第144話 クエスト中断

〔取り敢えず今何処にいるのか聞いても良いかな?〕


「…クエストを受けてるに決まってるだろ」


まるで友人に話しかけるかの様に場所を聞いてきて、声からはまるで緊張感が感じられなかった。


〔やっぱそうだよね~でも悪いんだけどさ、今から少しクエストを抜けてこっちに来てもらいたいんだよ〕


「は?なんでお前の頼みを聞かないと駄目なんだよ。お前らと戦う時に備えてこっちはレベル上げしなきゃならんし用が無いなら切る。てか何処で電話番号知りやがった…」


内野は通話を切る雰囲気をわざと出してみる。

両親が拉致されている事を知らないつもりで喋っているが、ここで演技というのがバレたら不味いと内野の顔には緊張がハッキリと現れていた。

通話越しの敵は欺けていたが、これがビデオ通話だったら確実に演技だとバレるだろう。


〔ああごめんごめん、そうはいかないんだよ。

だって…君の両親は今僕らと一緒にいるからね〕


「ッ!?」


内野は相手との通話を切り、直ぐに両親のスマホへと通話を掛ける。

数コールもしない内に通話が繋がったが、母にかけたはずなのにで相手の声はあまり聞き慣れない男の声だった。


〔残念だがあんたの母親は俺が預からせてもらっている。父親はまた別の奴が見張っていて、双方離れた所にいるから反抗するのは止めとけ。

お前がこっちの要求を呑まないと分かった時点で、こっちは同時にお前の両親を殺すつもりだ、いいな?〕


そう言うと向こう側から一方的に切られ、また直ぐに非通知から通話がかかってきた。


〔今焦ってお母さんのスマホに連絡したでしょ~報告が来たよ~〕


「…二人に怪我は無いだろうな?」


〔あ~お父さんの方は反抗してきたから腕を折っちゃったらしい。二人のスマホのGPSを切ろうとパスワードを聞いたんだけど、頑なに答えなかったからね~〕


「ッ!?ふざけんなよお前ら!」


〔は、ふざけてねぇよ。今のムカついたわ…両手足の指全部折れって指示出そ…〕


内野の怒号にキレた紫仮面は突然声が低くなり、本当に父の両手足の指を折りかねないと思った内野は直ぐに謝る。


「ご、ごめんなさい…二人には手を…」


〔噓だよ~ん!

へへへ怖かったでしょ?本気でやりかねないって思ってビビったでしょ?

大丈夫、安心してよ。君が大人しく従ってくれたらもう二人には何も手を出さないからさ〕


相手の声のトーンは元に戻ると、今後の流れについて説明を始める。

その間、田村は黙って話を聞き川崎に逐一メッセージでその内容を報告していた。


〔先ず今からGPSアプリを連結して、君の位置を監視できるようにさせてもらう。

それが終わったら、クエスト範囲にギリギリ入ってない場所にある廃病院に君一人で向かってもらう。

あ、クエスト範囲の移動は一人じゃキツイだろうから複数人で行動して良いけど、クエスト範囲を抜けてから待ち合わせ場所までの区画で仲間を連れてたら二人の命は無いと思ってね。

待ち合わせ場所場所にはリーダーと僕がいるから、そこで『強欲』を譲渡してもらう。

これにて交渉は成立、あとは君と君の両親を家に帰して終わり!こっちも出来るだけ人を殺さない様にしたいから、君が大人しく『強欲』を渡してくれるのが一番平和だね!〕


「…分かった。今からその場所に向かう…」


〔物分かりが良くて助かる、それじゃあまた後でね〕


通話を切って少しすると向こうからGPSの連結がされ、双方の場所が分かるようになった。

やはり相手が言った通り今は使われていない病院で、内野のいる場所から6,7㎞離れている場所だった。

ちなみに内野の両親のいる場所は現在地からそれぞれ10㎞、15㎞離れている。


「田村さん、これからどうしましょうか」


「今から四つに分かれて行動します。

一つが内野君と共に動くグループ。

そして二つは内野君の両親をそれぞれ助けにいくグループ。グループと言ってもこの二つのグループは隠密スキル持ちの者だけで行くので人数は少ないです。

隠密スキル持ちという条件をつけたのは、彼らが敵に万が一見つかれば作戦が崩壊するからです。向こうに魔力感知が無いのは分かっていますが、念には念を入れてこの条件を付けました。

そして最後の一つは、このままクエストを受け続けるグループ。内野君・梅垣君・工藤さん以外の強欲メンバーはこのグループに入ってもらいます」


3人以外のメンバーはここで居残りだと聞き、松野と新島は口を出す。


「え、内野と一緒に行けないんですか?」


「内野君と梅垣さんが作戦に入るのは分かるんですけど、どうして工藤ちゃんも?」


「あまり大所帯で行くのは得策ではないのでメンバーは絞らせてもらいます。

話を聞けば向こう側に隠密スキル持ちの者は居ない可能性が高いみたいですし、彼女の兜は大いに作戦に貢献出来ます。

ちなみに工藤さんは内野君と同じグループで、梅垣君にはご両親の救出グループに入ってもらいます」


工藤が自分の選ばれた理由がこの兜だと分かったが、内野について行けるのを静かに喜んでいた。


「ほ、ほんと様様わねこの兜…」


「頭が上がらないってか、兜だけに」


「…うるさい」


そんな工藤と松野のふざけたやり取りを無視し、田村は話を続ける。


「既にGPSで君の場所は向こう側に筒抜けなので、怪しまれない様にゆっくりと移動しながら話をしていきます。

その間に恐らく清水さんのグループが合流してくるはずですし、詳しいグループ分けはその時話しましょう」






〈清水グループ〉

捕えた三人を入れてレベル上げをしていると仮面達が動きだしたと連絡を受けたので、田村グループに合流しに向かっていた。


捕えた三人を入れてからはあまりレベル上げは出来なかったが、それでも色々と分かる事、考えられる事はあった。


・予想通り3人は魔物を殺していく度にレベルが上がって強くなっていった。

・タンクトップの男は何故か魔力の反応がしないままなので、この者のパッシブスキルは隠密系スキルかもしれない


まだ調べたい事は色々あったが、今は内野の両親の救出作戦についての話をする。

梅垣達は清水から作戦の大まかな流れを説明され、ここにいる強欲メンバーの中で梅垣のみ作戦に参加する事が告げられる。


「各々のグループのスタンバイが完了し、全グループが同時に作戦開始しなきゃならない。だからここから一番離れている地点に向かう奴は敏捷性が高い上に隠密スキル持ちじゃなきゃならない。そしてそれに一番適しているのがお前だ」


「俺が一番遠く地点に向かうというのは良いが俺一人なのか?」


「いや、あと一人いるぞ。柏原かしわら出てこい」


清水がそう言うと、突如小野寺の横に一人の男が現れた。内野と同じ年ぐらいの青年だ。

隠密スキルを解除して現れるや否や、片手を腰に充て、もう片方の手で自分の髪をなびかせる。


「やれやれ…やっと小野寺の監視とかいう面倒な役を降りられるのか。待ちくたびれたぜ」


「え、俺の監視!?」


小野寺は自分に監視がついていたと思わず驚くが、直ぐにハッとして清水に向き直る。


「俺は黒沼達に情報を渡したりなんかしてませんからね!?」


「コイツの言っている事は本当だ。『白い光』の正体を探りに分かれた時も怪しい動きを見せなかったし、コイツは信用に足る者だ」


柏原に信用できると言われた事で小野寺の表情は晴れる。小野寺が黒沼達に情報を渡しているのかと思っていたのか、清水は少し驚いていた。


「そりゃあ良かった。裏切りが発覚してたらお前の20本の指と四肢が変な方向に曲がってる所だったぞ」


「は…はは…御冗談を…」




小野寺を少し脅した後、清水は簡単に柏原の紹介をする。


「こいつは柏原。腕は確かだが中二病で痛い発言が多いから、「あっそ」でどれだけ受け流せるかが肝だ」


「足を引っ張るなよウスノロ」


「梅垣の方が良い動きをするからお前の方が足引っ張る可能性が高いんだぞ、少し褒めたからって自惚れんな。

ま、お前ら二人の役割は戦闘じゃなくて内野の親を救出する事だからそこまで難しく考えなくて良い。相手の隙を見て人質を攫え、これだけだ」


相手を倒すのが目的じゃないのなら簡単だな。俺が囮になっているうちに柏原に動いてもらえば良い。


梅垣はこれから行動を共にする柏原に手を差し伸べる。


「作戦は分かった、これからよろしく頼む」


「ああ…よろしくな…」


柏原も手を差し伸べて双方握手を交わすが、柏原は不満そうな顔で梅垣を見ていた。

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