第131話 裏切り推進
集合場所の最寄り駅付近にくると、梅垣の魔力感知に幾つもプレイヤーの反応がでる。
「まだ9時だがかなり揃ってるみたいだ」
「変に遅れたら最悪一人でクエストを受けることになりますから、遅れる人はほとんどいないでしょうね。
それに遠くから来てる人は昨日ここらのホテルに泊まったらしいですよ」
梅垣と松野がそんな話していると、内野のスマホに新島からメッセージが届く。要件は駅の改札前で会おうというものだった。木村も既に合流しているらしい。
「あ、新島からだ」と内野が呟いたので、隣りに座っていた工藤が内野の携帯を覗いてくる。
「新島もう着いてるんだ。てか私ら3人が一緒に来たの知ったらいじけちゃうんじゃない?どうして私だけ仲間はずれなのーって」
「あいつはそんな事言うタイプじゃなさそうだけどな。進上さんはどう思います?」
「え、僕?僕は…新島さんに会った回数は少ないから分からない。クエストで会ったのは最初のクエストだけだしね」
あ、そうだった。俺と工藤はゴーレムのクエストで新島に会ったが、その時は進上さんは会えなかったんだ。
内野はそんなことも考えずに進上に話を振ってしまった自分に呆れる。やっぱり自分は人と話すのがそこまで得意ではないのだと改めて認識した。
電車を降りて駅の改札を出ると、駅の地図前に立っている新島と木村の二人と目が合った。
「おはようございます皆さん!」
「おはよう…って、5人で一緒に来たんだね」
「うん、おはよう。家が近かったから5人で待ち合わせして来たんだ」
「ふ~ん、私抜きの同期3人か…寂しいな~」
新島がいじけた様な口調でそう言うので、焦って直ぐに内野と工藤は弁明しようとする。
「いやいや別に新島を省くつもりじゃなくて…」
「に、新島も家が近かったら絶対誘ってたもん!」
「ふふ…大丈夫だよ、分かってるし怒ってなんかないから」
クスクスと笑いながら新島がそう言うので二人は安心する。現実世界で仲間に会えたからか新島のテンションがいつもよりも高い気がした。
「なんか今日テンション高い?」
「そうだね。私はまだこっちでプレイヤーの皆に会えた事が無かったから、なんか皆も本当にこの世界に存在するんだって確かめられた気がして安心で…嬉しくてね」
何となくその気持ち分かると心の中で頷く。新島と木村に会えただけで先程少し擦り減ったメンタルが直った気がした。
こうして木村と新島も加え、7人で川崎達との集合場所へ向かう。その時ハンバーガーチェーン店を見つけ、このメンバーで今のうちに昼飯を軽く食べないかと木村に提案される。
クエストが何時から始まるかは分からないが、クエスト時間は8時間ある。満腹で動きにくくなるのは困るが、軽めに飯を食べておいた方が良いと考えた一同は店に入り、7人で色々話しながら食事をした。仮面達に襲われた時の話、川崎はどんな印象だったか、各々の趣味の話など自由だ。
クエスト前に吞気だと思えるが、これから起こるであろう大惨事の事を考えて気が滅入るよりも、楽しい思い出を作っておきたいと考えるのは当然の心理であった。
飯を食べ終わり集合時間10分前に場所へ向かうと、そこそこの人数が散らばって待機していた。
大橋や森田などの話した事のある面々や、ロビーで顔だけは知っている者達もいる。そして怠惰グループのメンバーと思われる者達もいた。
だが内野は、その場にいるほとんどの者達の視線を浴びていた。視線といってもチラチラと見られるだけだ。
実は昨日川崎から〔集合場所に人が集まりすぎて変に思われないよう、出来るだけ一般人には俺達は赤の他人同士だと思われるよう行動してくれ〕と言われていた。なのでプレイヤーは散らばっており、内野をガン見するのではなくチラチラ見ているのだ。
「こちらを見てくる見知らぬ者達は怠惰側のプレイヤーだな。彼らが知っているのは内野君の顔だけだろうし注目されるのは当然か」
「見られるのは好きじゃないですけど仕方ないですね…」
内野が怠惰側の見知った顔の者を探すために辺りを見回していると、梅垣が大きな魔力の反応を辿って川崎の元まで行けるというので、一先ず内野と梅垣だけで行ってみる。
少し集合場所から離れた所に川崎はおり、そこに怠惰側プレイヤー数人が集まっているのが分かった。顔が分かっているメンバーは田村だけで、残りは木曜日の話し合い時に居なかった者。
田村が二人に最初に気が付き、のんびりと缶コーヒーを片手に視線を内野達に向ける。
「おお、来ましたね。準備…というより覚悟は大丈夫そうですか?」
「…正直まだ優先順位は付けられていません。でも甘い考えを捨てる覚悟はしてきたつもりです」
「なら及第点は超えてますね」
内野と田村のそんな会話を聞きながら、川崎も口を開く。
「一昨日も言ったが、場合によっては君達の内の誰かを置いてきぼりにするかもしれない。その覚悟も出来ているな?
ここはクエスト範囲の中央辺りになるだろうし、クエストが始まってからやっぱり辞めたいというのは無理だ。まだ昼になるまで時間はあるし、離れるなら今だぞ」
「それも大丈夫だろう、ここに来るのは自己責任だと言ってある」
梅垣の返答に川崎は頷く。
「それなら良い、取り敢えず大まかな流れだけ確認しておくぞ」
川崎からクエストの流れについて説明された。
先ずはクエストが開始したらターゲットになったメンバーがどうなるのか確認する。ランダムな場所に転移されたら川崎は単独でその者達を探しに行き、川崎以外のメンバーは全員で行動する。
ここでクエストの難易度を確認し、簡単の様ならレベル上げ効率化の為に二手に分かれるが、難しい様ならそのまま固まって動く。この判断は川崎不在時の場合はサブリーダーである田村がする。
「その他の詳しい事も一応は決めている。恐らく数時間もしないで自衛隊も動くだろうしその時の動き、使徒の様な強力な単体の敵に遭遇した場合、等々ここで話せばキリは無いからここでは言わないけどな。
まぁ…少なくとも軍が動き出してもクエストを受けるのを辞めるつもりは無いとだけ言っておこう。この2ターン目で満足にレベル上げ出来なければ俺達に未来は無いからな」
想像以上に川崎は色々と考えており内野は驚きを顔にする。協力してもらっている立場であるのにも関わらず自分は何も考えておらず、その事を申し訳なく思う。
「何から何まで任せてしまい申し訳ありません…」
「素直に指示に従ってくれるならその方が好都合だ。とにかく君は第一に自分の命を考え、第二に魔物を殺す事を考えていてくれ」
こくんと内野が頷いたのを見ると、次に川崎は腕時計に目をやる。
「取り敢えず清水と小野寺が戻り次第グループ分けについて話そう、何時から始まるかは分からないがまだ余裕はあるしな」
「え、小野寺も連れて来ているんですか?」
「ああ。QPを稼がせて俺達の為に魔力水や蘇生石を買ってもらうつもりだ。ちなみにあいつが持っていたQPは全て昨日のうちに魔力水に変えてもらった」
内野は「なるほど、QPを貢がせるためですね」と納得していたが、梅垣は納得していなかった。
「もし裏切ったらどうするんだ?
魔物との戦闘中に奴に逃げられたら追いかけるのは大変だぞ。それに木曜日の話し合いに小野寺も参加していた以上、あいつは川崎さんや内野君の大罪についての能力も知ってしまった。奴を逃せば大きな情報を向こう側に渡す事になる」
「大丈夫だ、前みたいに魔物を身体に張り付けているからな。それにもしも裏切るつもりならば、奴が行動を起こすのは次のロビー転移が来た時だろう。その時は俺が張り付けさせた魔物も居ないし、奴が情報を話すのを止める事は出来ない。そして俺達は奴が情報を吐いたかどうか確かめようが無い。絶好のチャンスだろ?」
「…やはり木曜日の話し合いに小野寺を同席させたのは不味くないか?」
「梅垣君の心配はもっともだ。現に一番警戒されているであろう『怠惰』と『強欲』の能力について話してしまったからな。これで大罪の力の詳細を知った奴らは作戦を立てて襲ってくるだろう。
だがこれで良い。こうする事で、情報を手に入れた奴らは近いうちに動きをみせるだろう。俺達はいつまでも奴らの相手をしている訳にはいかないからな、早めに向こうから来てもらえるとありがたい。そして奴らにとってマイナスとなる情報も掴ませられるのも大きい。
まぁ…正直言えば裏切ってもらった方が早くこの件が片付く確率は高くなるし、小野寺に情報を流されるのも悪くないと思っている」
俺の『強欲』が成長系のスキルだから、それを知った奴らが早めに攻めてくるっていうのは分かる。
でもマイナスの情報って何だ?
内野がそれを尋ねてみると、川崎は言葉を選びながらゆっくりと話始める
「木曜日の話し合いで俺達は一切嘘を喋っていない。だがあの話だけ聞くと、奴らは一つ大きな勘違いをするだろう。その勘違いが奴らにとってのマイナスの情報、付け入る隙になる」
「そ、そのマイナスの情報とは…」
「残念ながら今はまだ秘密だ」
川崎は人差し指を口の前で立てながら不敵な笑みを浮かべた。
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