第140話 外伝:落ちこぼれの覚醒者2

外伝の話は本編のストーリーに合わせて更新する事にしました。ちなみに外伝と言うほど本編から話は離れないつもりなので、ただ帯広が主人公の回だと思ってください。

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ほ、本当に死んだのか!?ドッキリとかじゃなくて本当に人が…


周囲には外に出ようとする者もいれば、腰を抜かしてその場から動けない者、少しでも魔物から離れようと店内を走り回る者もいる。


「誰か!あの怪物を殺して!」

「だれか行けよ!男だろ!」

「む、無理だって…」


男に魔物を殺してこいと前にいる者の背中の押して揉めたり、子供達の鳴き声や女性の甲高い悲鳴が響く。阿鼻叫喚の店内だ。


帯広も一歩遅れて避難しようと慌てて荷物を持とうとするが、今日買った荷物を誤って落としてしまったので直ぐに回収する。


「グガァァァァァ!」


「ヒィ!」


だがプラモデル製作用のノコギリを拾ったところで化け物が声を出し、ビビってしまった帯広は直ぐに立ち上がる。

その時に化け物と目が合ってしまった。


ヤバイヤバイ目が合った!回収は無理そうだから今は一旦避難しよう!



帯広が後ろに逃げようとしている所で、帯広は何者かに肩を掴まれる。

肩を掴んできたのは高校生ぐらいの男で、如何にも喧嘩慣れしている様な厳つい見た目をしていた。

アスリートの様に鍛えられた身体を強調するかの様なタンクトップ、髪が反り上げられているので良く目立つ派手なピアス。普通の状況でこんな人に肩を掴まれたら誰もがビビるであろう見た目だ。

だが今は異常な状況なのでその者に恐怖心など湧かない。


「どうやらやる気満々なのは俺とあんただけらしい。俺は奴の動きを止めるから、あんたはその武器で奴を攻撃してくれ」


「え…ちょっと待って下さい!やる気って一体何の…」


「何って…あいつを殺すつもりだろ?

あんたのその目と手に持っている武器をみれば分かる」


帯広とその男以外の者は全員後ろに下がっていた。

たった一人帯広だけが残って武器を持ち魔物を睨みつけているのを見て、男は帯広が魔物に立ち向かうつもりなのだと勘違いしているのだ。


「いや…この目つきは親の遺伝だし、この武器みたいなのはプラモデル製作時に…」


「それでも無いよりかはマシな武器だ。…あいつが動き出す前にやるぞ、俺が動いたのと同時に一緒に来てくれ」


「いや私は…」


男はそう言いながら首を鳴らすと、帯広の返答を待たずに前へと走り出した。魔物もそれと同時に素早い動きで距離を詰めてくる。


魔物の動きは常人では反応出来ないもので、そんなものに飛び掛かって来られたら成す術もなくやられるはずだ。だが男は飛び掛かってきた魔物の攻撃を躱して首と腹を掴むと、魔物の背を壁に充てて拘束する。

だが直ぐに魔物は暴れて抜け出そうとし、男の腕を爪で引き裂き、牙を手に食い込ませる。

魔物の抵抗でたったの数秒もせずに男の腕はボロボロになってしまった。


「今だ!斬れ!」


動けずに立ち止まっていた帯広だったが、男が物凄い剣幕でそう言ってきた事でようやく動き出した。


何が何だか分からないけど…もうどうにでもなれ!


帯広は振りかぶって魔物の顔にノコギリの刃をぶつけ、全力で刃を前後に動かす。

だが魔物の皮膚は固く、プラスチック切断用のノコギリではとても首を切断出来ない。


「ジギギギギギギッ!」


だが多少はノコギリで切られている痛みを感じているらしく、拘束を解こうとひたすら暴れる。その時に帯広は腕の一ヶ所魔物に引っ搔かれ、痛みのあまりノコギリから手を放してしまう。

それに比べ、男は腕の肉が引き裂かれているにもかかわらず、痛みを顔に出さずにずっと腕に力を入れ続けて魔物を拘束している。


「あ…ああ…」


帯広は立ち上がって攻撃に戻りたかったが、引っ搔かれた事で魔物に対する恐怖心が帯広の心を染めてしまい、ただゆっくりと後ずさる


「ッ!?逃げないでくれ!俺の腕は平気だから戦ってくれ!」


男にそう言われて足を止める事は出来たが、この足を更に前に踏み出す勇気は無かった。


む、無理だ…その腕じゃもうこいつを捕まえていられないし、近くにいる俺は真っ先に殺される…



「もう少しそいつを捕まえてて!」


そんな時、帯広の後ろから消火器を持った若い女性が走ってくる。女性は倒れた椅子などをジャンプしたりして避けながら接近してきており、魔物の傍に行くと消火器のホースを魔物の鼻の穴に強引に突っ込む。


そして女性がレバーを引くと、勢いよく消火器の中身が噴射された。


「グガァァァァァァ…ガァッ…ガァッ」


鼻から消火剤を大量に入れられたゴブリンは苦しみの声を上げるが次第に動きが遅くなり、数秒後にはピクピクとしか動かなくなった。


「や…やったのか…?」


「も、もう動かなさそうですね…」


魔物が動かなくなったのを確認してから男は魔物の首から手を放すと同時に後ろに倒れる。この頃には男の二の腕より下はもう筋肉や骨が見える位ボロボロで、出血もとんでもない事になっていた。

魔物は鼻から入った大量の消火剤が肺にまで到達して窒息していたのでこれ以降は動かなかった。


ハッとした帯広は直ぐに男の元へと行く。だがどうすれば良いのかなど分からずにただオロオロする。


「大丈夫ですか!?早く救急車を呼ばないと…」


「…この血の量は駄目そうだ」


男はこれほどの怪我なのに一切痛みを顔に出さないままでいる。


「その…痛みは…」


「痛み…ああ、俺って先天性無痛無汗症なんだわ、だから痛みは一切無い。でも…多分これは死ぬな、今から腕縛って止血してもどうにかなるとは思えない…

外だってまだパニック起きてるし多分救急車も来れないだろう」


男の言う通り外のパニックは治まっていない。それどころかより酷い状態になっていたので、店内の魔物を殺せても歓喜に浸る事など誰一人出来なかった。


「そ、そんな…私がもっと役立てれば…」


「気に病まないで欲しい、元々二人で立ち向かうだなんて無理な話だったんだ。それどころか少しでも一緒に戦ってくれただけでも嬉しかったぞ。

それにそこの女性もよくあんな消火器の使い方を思いついたな。あんたのお陰でここにいる全員が助かった」


「私だってもっと早く動けてたら…」


外は騒がしいが店内は比較的静かだった。それは店内の魔物を率先して倒した男がこれから死を迎えるのだと、子供を除く全ての者が分かったからだ。


男の首を支えている帯広は、男の身体がどんどん冷たくなってきているのが分かった。彼がそろそろ死ぬのだという事も分かってしまった。


「せめて貴方のお名前でもおしえてくれませんか…?」


「『加藤 勇気』だ……最後にこんな格好良い死に方出来る奴はそうそういないだろう…な…」


加藤はゆっくりと目を閉じると、それ以降はもう何も話さなかった。


死んでしまった…こんな情けない大人の俺と違って彼はまだ若かったのに…勇敢だったのに…


帯広と消火器を持ってきた女性は加藤の死に涙を流す。二人の頬を涙が伝い、加藤の顔にその涙が数滴落ちる。

これが子供向け物語の世界だったら、この涙で再び加藤は目を覚ましていただろう。





「…中々死なないもんだな」


「「………え」」


本来ならば聞こえる訳が無い声がし、その場にいる全員は呆気にとられる。

帯広と女性が直ぐに目を開けると、なんと加藤と目が合った。


「「加藤さん!」」


「さっきまで意識が飛びかけてたのに、何故か今は意識はハッキリしてるしピンピンしてるんだ」


「でもまだ出血が………………え???」


女性が加藤の腕に目を向けると、女性は目を疑う光景を目にした。

なんと加藤の腕が完全に治っていたのだ。

さっきまで出ていた血で腕は汚れているが、どこも怪我していないいつも通りの手がそこにはあった。


「……もしかして目を瞑っている間に俺の腕生えてきた?」


有り得ないと普通なら否定していただろうが、今起きている異常な状況がそもそも有り得ない状況だったので誰もそれを否定出来なかった。

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