第139話 6防衛クエスト 横浜
〈清水グループ〉
進上らが病院に行っている間も清水グループは魔物を狩っていた。梅垣が魔力感知で周囲にいる魔物の場所が分かるのでかなり効率良くレベルを上げられていた。
最前線には清水、梅垣、その他数人の怠惰側メンバーがいる。
グループ行動したての頃、怠惰メンバー達は「わざわざ強欲側メンバーを前線に出す必要はない」などと清水に言っていた。だが清水は頑なに梅垣を最前線に出すという意見を変えず、リーダー権限で他の者の意見を聞き入れずに行動を開始した。
その結果梅垣は清水に匹敵する程の働きをしたので、その実力を目にした者らはもう梅垣の前線入りに意見することなどしなかった。
一度も攻撃を喰らうことなく数々の魔物を瀕死状態にし、清水の動きについていける。これだけで梅垣の実力の程は皆分かった。
魔物との戦闘が終わった所で、清水は梅垣の隣にいく。
「やっぱりあんた良い動きをするな。一人で使徒と戦っていたと聞いたが、今ならそれもすんなり信じられる。俺と戦っても良い勝負が出来るかもな」
「それはどうも。だが流石にそれはないと思うぞ、明らかにステータスの差がありすぎる」
「まるでステータスの差さえなければ勝てるって言い草だな」
「…好きなように捉えてくれ」
さっきから清水の槍だけどんなに硬そうな魔物も防げず貫通している。この清水という男の物理攻撃のステータス…一体幾つあるんだ?
それにこの前、俺が黒仮面の『独王』で強化された小野寺に攻撃しても、一回の攻撃では切り傷しか与えられなかった(102話)
だが清水はそんな小野寺の身体を容易く傷つけていた。あの時の俺の物理攻撃は200後半だし、清水のステータスはその3倍ぐらいあるのかもしれない…
そんな事を考えている間も、魔物の反応は少しずつ増えていた。
梅垣の『魔力感知』の範囲は半径500m程度で、『魔力探知』とは違って感じる魔力から人か魔物かは判断出来ない。
だが感知の範囲内で突然現れた魔力の反応はほぼ確実に魔物のものなので、梅垣はそれらの反応を全て魔物という前提で周囲の様子を見る。
一つだけレベル1のプレイヤー並みに弱いのがあるな。一応今回の新規プレイヤー達でもレベルを上げれる様にはなっているのか。
だがこれは無視して良いな、弱い奴は効率が悪い…
…ッ!?
その弱い魔力の反応と同方向から、突然大きな魔力の反応が現れた。清水と同程度の魔力なのでレベル90並みの相手なのは確定だ。
「清水さん、向こうに大きな反応がある。あんたと同じ程度には大きいぞ」
先程まで余裕そうな態度だった怠惰メンバー達も、梅垣のその言葉を聞いた途端態度が一変する。クエスト開始前の真剣な表情へと戻り、今上がったレベル分のSPを使いステータスをいじり始めた。
「それは随分と強そうな相手だな。戦えるメンバー以外は一旦ここらに置いて行った方が良さそうだ」
清水はレベル70というラインで待機組と討伐組にグループを分ける。そして討伐組は11人、待機組は29人となった。
梅垣はまだレベル64だが、清水に戦力になると判断されたので特別に討伐組へと入る。
待機組は引き続きこの周辺でレベル上げをするよう清水は指示をだし、討伐組は強い魔力の反応へと向かっていった。
それと同時刻、工藤は魔力探知の兜で奇妙な反応を確認していた。
「え…なにあれ…」
「何かあったのですか?」
工藤の言葉に田村が一番最初に反応し、一旦足を止める。
「もう一つのグループ側に強い魔物の反応がしたのでそれを見てたんですけど…プレイヤーの『青い光』でも、魔物の『赤い光』でもない『白い光』が見えるんです。光の大きさは小さいですけど…」
「白い光ですか…
江口さん、こちらの方に魔力探知をお願いします」
田村の指示通りに江口は魔力探知を使用すると、江口はゆっくり頷く
「彼女の言っている事は本当です、本当に小さな白い光が見えます。でもほんの小さな光で、レベル1の新規プレイヤー並みの魔力です」
「なるほど…人でも魔物でもない第三勢力が現れたと考えるべきなのでしょうか…
取り敢えずそれは向こう側のグループに連絡して確かめてもらいましょう」
白い光について田村は清水に報告する。その報告から、梅垣はさっき見ていた弱い魔力の反応が『白い光』の反応であると分かった。
「どうする?強い魔物と『白い光』の奴はかなり近くにいるから2体同時に相手する事になるだろうが、未知の相手がいるとなると…」
「どんな相手だろうと、田村さんからの命令だしどのみち絶対に行かなきゃならない。俺が強い反応の奴と戦っている間にお前は第三勢力の奴を追ってくれ」
「分かった」
こうして梅垣を先頭に11人で目的の場所へ走り出した。
そこまで距離もなかったので数分で付近に到着した。さっきと変わらずに第三勢力の相手と、強い魔力を持つ魔物の距離は20m程でかなり近くにいる。
一同は最初に強い魔物の方を建物の上から偵察する。
強い魔力を持つ魔物の姿を一言で表すと、ドラゴンであった。道路の二車線を塞ぐほどの赤黒い巨体で、翼を広げたり尻尾を振り回す度に周囲の建物を破壊していく。まだ現れたばかりなので大して建物は壊れていなかったが、この魔物が自由に暴れ回ったら町が容易に崩壊するのは目に見えて分かった。
壊れた建物の瓦礫の下に何十人もの人がいて、うめき声や助けを求める声がする。だがここにいるプレイヤーはあの強敵を前にして、誰一人彼らを助けようだなんて考えてなかった。
ドラゴンを建物の上からじっくりと見て、清水は仲間に警告をする。
「今のうちに言っておくが、あれ程の巨体なら動きは遅いだろ…って舐めてると死ぬからな」
仲間達は黙って頷く。彼らも相当な数のクエストを生き残った猛者達なので今更こんな注意は必要ないぐらいだったが、念の為の警告だ。
そして次に清水は梅垣の方を見る。
「んじゃあお前は第三勢力の奴がいる所に行ってくれ、魔力の反応が小さいとはいえ油断するなよ」
「任せろ」
梅垣が第三勢力の相手がいる方に走り出したのを見てから、清水達は建物の上から飛び降りてドラゴンの方へと向かっていった。
小さな魔力の第三勢力の奴は、変わらずにとあるファミレスの中にいた。店の高さが低かったお陰かドラゴンの尻尾で壊されたのは外柱の上で回っている様な看板だけで、店は原型を保っていた。
だが外から見るだけでも店内がかなり荒れているのが分かる。
梅垣は外からガラス越しに店内を見る。
中では一般人数人が机の下で魔物に怯えていて、店の色んな所に血が飛び散っていた。だが魔物の姿は見えないし、魔力の反応はやはり第三勢力の奴のものしかない。
店内に魔物がいるなら全員逃げているはずだ…つまりこの第三勢力の奴は魔物じゃないのか?
いや、ならどうして店内がこれほど荒れているんだ。もしかして誰か魔物を殺したのか?
用心の為にそのまま店内を見ていると、ドリンクバーの機械前辺りにゴブリンの死体を見つけた。
これでプレイヤーもしくは一般人の誰かが魔物を殺したのだと分かった。
反応があるのはキッチンの方…閉所は思うように動けないし剣も触れないから避けたかったが仕方ない、中に入るか。
梅垣は割れている窓ガラスから店内に入り、ゆっくりとキッチンへと向かう。キッチンの中でずっと止まっている魔力の反応に徐々に近づいていくと、二人の男性の話声が聞こえてきた。
「ほら!なんかあれから力が凄い強くなったんですよ!フライパンだってこんな簡単に折り曲げられますし!」
「火事場の馬鹿力が持続してるだけじゃねぇの?」
「今の状態なら化け物が入ってきても大丈夫そうですね!」
角から男女3人の話声がする。その声がする方から魔力の反応がしており、梅垣はそっと角を覗いてみる。
…ッ!こいつが第三勢力の者なのか!?
これでようやく魔力探知で見た『白い光』の正体が分かった。
魔力の反応は梅垣の目の前にいる体格が大きい目付きの悪い男からしていた。傍らには大切そうにフィギュアを置いており、今は両手でフライパンを曲げている。
誰一人梅垣に気が付かないので、プレイヤーじゃない事は確かだった。
俺が見えていない…つまりコイツはプレイヤーじゃない一般人なはずだ。なら何故コイツから魔力の反応が…
後に『覚醒者』と呼ばれる者と最初に接触したプレイヤーは梅垣であった。
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