第143話 9防衛クエスト 横浜

内野は美海に背負られながらも順調にレベルを上げていき、レベルは33になりSPは80貯まっていた。


当然このSPで上げるのは『強欲』のスキルレベルであり、内野はステータスボードの『強欲』という文字に触れようとしていた。

大量にSPを使う事と両親が攫われている事が重なっていたので、心臓は鼓動は自分でも聞こえるぐらい大きくなっていた。


い…いくぞ…レベル8まで上げるぞ…


内野は人差し指でステータスボードの『強欲』という文字を連打する。



SP80→14  強欲lv,4→8


こ…これで強欲のレベルが8になったぞ!

これだけ上がれば強欲使用時に奪えるステータスやスキルもかなり増えたはずだ!


両親が攫われていなければ、念願の『強欲』強化により気分は晴れていただろうが、鼓動は一向に小さくならない。


そんな内野の鼓動を背中で感じ続けていた美海は内野に話しかける。


「その…内野さんって…なんか不思議ですね…」


「不思議?」


「はい…一般の人への『ヒール』を止めたりしてたので、おんぶする前は川崎さんみたいな冷静で合理的な考え方が出来る人だと思っていました。

…あ、別に内野さんが冷静で合理的な考え方が出来ない人だとは思っていませんよ!?

一般人の死体だとかを見ても心拍の大きさとか変わらないですし、だいぶ肝が据わっている方だと思います。

ただ…私に背負われた初めの方は凄い心拍数でしたし、ご両親の話を聞いてからもずっと心臓の鼓動が大きいままだったので…その…えっと…」


美海は言葉に詰まり、中々先の言葉が出なかった。何を言おうとしているのかは分からなかったが、内野は少しでも美海の緊張が解れる様に声を掛ける。


「おんぶしてくれてる美海…ちゃんには感謝してるから、何でも言って大丈夫だよ」


「そ、そうですか…?へへへ…な、なら聞いちゃいますね…

内野さんって…私の事が好きなんですか?」


美海の一言でその場は凍り付いた。

一応全員足は止めずに動いてはいたが、一体何があったのかと一斉に全員が内野の方を見ていた。

ほとんどが「お前一体何をやったんだ」という内野に呆れた様な目だ。

工藤と新島の表情は完全に固まっており、松野はワクワクを表情に隠し切れずにいた。


ちょちょちょちょ!何で皆俺の方を見るんだよ!別に美海ちゃんにはなんもやってないぞ!


そんな周囲の雰囲気に気が付かないのか美海は頬を赤らめながらそのまま話す。


「だ、だって魔物の死体とかで心を乱さない人が…私におんぶされるだけでドキドキしちゃっているのは…ぜ、絶対そういう事ですよね…心臓は嘘付けないしそうですよね…

ご両親が攫われた時の心拍と、私におんぶされた時の心拍…どちらも大きさはどっこいどっこいだったので…家族と同じぐらい私を…す、すす…好きという事…になりますよね…?」


え…俺の心臓の鼓動だけでそう判断したの!?

確かに女の子におんぶされるのは初めてだったしドキドキしたけど、それは他の人の目を気にして恥ずかしかったのもあったから…


美海が話を聞き、周囲の内野を見る目が変わっていた。

怠惰グループの者の視線から感じる気まずそうな目からは「美海を傷つけないでくれ」という意思が込められているのが何となく分かった。


流石の田村も何と言えば良いのか分からず、ただ皆と同じ様に気まずそうな目で内野を見ていた。


〈彼女は戦闘の才はかなり秀でていますが…少し精神に問題があります。

もしもここで彼が自分の事を好いているというのが勘違いだと判明してしまえば、恥ずかしさのあまり彼女はまともに動けなくなるでしょうし、きっともう彼と行動を共に出来なくなります。それは避けてもらわねば…〉


田村達の意思は内野に伝わったが、だからといって内野に出来る事は多くは無かった。


皆の言いたいことは分かるし、俺だって美海ちゃんを傷つけたくない。でも…彼女を傷つけずに俺が美海ちゃんが好きというのを否定するだなんて器用な事出来るとは思えない。

てかこの子オドオドしてるけど、同時にめちゃくちゃ大胆でもあるな。普通思ってもこんな所で言えないぞ…


内野が何も返さないのを疑問に思い、美海は頭だけ僅かに動かして内野の顔を見る。


「…そ、その…も、もしかして間違っていました…か…?」


「い、い、いや間違ってはないよ。でも…その好きっていうのは恋人に対するものというか…仲間に対する愛情みたいな感じ。

おんぶされてて分かるけど、美海ちゃん俺の為にあまり身体揺らさずに動いてくれてるし、偶に飛んできた魔物の攻撃の流れ玉とかもしっかり避けられるし、凄い頼りになるな~って思ってたんだ」


「ほ、本当ですか!?

頼りになるだなんて…そんな直接言われたの初めてです…でもどうしてそれで心拍があんなに大きくなっていたんですか?」


「…胸が熱くなったからだよ。美海ちゃんは大分手馴れみたいだし、魔物との戦い方とかを教わりたいと思って…それを」


「私なんかで良ければ喜んで!

一応これでも清水さんに「良い動きをするな」って言われたので戦いには自信はあります!」


内野の返答により美海の気を落とすことなく、好きという感情の方向を変える事に成功した。


よし!特に何も考えてなかったけど、好きという感情を異性に対するものから、師弟関係としてのものに出来たぞ!


〈ほう…やはり彼は相当頭がキレますね。

もしも真っ向から否定したり、逆に彼女に押されて「そうです、貴方の事が好きです」などと言っていたら後々かなり面倒になっていました。

だが彼が選んだのは、肯定や否定ではなく彼女の言う『好き』という方向性を変える道。

異性に対するものではなく、尊敬する者に対しての尊敬心という方向で好いているというのを示し、彼女のフォローを欠かさない。

まさかこんな形で彼の評価が更に上がるなど思いもしませんでした…〉


こう考えたのは田村以外の者も同様で、人知れずに内野の評価は上がっていた。





この騒ぎが終わってから少しした所で、内野のスマホに通話が掛かってくる。非通知で何者からの通話か分からなかったが、両親が居ない今、心当たりは1つしかなかった。


正樹ならこんな非通知で通話してこない。だとすると…


他の者も何となく察しがつき、田村が静かにするように命令すると全員が口を閉じる。

そして田村は内野に一つ忠告をする。


「向こうは自分の作戦が私達にバレているとは思っていません。この状況が私達最大のアドバンテージなのを忘れないで下さいね」


「はい、上手い事奴らの作戦を知らないフリをします」


皆が口を閉じたのを確認し、内野は覚悟して通話に出る。



「もしもし、内野です」


〔内野君3日ぶりだね~この声で僕の正体が分かったかな?〕


通話に出たのは紫仮面だった。声はぱっとしないものだが、喋り方で直ぐに誰なのかが内野は分かった。



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そろそろ2章終盤となりましたが、章を跨いでも更新スタイルは変えないつもりです。

ただ、もしも〔もっと話のペースを上げて欲しい〕〔日常とかキャラの交流パートを増やして〕などという意見があったら是非とも感想欄にどうぞ。

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