第142話 8防衛クエスト 横浜

3人を抱えた梅垣と清水は、ドラゴン討伐組と合流してから元のグループとも合流した。

行くとき同様に建物を飛び越え移動していたが、プレイヤーを視認出来ない帯広と女性は清水らが跳躍するたびに叫び声を上げていた。


「どわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「いやぁぁぁぁ!落ちる落ちる落ちる!」


「うるさい…が、仕方ないか。二人には俺らが見えていないし」


梅垣は帯広と女性を脇に抱えていたが、跳躍するたびに二人が叫ぶので耳が痛くなってきていた。


そんな状態で暫く移動していると、梅垣は帯広の様なレベル1程度の魔力の反応が多くなってきているのに気が付いた。


もしや…他の所でも魔物を殺した奴らがいるのか?




〈田村グループ〉

田村グループにいる工藤も、小さな『白い光』の反応が増えているのに気が付いていた。

白い光は基本的に3,4つで固まっており、あまり活発に動いているものはあまり見かけなかった。


「この白い光が魔物を殺して覚醒した一般人の魔力というのは清水さんから報告されて分かりました。

レベルが上がる条件がプレイヤーと一緒なら、魔物を殺した時にその場にいた者らが一斉にレベルが上がるでしょう。それに今後も覚醒する者も増えるでしょうね」


田村が清水からの報告を聞いている間はグループは動きを止めたので、美海におんぶされていた内野は降ろしてもらっていた。


清水達から受けた報告は以下のもの。

・白い光の正体は魔物を殺してレベルが上がった一般人。その付近にいた2人と共にグループ行動に入れさせて様子を見る。

・その者はステータスと唱えてもステータスボードは出てこない

・一人は何故かプレイヤーを視認できるが、レベルが上がった者はプレイヤーを視認出来ない。

・プレイヤーを視認出来る者は特に力などは上がっていない。

・プレイヤーからは空が赤くなっている様に見えるが、空はいつも通りの色に見える



「スキルの名前が分からないからスキルを使えず、自分の好きな様にステータスを上げられない…少なくとも我々の脅威になりませんね」


「脅威…?」


田村の言う脅威があまりピンと来ず、工藤は田村に尋ねる。


「まだ今は数人しかレベルが上がった一般人しかいませんが、恐らく次のクエスト以降は爆発的にその人数が増えます。

レベルが上がって強くなった者…ここでは彼らを『覚醒者』と呼びましょうか。

覚醒者の一人でも〈魔物を殺してから身体が強くなった〉だとか公言したら、次のクエスト以降魔物を殺そうと試み者は増えるでしょう。それに魔物を殺すほど強くなれると知った者達は率先して魔物を殺して回るでしょうね。

ここで問題になるのは、魔物を殺せれば誰も強くなれるという事です。どんな悪人だろうと力が手に入るので、間違いなく日常でも混乱は起きるでしょう。


プレイヤーは力を手に入れても、大罪スキル持ちという絶対王者がいるでの好き勝手には動けない。だが彼らにはその様な存在がいない。だからきっと自分の力を思うがままに振るう人が現れます。

例えば内野君は、以前学校で起きた事件で何人かに恨みを買っているでしょ?

そんな彼らが覚醒者になれば何をしてくるのか分からないという事です」


小西の仲間達か…今は仮面達の事も考えないといけないのに、本人にそうなったら厄介だ。小西達が俺に直接仕掛けてくるのなら問題は無いが、家族になにかやってきたら……家族……あ!?


内野が両親の事を思い浮かべた瞬間、ふと最悪の想像が頭に浮かんできてしまい、直ぐに両親のスマホに通話をかけようとする。

内野がスマホで通話アプリを開こうとしていると、近くにいた田村が内野の腕を掴んでそれを止める。

内野は何故止められたのか分からなかったが、直ぐに田村に自分の考えを話す。


「田村さん!もしかすると仮面の奴らが俺達がクエストに参加している間に俺の家族に…」


「貴方の考えは分かっています。

クエストに参加している最中に仮面の者達が貴方の家族を連れ去り、人質にしようとしているかもしれない。そう考えているのでしょう?」


「分かっているなら何で止めるんですか!?」


「川崎さんがそれを想定して作戦を立てているからです」


「え…」


「…川崎さんは木曜日の話し合いの解散時、貴方に2匹の魔物を付けさせました。この前小野寺に張り付けていた隠密スキル持ちの魔物です。

その二匹に与えている命令は『内野の両親について行け』というもので、貴方が家に着いた段階でその魔物は貴方の両親を追尾し続けています。

そして魔物には小型のGPSを付けており、川崎さんや私のスマホから簡単に場所を見られます」


そ、そうなのか…それじゃあ安心だ。


内野は田村に掴まれている腕を降ろし、自分のスマホを仕舞う。

内野がスマホから手を放したのを確認した田村はGPSアプリを起動し始めたので、内野もそれを覗き込んでみる。

画面を見ると、地図に二つの青い点がありどちらもゆっくりと移動していた。ただ二つの点が移動している方向は別で、内野の家がある場所から北に向かう点と西に移動する点があった。


ん…二人共何でこんな別々な所に移動してるんだ?てか何処か遠くに行く予定なんか無いって言ってたよな?


内野は疑問を持っているのが表情におり、それに対して田村がゆっくりと内野を落ち着ける様に答える。


「内野君、落ち着いて聞いてくださいね。

………今貴方の両親は仮面の者達に連れ去られています」


「………」


「二人を離れた所に連れていき、こちらの力技で人質を解放出来ない様にしていますね。

恐らく黒沼は準備が整った所で君を何処かに呼び出し、両親を人質に『強欲』を寄越せと要求するつもりなのでしょう」


「……!?何でもっと早くそれを言ってくれないんですか!?」


「これでも早く言った方ですよ。本当ならもう少しレベル上げをしているつもりでしたし」


衝撃の事実を聞かされ内野はその場で頭を掻きむしりながらジタバタする。他の強欲メンバー者達も驚いており、皆が内野を心配の目で見ていた。だが余裕が無かったので皆から向けられている視線に内野は気が付かずにいた。


噓噓噓!二人共今仮面の奴らに誘拐されてるの!?

あ…てか考えてみれば、こんな大きい騒ぎというか災害が起きてたら二人共俺に連絡してくるよな!?

でも二人から全く連絡無いし…


「ほ、本当に二人とも誘拐されているんですね…」


「はい。ですがまだお二人に危害は加わっていないと思います。君を脅すために人質を傷付ける映像を撮ったりするのも到着してからでしょうし。

なのでまだ焦る事はありません、有利なのはこちらのままです」


「…これからどう動くつもりなんですか?」


「貴方の両親を助けに行くのは、川崎さんがターゲットの者達と合流してからです。

恐らく仮面達の準備が整い次第、黒沼から君に何か連絡が送られてくるでしょう。向こう側の目的である『強欲』は君が死んでしまったら奪えなくなってしまうし、きっとクエストが終わってからではなく早い段階で君を呼び出してくると思います。

なので川崎さんがターゲットとの合流を終わらせ、黒沼から何かコンタクトが来てから、クエストを中断して貴方の両親を助けに向かいます」


川崎達が自分の家族の事を考えて作戦を立ててくれているのは有難かったが、内野はそれでも不安を完全には拭えなかった。


「不安なのは分かりますが、貴方は今出来ることをしましょう。レベルを上げて少しでも『強欲』のスキルレベルを上げておく…とかね。

さ、今はまだ魔物を狩っていましょう。貴方がこの前、『強欲』より『強欲の刃』を使う作戦が良いと言うものなので、川崎さんは余分にSPを使って『強欲の刃』を買わねばなりません。

そして、その分川崎さんが買う予定だった魔力水などを私達が買わねばなりません。なのでQPが赤字にはならないようにもっと魔物を狩りますよ」


田村は内野の中にある不安を分かっていたが、いつも通りの調子で話す。そして内野が返答する前にグループ行動を再開させた。



近くにいた工藤、新島、松野は内野の不安を消そうと声をかける。


「川崎って人すごい頭良いみたいだしきっと大丈夫よ!」


「こっちの方が戦力は大きいし作戦は上手くいくはずだよ。不安を完全に消すのは無理だろうけど、今はそれでも走ろう」


「怠惰の人達がスゲー強くて頼りになるのは分かったし、任せてれば大丈夫なはずだ」


親が拉致されているのにこんな言葉だけで安心させられるなど3人は思っていなかったが、それでも出来るだけ内野の不安を無くせる様に3人は声を掛けた。


そう…大丈夫だ…まだ二人には何の危害も加わっていないはずだ。だから今は田村さんの言うとおりに出来る事をしよう。


内野は胸に手を当てて心を落ち着けた後、2人と共に走り出した。

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