第141話 7防衛クエスト 横浜

梅垣と分かれた清水達は10人でドラゴンと対峙していた。


ドラゴンなので口から火を吹いて攻撃するように思えるが、このドラゴンの戦闘スタイルは想定していたものではなかった。

二足歩行で立ち上がると、前足や尻尾をメインに使って攻撃をしてくる。


「割とこのドラゴン武闘派だな!」


「でも飛ばずに近距離戦仕掛けてきてくれるのは助かるな、これなら清水が攻撃を当てられるし」


9人が相手の注意を引く動きをし、清水が隙を見て攻撃するというのが強敵戦での作戦。

清水なら相手の鱗ごと槍で貫通して攻撃を喰らわせられるので、清水一人で攻撃に徹するのが一番最適だった。


ドラゴンは必死に足元にいるプレイヤーに尻尾をぶつけようとするが、プレイヤー全員は回避に徹していたので攻撃を全て避ける。

そのおかげで大分ドラゴンの攻撃に慣れてきていた。



派手に動いてはいるが動きが単調だし、ステータスは高いみたいだがこれなら無傷で済みそうだ。

だが油断はならない。こいつみたいにあまりMPを使わない攻撃を続ける魔物は、ここぞという所で強力な攻撃を仕掛けてくることが多い。

レベル90相当の強力な攻撃なんて、防御力特化にSPを振ってない限りまともに喰らえば死ぬ。良くて戦闘不能の重傷だろう。


清水以外のメンバーもこの事を理解していたので、いくら魔物を追い詰めても誰一人油断せずにいた。


そんなプレイヤー達に勝てないと悟ったのか、突然ドラゴンは羽ばたいて上空へと飛び上がり、遠くに羽ばたいて逃げて行った。


「チッ…あれだけデカいと殺しきるのに時間が掛かるから逃げられるな。翼はかなりボロボロにしたのだが…やはり飛べるか」


ドラゴンは清水の攻撃によって両翼の3割ぐらいが削れ、現世の生き物だったら到底飛べない様な負傷であった。

だが魔物は違う、翼が削れようとも飛行関連のスキルを持っていれば飛べるのだ。


過去に〈飛行関連のスキルを持っているなら、その魔物に翼は要らないのでは?〉と怠惰側で疑問が出たことがあった。

飛行スキルに翼を合わせることでMP効率良く空を飛べるから魔物は進化の過程で翼を手に入れたのではないかというのが川崎の見解であった。

これから言えるのは、牙・尻尾・翼・足などを破壊しても魔物はスキルで攻撃できるという事。

これにより今ここにいる怠惰の精鋭メンバーは皆『部位破壊で魔物の攻撃手段が減ると考えるのは油断』という戦いの信条を胸に刻んでいた。


だからこのドラゴンが飛ぶことなど想定内。


一人のメンバーが逃げ去っていくドラゴンに向けて腕を向けると、紫の細長い波が高速で放たれる。

これは『マジックブレイク』で、当てた対象に付与されている魔法の効果を消すというものだ。


これに当たったドラゴンは咄嗟に飛行スキルをかけ直すのに遅れ、かなり建物スレスレの所でようやく体制を立て直した。


だが次の瞬間、ドラゴンは清水と至近距離目が合ったかと思えば、清水の槍に側面から顔を貫かれ両目を潰される。

仲間のスキルによりドラゴンが落ちてくると分かっていたので、清水は建物の屋上を伝って追いかけていた。おかげでこの一撃を攻撃しにくい目に入れる事が出来た。




これ以降はもはや消化試合で、自分がいなくても仲間達なら油断しないし何とかなるだろうと踏んだ清水は、先に梅垣の元へ向かう。



すると近くのファミレスの屋上に梅垣を見つけた。だが梅垣は一人ではなく、見知らぬ3人を連れていた。

タンクトップを着ているガタイの良い男性、短髪の若い女性、美少女フィギュアを抱えている目付きの悪い男性。


清水がファミレスの屋上に飛んで入って来ると、タンクトップを着ている男は驚きビクッと身体が揺れる。

だがあとの二人は清水が見えていない様で、全くこちらに目を向けない。


「梅垣、こいつらは何なんだ?てか白い光の奴はどうした?」


「…こいつが白い光の奴だ」


梅垣は美少女フィギュアを抱えている目付きの悪い男を指差す。相変わらずその男は梅垣と清水の声や姿を認識出来ておらず、ただキョロキョロと周囲を見回していた。


「取り敢えず俺がこの3人を見つけた所から話そう」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

梅垣はキッチンで3人を見つける。


俺が見えていない…つまりコイツはプレイヤーじゃない一般人なはずだ。なら何故コイツから魔力の反応が…

いや、今は取り敢えずコイツを連れ去って話を聞こう。


梅垣は3人から姿を見られないので真正面から魔力の反応のする男に近付き、男の腕を掴もうとする。


だがそれよりも早く、真横にいたタンクトップの男が梅垣が腕を掴んできた。


「蹴り飛ばそうとしたが、掴んだ男自身もまるで自分でも何をしているのか分かっていないかの様にポカーンとした表情をしていたので、一時思いとどまる。


タンクトップの男に他二人が話かける。


「ん…どうしたんですか?」

「わ、私の顔に何か付いてましたか?」


「い、いや…なんか…今ここに人がいる気がする…というか…なんか触感もある…」


俺が見えているのはこの男だけか。

だが肝心な魔力の反応がする男は俺を見えていない…一体何なんだこいつ。


梅垣がどうするべきか考えていると、次第にタンクトップの男の表情が驚愕の表情へと変わっていく。


「ッ!いる!見えるぞ!そこにいる剣を持っている男が!

さっきまではぼんやりとしか見えなかったけど、確かにそこに人がいる!」


タンクトップの男はハッキリと梅垣に目を合わせてそう言ってくるので、もしやと思い梅垣は声を掛けてみる。


「俺の声が聞こえてるか?」


「…ああ…き、聞こえるぞ…」


男は梅垣に返答してきた。

急にタンクトップの男が一人で喋り出したかの様に見える残りの二人は「幻覚や幻聴が聞こえてる!」「やはり無事じゃ無かった!」などと言っていたが、そんな二人の声を無視して梅垣は尋ねる。


「もしかしてお前らが魔物を倒したのか?

それともそこのフィギュアを持った男が一人で倒したのか?そいつからしか魔力の反応がせん」


「え!もしかして帯広の力について何か知っているのか!?

化け物を倒してから力が強くなったらしくて、今それについて話していた所だ」


なるほど…一般人でも化け物を倒すとレベルが上がって強くなるのか。こいつのレベルが上がって魔力を手に入れたから俺らが魔力を感知出来たという事だな。

だが妙だな…このタンクトップの男からは魔力の反応がしない。なのに俺が見えている。逆に魔力の反応がする者は俺を見えていないし…もう何が何だか分からんな。


「…あんたは誰なんだ?てかどうしてあんたの事は二人にしか見えていないんだ?

さっきから俺の頭がおかしくなったとか言って二人が五月蠅いのだが…黙らせるために何か納得できる説明をくれ」


目付きの悪い男と女性は相変わらずタンクトップの男が正常か心配していた。梅垣は一旦「この混乱が起きてから一部の人にしか自分の姿が見えなくなった」と言って、見えてない二人の目の前で近くにある調理器具を動かして見せる事で存在を証明した。


そして3人から何があったのか説明をしてもらった。


魔物を殺した後、加藤のボロボロになった腕が突然元に戻るという奇妙な現象が起きた。だが今は外の状況の方も不味く余裕が無いので、この話は一旦置いておいてここを動くべきか助けを待つべきか店内にいる者と話していた。

暫くし、スマホで魔物達のいる範囲がかなり遠くまで続いているという情報を得たので一同はここで待機するのを選んだ。


だが魔物が死んで以来、帯広の身体には異変があった。

それは自分の身体に力が満ち溢れる感覚がし続けた事。それが帯広の勘違いではなく本当に力が強くなっているのを確認する為、3人でキッチンに行き話し合い、力を試していた。

そして途中で梅垣がやってきて今この状況になっている。



色々詳しく聞かねばならない所などは見受けられたが、取り敢えず梅垣は屋上に移動しようと提案する。

店内にいては清水らが自分の場所が何処か分からないからだ。


3人もそれに従い、外に出る時に店内にいる者に「屋上で化け物が来ないか見張っている」と言って出ていった。

ここでも確かめてみたが、やはり梅垣の姿を見えているのは加藤のみだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そんで俺が今ここで来たって事か…」


「そうだ。それで提案なのだが、この3人からは色々調べられる気がするしこの三人も俺らのグループに参加させてレベルを上げさせてみないか?

魔力の反応がする男、特に何も起きていない一般女性、何故か俺らを視認出来て腕が再生した男。

それぞれの身に起きている事は違うしやってみる価値はあると思うぞ」


「…俺らと会話が出来るコイツから残りの二人にも説明してもらえばいけそうだな。よし、そんじゃコイツら抱えてグループに持ち帰ろう」


二人のそんな会話が聞こえる加藤は「俺らの意思はどうなる」と二人に割って入ろうとしていたが、二人はそんな声など聞かずに3人を抱えて走り出した。

ファミレスの中にいる者達に一切何も言えないまま…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る