第145話 仮面狩り
〈田村グループ〉
ゆっくりと黒沼達がいる所に移動している間に、田村から作戦内容を説明された。
内野グループが黒沼のいる場所に着く少し前のタイミングで、両親救出グループが作戦を決行して人質を救出。
そして人質を解放したという報告を受けた後、内野と共に行動しているメンバーで黒沼を捕らえる。
いたってシンプルな作戦だ。
だが相手は内野の場所が分かっているので、内野は遠目から見張られている可能性がある。そこで川崎達が一緒にいるのを見られると相手に退散され作戦は失敗するので、内野に同行する者達は『シャドウコート』というスキルで身を隠す。
これはスキル使用者の周囲にいる者の姿が見えなくなるというスキルで、範囲内にいる者は『隠密』と同じ効果を得られるので、これを使い内野に数名の同行者を着ける。
そしてその同行者となるのが…
「工藤さん・清水さん・堀越さん、そして川崎さんの4人です」
「川崎さんまで俺と一緒に来てくれるんですね!」
「ええ、清水さんと川崎さんが入るので戦力は問題無いかと思います。工藤さんは魔力探知係で、堀越さんは『シャドウコート』要員です」
堀越さんって人は知らないけど、あとは全員顔見知りか。それに川崎さんまで来てくれるのか…頼りになるしとてもありがたい!
「私はクエストを受け続けるグループに入りますので、それ以降は川崎さんの命令を聞いてください」
「「分かりました!」」
川崎が同行してくれると聞いた内野と工藤は安堵し、田村の指示に二人して元気よく返事をする。
数分足らずで清水グループと合流出来た。向こう側にも話は通っていたので、後は川崎と合流するだけだった。
どちらもグループ行動で死傷者は出ていないというが、内野は清水グループと合流した時に一つ疑問があったので松平と飯田に尋ねてみる。
「あの~尾花さんだけじゃなくて木村君と進上さんがいませんが、3人は何処にいるんですか?」
「私と飯田さんは前の方にいたからちょっと…」
「僕はその3人を知らないから何とも言えないな」
「そうですか…」
「3人の事なら俺は知ってるぞ」
仲間3人の行方が分からず困っていると、森田がスマホをいじりながら近づいてきてそう言う。
「尾花が妹のいる病院に行こうと木村を誘い、進上もそれに同行したから3人ともここには居ない。俺も話を聞いてはいたが、グループから抜けるのは流石にリストが高いから行かなかったがな。だから3人がいるとしたらあの病院だ」
森田はスマホで今の状況がどの様に報道されているのか調べながらそう報告する。
まるで3人の安否には興味が無いといった様にスマホからは目を離さない。
木村君はなんとなく分かるけど進上さんまで行ったのか。
あ、でも進上さんは戦闘するのが好きみたいだし、今回のグループ行動はゲームでいう※パワーレベリングみたいなもので退屈なものだからそっちを選んだのかもしれない。
(※自分より強い人のパーティーに入ってレベルを上げてもらう行為)
てか森田はもう少し3人の心配をしたらどうなんだ?尾花さんなんか前回一緒に行動した人だろ?
まぁ…森田はこういう奴だから何言っても意味無さそうだな。論破し返してきそうだし…
3人の安否を心配し、工藤と新島が連絡して生存確認しようとしたが進上達からは返答が無い。だが今は助けに行ける余裕など無いので、生きていると信じて作戦に集中するしかなかった。
清水グループと合流して、移動しながら田村と清水が作戦の相談をした後、人質救出グループに動くよう指示を出す。
「梅垣さん・柏原さんは離れている方、美海さんと海馬さんは近い方のポイントに向かって下さい。人質を発見したらまた連絡をお願いします」
「「了解」」
「が、頑張ります…」
梅垣の相方である柏原は、梅垣の事を不満そうな顔で睨んでいたのが不安だったが、こうして4人は二手に分かれ内野の両親を救出に向かった。
美海が居なくなったので、田村はさっきの内野の美海の勘違いへの対応について言及する。
「彼女の勘違いをあそこまで綺麗にいなせるとは思っていませんでしたよ」
「あれの事ですか…自分でも驚いてます」
「今度魔物との戦い方を教わるという事になりましたが、その時も彼女の事を気遣ってくれると助かります。
彼女の戦闘の才能は清水さんに匹敵する程のもの。ですが…多分彼女は人に何かを教えるというのが初めてなので失敗するかと…」
「なるほど。そうなっても出来る限りフォローしますね」
子を心配する親の様に田村が美海を心配しているのを、内野は微笑ましく思う。
親…か。作戦が成功した後二人には何て言えば良いのだろうか。
仮面の奴らが二人にどこまで話しているのか分からないけど、多分色々と聞かれるよな…その時なんて返せば…
「二人への言い訳を考えないと…」
「記憶消去のスキルなど私達は知らないのでそこは口達者に何とか誤魔化さないといけませんね。我々も言い訳作りには協力しますよ」
内野の独り言に田村は返してくる。
木曜日の話し合い時での田村の印象は厳しくて怖い人だったが、親身になって自分の為に動いてくれる田村にはもうそんな悪い印象は無かった。
「佐々木君は田村さんの事を怖がっていましたが、田村さんって優しいですよね。
最初は厳しい人なのかと思っていましたが、今日一緒に行動して仲間の事を本気で心配しているのが分かりました」
「貴方の言う『良い人』のラインが分からないので何とも言えませんが、確実に私達は君が思っているよりも良い人間ではありません。
こうして君達に親切にしているのだって打算ですから。それに私が親切にするのは有能な者、有益な者ぐらいですよ」
「え」
「まず分かってもらいたいのは、私達は慈善活動で君達を助けている訳ではなく見返りを求めています。君達が強くなれば今後のクエストで私達の役に立つと考えて協力しているのをお忘れなく。
それに、こうして順調に作戦が進んでいるのは私達が足手纏いになる者を蹴落としてグループ行動をしているからです。
100人以上のプレイヤーを蹴落とし自分らだけで効率よくレベルを上げる…果たしてこんな事をする者達が『良い人』のうちに入るのでしょうかね」
田村は一切表情を変えずに答える。
田村にそう言われるまで、内野はこのグループ行動が他プレイヤーを参加させない事で成り立っているのをすっかり忘れていた。
…それは自分達がこのクエストを生き残る為だし仕方ないと思う…が、生き残る為なら何をやっても良いって訳じゃないよな。
それが容認されるなら自分が生き残る為に仲間を置き去りにしたりするのも容認されちゃうし…
かといって全員を救うだなんて絶対に無理だある程度の犠牲には目を瞑らないといけないし…
「俺達が生き残る為には…良い人のままじゃいられないんですね」
「本当に貴方が利口で助かりますよ。
もしも大罪である貴方がこれを認められずに正義感のみで動く様な者なら、きっと今日のクエストで協力関係は終わってましたし、『独王』のスキルもきっとこちら側で頂いてます」
内野の返答が気に入ったのか田村の表情は晴れる。
この感じなら次以降も協力出来そうだと話を聞いていた強欲メンバーも安堵していた。
内野も内心安心している所で、田村が更に話を重ねてくる。
「貴方の言う通り私達は良い人のままではいられませんし、良い人のままでいる必要もありません。
なので、本当は敵である仮面達の命を守ろうなどと考えて欲しくないのですよ」
「でも今回の相手は別に殺さなくても済みそうですし、わざわざ殺す選択肢を取る理由も…」
「別に貴方に仮面の者達を殺して欲しくて言っているのではなく、貴方の中に余計な思考回路が生まれてしまうのを避けたいのですよ。
さっき程「行動の積み重ねによってその者独自の思考回路が出来上がる」と言った様に、もしもここで貴方が敵の命すらも守ろうとしてしまえば、今後現れるかもしれない人間の敵にも甘えが確実に生じます。
そんな無駄な思考回路が出来上がってしまうのを恐れて私は………あ」
田村は自分のスマホに何者からか連絡が届き、それを確認すると口を止めた。
「……どうやら私の出番はここまでみたいですね。あとは彼に任せます」
そう言いながら田村は上を見上げる。それに釣られて他の者達も上を見上げてみる。
その瞬間、建物の影からドラゴンが上空に現れ、そのドラゴンから数人が飛び降りてきた。
「お待たせーーー!」
聞き覚えのある女性の声が上から下に流れる様に聞こえてくると、直ぐにその者達の正体が分かった。
最初に飛び降りてきたその女性は今回のターゲットになった二階堂であった。そして後に続くように数名が着地する。
そして最後に飛び降りてきたのはこの場にいる全員が知っている者。特徴的な外見から、ここにいる強欲メンバーも白い空間の映像にて彼の姿は覚えていた。
「さ、ここからは仮面狩りといくぞ」
ドラゴンを闇に変えて収納しながら、川崎は皆に向けてそう言った。
_____________________________
本当は話の間にサブキャラのクエスト間の心境だとかも入れたかったのですが、話を進めるのを最優先にしているので入れてません。
なので内野達以外メンバーが全く話に出てこなくて少し不自然に思うかもしれません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます