第137話 外伝:落ちこぼれの覚醒者1
いつも通りの土曜日になるはずだった。
日々の仕事で溜まっていくストレスを発散する為の土曜。週に1個プラモデルやフィギュアを買い、家で組み立て眺める。そして夜は酒でも飲みながらアニメを見たりして過ごし一日を終える。
そんな一日を過ごすつもりで、とある男が横浜に予約限定の希少フィギュアを買いに来ていた。
その男の名前は『
今年とある商業会社に就職したての22歳。目付きが悪く体格が大きいせいで初対面の者には怖い印象をもたれる事が多いが、性格は温厚。
昔から運動も勉強も出来る方だが人付き合いが苦手で、特に自分の意見を出したりするのが苦手で引っ込み思案である。それ故に職場の者先輩や上司達とも事務的な話しかあまりしない。
そんな彼は、10時頃に限定フィギュアやプラモデル作成の為の道具を購入し、早めの昼飯を食べる為に近くのファミレスに入っていた。
ピザを注文して待っている間、店でついさっき購入した物をビニール袋の上から覗く。
中身は半年間待ち望んでいたフィギュアと、適当に買ったあまり知らないアニメのプラモデル、そしてプラモデルのパーツ切断用のノコギリの3つだ。
今すぐ開封したい所だが…流石にここで美少女フィギュアを机の上に出す訳にはいかない。早く帰って開封しよう…
時刻は10:20。昼前なのにそこそこ人はいるのは土曜だから当然だが、近くで少年アイドルグループのコンサートがやっているので今日はより一層人が多かった。なので店内は少し騒がしい。
店内が騒がしいのは嫌だけど、皆俺と同じく趣味の為にここまで来ている同士だ。はしゃぎたい気持ちも分かるし今日はあまり嫌にならないな。
注文から2分程で店員はピザを帯広の机の上に持ってきたので、それに手を伸ばす。
この時の時刻は10:22、そして秒針は43秒を指している。
キリの良い時間では無いので、この場にいる誰一人として時計に目を向けていなかった。
店員は店の仕事をしている。
他の客達は各々で食事を楽しんでいる。
帯広はピザに手を伸ばそうとしている。
この『一秒後』に世界の歴史に名を刻む事になる大事件が起こると予知していた者はこの場に誰一人いなかった。
帯広もこれから起こる事が自分の人生を劇的に変えるなどと思っていなかった。頭の中は目の前のピザと購入したフィギュアの事しかなかった。
「キャー!」
「わ!うわぁぁぁぁぁ!」
帯広が一切れのピザを口に入れた瞬間、厨房から男女の入り混じった叫び声が聞こえてくる。
周囲の者が何事かと厨房の方を見ていると、厨房から男女3名が叫びながら出てきた。3名とも全身に赤い液体を浴びており、厨房で何か起きてしまったのだと全員が分かった。
その3人に帯広のオーダーを取っていた女性店員が詰め寄る。
「ちょっとどうしたの!?もしかして誰か包丁で…」
「化け物だぁ!化け物が現れたんだ!」
「中村さんが変な生き物に殺された!誰か救急車と警察を呼んで!」
「やばいやばいやばいやばい!厨房に行くな殺される!皆逃げて!」
3人は女性店員の制止を振りほどき、まるで殺人鬼から逃げるかの様に叫びながら店の外に出ていった。
厨房にいなかった店員と席で食事を取っていた客達は全員ポカーンと口を開けていた。化け物だとか聞こえたが、一体何が起きたのか理解出来た者は誰一人いなかった。
な…なんだ?一体何が起きたんだ?あの赤い液体は本当に血なのか?
だとしたら相当重傷なんじゃ…
帯広がそんな事を考えていると、今度は外から叫び声が聞こえてきたので全員が窓の方を向く。
数十人が道路で騒いでおり、さっきの店員みたいに何かから逃げている人々が見える。
そこで放心状態だった女性店員はハッとし、「あいつら…一体何を見たっていうのよ…」とぶつくさと言いながら厨房に入っていった。
数秒経ったが、特に厨房から女性店員の声は聞こえてこない。もしかするとそこまで騒ぐほどの事でもなかったんじゃないかと、ホールにいるほとんどの者は少しホッとする。
だが帯広は違った。
3人があれだけ騒いでいたのに何も声を出さないだなんて…明らかにおかしい!何故だか分からないけど早くこの店から出た方が良い気がする…それに…
帯広の意識は外へと向く。先程から絶えず誰かの叫び声が聞こえてくるのだ。この店内の異常事態と同時に起きた外の騒ぎ、これに嫌な予感がした帯広はすぐに口の中にあるピザを飲み込んで会計しようとする。
ここで帯広が立ち上がった瞬間、厨房から食器が落ちて割れた音が響く。今厨房にいるのは女性店員だけだし彼女が食器を落としたのだと一同は思った。
だが次の瞬間厨房から出てきたのは女性店員ではなかった。
そもそも人間でもなかった。
厨房から出てきたのは三頭身で緑肌の人間似ている生き物だった。身体は幼稚園児ぐらいの大きさで身体は血で真っ赤に濡れており、大きな目でギロギロと周囲を見渡しながらホールへと来た。
「な、なんだ~これドッキリだったのか~」
現実に存在しない生き物を前にし、一人の男性店員がそんな事を言う。そのせいで他の客も「なんだよ…滅茶苦茶ビックリしたわ~」「凄いリアルじゃん!」「え、もしかしてテレビ!?」などと言いながらホッとする。
ほ、本当にドッキリなのか?あまりにもリアル過ぎる気が…
帯広はまだ疑っていたが、ドッキリでホッとした者が大半で、先程までトレーを持って固まっていた男性店員はその生き物に近づく。
だが男性店員がその生き物に近づいた瞬間、その生き物は爪で男性店員の喉を掻っ切った。
え…
その場にいる全員が状況を吞み込めず、一拍ほど沈黙が流れる。だが次の瞬間には店中に多くの悲鳴が響き渡った。
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外伝としてたまに投稿します。週3話の枠は全部本編ですが、たまに週4話で1話外伝を挟みます。
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