」
「ほぇ~なんだか結婚指輪みたいわね」
偶然か二階堂が左手の薬指に指輪をはめていたので、工藤が思った事を口に出すと、それを聞いていた佐々木の顔はみるみるうちに赤くなり声を荒げる。
「ばばば馬鹿じゃねぇの!?
俺は二階堂…さんなんかと結婚なんかしてないし!す、好きでもないし!」
「え…それじゃあ私の事嫌い…?」
「あ…い、いえ、そんな事は……ないです」
二階堂が落ち込み肩を落とすと、佐々木は恥ずかし気に自分の言葉を撤回しようとした。
二階堂が佐々木をいじる為にわざと肩を落としているのは傍から見て分かったが、佐々木はそれに気が付いていない。
ん?佐々木君は二階堂さんの事が好きなのか?
そして誰もがそんな予想をするぐらい佐々木の反応は分かりやすかった。恋に対して
そんな慌てる佐々木とイジる二階堂を見て、清水はため息をつきながらぶっきらぼうに口を開く。
「やっぱ性悪女だな…」
「え~そんな酷い事言わないでよ
「うっせぇな。川崎さんが向かったんだから死ぬわけ無いだろ」
「まぁね、佐々木君もしっかり守ってくれたし」
清水の言葉使いは少し荒いが、全員が生還してきた事に少し安心している様子でもあった。
それは他のメンバーも同様で、7人の帰還に安心して頬が緩んでいた。
だが今は再会の言葉を言い合っている場合では無いので、川崎が前に出て咳払いをすると直ぐに全員が口を閉じる。
「皆もう分かっているだろうが、俺はこれから直ぐに内野君と共に仮面の奴らの所に行かねばならない。
だから生還・再会を祝う言葉だとかはクエストが終わってからだ、直ちに行動を開始しろ」
「「了解!」」
怠惰メンバー達が声を揃えてそう言うと、直ぐに田村を先頭にグループで動き始めた。そして強欲メンバーもそれに着いていく。
だが新島と松野は最後離れる前に内野と工藤に一声掛ける。
「頑張ってね内野君!それと工藤ちゃんも」
「こっちから応援してるから二人共頑張れよ」
「任せてちょうだい!」
「ああ、そっちも頑張れよ」
怠惰メンバーのてきぱきとした行動に釣られ、4人も長々と別れの言葉などは言うつもりは無くなっていた。
なので4人共それぞれ一言しか言わず、2手に別方向へと分かれていった。
〈内野同行班〉
一般人の早歩き程度の速さで、内野・工藤・川崎・清水・堀越の5人は目的地に向かっていた。
工藤と清水は金髪で目立ち、川崎は青髭だったり髪がボサボサだったりと悪い意味で目立つ。
だが『シャドウコート』要員として同行している堀越は普通の20代成人男性で、内野と同じく無個性な見た目である。
まだ一同は『シャドウコート』を使っておらず、クエスト範囲を抜けた所で使い始めるというのが川崎の指示だった。
この5人行動の最中、何を話せば良いのか分からず沈黙の時間が続いていた。道中で数体魔物に遭遇したが、全て最前線の清水が秒で終わらせてしまい内野達は戦闘すらしない。
さっきまでのグループ行動でもそうだったが、こんなレベルの上げ方で強くなれるのか内野と工藤は疑問に思っていたので、沈黙を破る為にも川崎に尋ねてみる。
「川崎さん。この方法ならレベルは上がると思いますが、戦闘技術の方が全く上がらなくないですか?」
「当然こんな方法じゃ戦闘技術は上がらないぞ。今日こんな方法でレベル上げをしたのは、今最優先にすべき事が君の『強欲』のスキルレベルを10にする事だったからだ。
『強欲』を早めに上げておけば、総合的に『強欲』で得られる恩恵は大きくなるからな。
ほら、建国ゲームでも長期の利を見据えて資源採取能力だとかは序盤にある程度上げるだろ?それと似ている」
「なるほど、分かりやすい例えですね」
川崎さんも建国ゲーやるんだ…
憧れの人が自分の好きなゲームをやっていたかの様な感覚で、先程までの沈黙による緊張が解けたのもあり、内野は少し嬉しくなり顔が晴れる。
「あっ、今のうちに黒沼を捕らえる流れを説明しておこう。
まだクエスト範囲外までの距離はあるが、俺の姿は相手も知っているし見られたら不味いからそろそろシャドウコートを使って隠れる。
そうなると俺から発する音は全て聞こえなくなるから今のうちに話しておく。
先ず人質救出グループが二人を見つけたという報告が来るまではゆっくりと移動する。その連絡が届いたタイミングでクエスト範囲外に出れるのが好ましいな。
そして黒沼に対面した所で、シャドウコートで隠れている俺が人質救出グループに作戦決行させる。
この段階ではまだ俺達は動かず、内野君はあいつらと会話して時間を稼いでくれ。きっと人質が奪われたと黒沼と紫仮面の元に連絡がいき、一瞬隙が生まれる。その瞬間に俺が黒沼、清水が紫仮面に行動不能レベルの負傷を与える。
そしてテレポートを使える黒沼には即座に俺とペアである『契りの指輪』を付けさせ、俺から絶対に逃げられない様にする。『契りの指輪』はテレポートにも効果があるのは確認済みだから安心してくれ。
こうして抵抗出来なくなった黒沼を脅し、『スキル削除玉』で『独王』以外のスキルを消してもらってから君が『強欲の刃』でスキルを奪う。
これが作戦の流れだ」
「分かりました」
戦闘は二人に任せれば良く、俺はただ黒沼達に策を練っていると怪しまれない様にすれば良い。演技は苦手だがこれぐらいやってやるぞ。
内野の返事に川崎は頷くが、清水は川崎の顔を黙ってじーっと見ていた。
「どうした?」
「…どうして内野に『強欲の刃』じゃなくて『強欲』を使おうって提案しないんですか?いや、そもそも提案じゃなくて命令しないんですか?
今日の内野の行動から田村さんは「かなりの見込みアリ」という評価をしたのは、川崎さんの所にも当然連絡が行っているはずですよね。
内野が冷酷な考えが出来る逸材だと分かっても尚『強欲』を使う作戦に変えないのは何故ですか?」
清水は強い口調でそう述べる。
逸材だとか見込みアリだと評価されていたのは嬉しかったが、それ故に『強欲』を使う作戦を通すのを疑問に思われ、内野は何も言えずにいた。
川崎は清水の問いに返答していく。
「…内野君がそっちを選んだからだ」
「主導権は川崎さんにあります、なのでいつも通りに損が少なく得出来る方を選ばせるべきです。『強欲』を使う作戦なら『強欲の刃』と『スキル削除玉』の購入も要らず、内野は黒沼の他ステータスやスキルも手に入ります。
川崎さんもその利には気が付いているはずなのに、どうしてわざわざ内野の意思を尊重するんですか?」
「俺は彼を縛り付けるつもりはない。あくまで自由に選択してもらい、お互い対等の関係を築こうと思っている。
だから命令をして無理やり選択をさせるダメだ、彼が選んだ方の作戦でいくぞ。
堀越、シャドウコートを使ってくれ」
「は、はい!」
川崎は一方的にそう言い、堀越にシャドウコートを使ってもらい姿を消した。
自分の選択のせいで二人は揉めているが、自分はどうすれば良いのか分からなかった。
自分の意思を通すべきか、清水の言う通り『強欲の刃』の作戦に変えるべきか。
頭では清水の言う通りにすべきだと分かっていた。
だが、木曜日の話し合い時に黒沼を殺さないでくれと小野寺から頼まれてしまったのを思い出すと、自分の手で人を殺すというのを考えると、作戦を変える決断を出来なかった。
クソ…また
一般人は死んでも心は痛まなかったのに、死んでも何とも無かったのに、冷酷になれたのに…敵は殺せない、何故か今は冷酷になれない。まるで知らず知らずのうちに自分の思考回路が変わったかの様な感じがする。
初クエストのロビーもそうだった。俺の中にあった恐怖が消えて頭が澄むあの感覚。
黒狼に迫られた時も突如恐怖が消えて立ち向かう為の作戦を立てられた。
どうなっちゃったんだろう…俺。
クエストに参加してから色々ありすぎておかしくなったのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます