第125話 大罪の道
店に入ってきたのはスーツ姿で眼鏡をかけた中年の男で、やせ型という事以外に特徴が無い者だ。
「遅れて申し訳ありませんね。休みを取るのに手間取ってしまい遅れてしまいましたよ」
「いやよく来てくれた田村。急遽予定日を変えたから遅れるのは仕方ない、取り敢えず飯でも頼んで適当に席に座ってくれ」
「分かりました。
で、そちらの4人が話にあった者達でしょうが、どなたが仮面の仲間という者ですか?」
「清水の隣にいるコイツだ。俺の魔物を身体に張り付けて暴れられない様にしているから問題無い」
「なるほど、それに清水さんが隣で警戒しているみたいですし問題無いですね」
田村という男はそう言うと、二階堂にコーヒーを頼んで空いているカウンター席に座わる。
田村が座った時、内野達が店に入ってきた時に警戒していた佐々木という中学生ぐらいの青年は肩をビクッと震わせていた。
「あれ、佐々木君、顔色が悪いみたいですが大丈夫ですか?」
「も…問題ありません…」
佐々木が震え声でそう返すと、田村は「それは良かったです」と言いながらほくそ笑む。
内野達に強気に出ていた佐々木がどうしてこんな反応をしているのか気になっていると、二階堂が注文を持って来ながら軽く説明をする。
「以前田村さんに叱責+ボコボコにされてからああなっちゃったんだよね」
「彼の事を思ってやっただけですよ。
ステータスの力を手に入れて英雄気取りになった彼を止めるのにはあれしかありませんでした。それに最初に攻撃してきたのは彼ですから、あくまでも正当防衛です」
何があったのか知らないけど、やっぱり怠惰グループでも強さの序列はあるんだな。川崎さんが一番だとして、次にくるのは誰なんだろう?
「こっちでは梅垣さんが一番強いのですが、怠惰グループではどなたが強いのですか?」
気になったので内野が尋ねてみると清水が答えてくれた。
「トップはもちろん川崎さんだ。レベルは……今幾つでしたっけ?」
「139だ。怠惰で出した魔物が敵を倒しても俺のレベルが上がるからここまで上げられた」
139!?
どうりで梅垣さんが桁違いに魔力が多いと言っていたわけだ。
「次が俺だな。レベルは98と川崎さんに比べたら見劣りするが、これでも怠惰で2番目にレベルが高い。
そして次が田村さん、二階堂のどちらかだろう」
「私は近距離戦・遠距離戦の両方が出来て、そしてヒールも使えるオールラウンダーなの!前に出る事しか出来ない政宗(清水の下の名前)とは別の強みがあるのよ!」
「そんな序列どうでも良いですね。各々得意な分野が別ですし不毛な議論になる気しかしません。
それより何処まで話は進みました?一応重要なことは随時連絡を受けていたのですが、駅からはスマホをいじっていないので分からないんですよ」
二階堂は清水に突っかかるが田村はそんな事気にせずに話を移す。
「これから土曜日のクエストについて話そうと思っていた。
こちらは40人ぐらいまでなら連れていく事が出来るから、協力してクエストを受けるのなら誰を連れていくか選出してもらうつもりだ。当たり前だが憤怒グループも協力するのならこの40人の枠を分けてもうらうし、慎二はその枠に必ず入れてもらう」
川崎はそう言うが、笹森は自分の仲間と動くらしいので40人の枠は強欲グループだけで使って良い事になった。
だがここで田村が手を上げて川崎に意見する。
「川崎さん、協力には賛成なのですが40人も介護するのは厳しいですし20人ぐらいで良いのでは?
最長で20回しかクエスト受けていないとはいっても既にある程度才ある者の目星は付いているでしょうし、そういう方々を集中的に鍛えた方が良いかと思います。40人だと中に育てても無駄な者も大量に紛れてしまうし効率が悪いです」
川崎の意見に田村はそう返す。内野としては40人という川崎の意見が通ってほしいが、他の怠惰のメンバーは田村の意見に賛同する者が多い。
今の強欲グループのプレイヤー人数は80ぐらいだけど、そのうちの40人は昨日新しくプレイヤーになった人だ。その人達については良く知らないし、連れて行くとすれば黒狼のクエストを生き残った40人。
だから40人連れていきたいけど…
「一ついいですか?」
梅垣が手を上げて意見する。
「既に慎二君に聞いているだろうが、強欲グループは前のクエストで新規プレイヤー達の信用を失う作戦を決行した。だから出来ればこれ以上彼らの信用を傷つけたくはない。
昨日のロビーで来た新規プレイヤーを除けばこっちはちょうど40人ぐらいだし、40人にしていただけると有り難い」
そんな梅垣の意見にすかさず田村が返す。
「その中に才の見込みがある者は何人いますか?
中には魔物に恐怖して動けない者・戦闘の才が全く無い者もいるでしょうし、そういった方々は共に行動して強くしたって無駄なので今のうちに聞かせてください」
「…20人も居ないと思うな。俺が見る限り10人ぐらいだ」
「おお、貴方がここで「40人全員が見込みある」とか言って全員を連れて行こうとする愚か者でなくて本当に良かったです。強欲の内野君の意見も是非とも聞かせて下さい」
「確かに梅垣さんの言う通りだと思います。でもそんな理由で20人しか連れて行かなかったら更に皆からの不信感が…」
内野がそう言っている途中で、田村が咳払いして話を一旦止める。
「すみません、先に聞いておかねばならない事がありました。
皆を救う・誰も取り残さないなどと、まさか佐々木君みたいに貴方までそんな英雄思考を持っていたりしませんよね?」
田村は真顔でそう訪ねてくる。そこまで強い口調でも厳つい顔じゃないが、何故か内野は冷や汗が出てきた。魔物に対する恐怖とはまた違う恐怖を田村から感じたのだ。
だが田村の質問に嘘をつくわけにはいかないので、素直に自分の考えを話す。
「全員を助けるのは無理だと思っていますが…手の届く範囲にいる人は助けたいと思っています」
「なるほどなるほど…貴方はこのクエストを随分甘く見ているみたいですね。
まだ普通のプレイヤーがそう言うのは構わないのですが、大罪である貴方には許されませんよ」
「ど、どうしてですか?
大罪と言ってもただ強いスキルを持っているだけですし、俺がグループのリーダーって訳でも無いので、自分がどう考えようと自由なはずです」
内野の言葉を聞き、田村は「はぁ…」と深いため息をついて呆れた様な表情になる。
「…君はこれから自分が進む道が、仲間と共に進める希望溢れた明るい道だと思っているのですか?
それは違います。断言させてもらいますが、大罪の貴方が進む事になるのは仲間の屍で作った血肉の道ですよ。そして今の貴方の認識では確実にその道を渡りきる事は出来ません。
大罪は二度と生き返れないというルールがある限り、貴方は仲間を犠牲にしてでも生き残らなければなりません。当然ですが大罪の貴方が死ねば強欲グループ全滅はほぼ確定なので、貴方は仲間の為に仲間を犠牲にしなければならないのです。
その現実に、手の届く範囲にいる人は助けたいなど甘い考えをしている者が耐えられると思いますか?
命はあっても心が死んでしまえば、もはやそれは貴方の死を意味するのと同義。高い理想を掲げていた反動で心が壊れないように今のうちに考えを変えておいてもらいたいのですよ」
田村の淡々と連ねる言葉を聞き、内野は自分の認識が甘かった事に気が付く。
たった数時間しか一緒にいなかった新島が3回目のクエストで死んだときの胸の痛み。俺はあんなのを数十回も味わわないといけないのか…想像するだけで怖いし…多分田村さんの言う通り俺の心は壊れてしまう…
何も返せずただ下を向いている内野を心配し、二階堂が田村に小声で話しかける。
「田村さん、まだ内野君はクエスト経験が少ないしただの高校生です。流石に脅し過ぎじゃ…」
「クエスト経験が少ないただの高校生だからですよ。大罪という立ち位置がどれだけ辛いものなのか、今のうちに覚悟して備えておかねばなりません。
大罪には立ち止まる事すらも許されないのですよ、立ち止まって息を整えている間にもクエストは迫ってきますからね」
田村は容赦なく内野に厳しい現実を口にする。それを聞いて内野は微かに震えていた。
そして目にはうっすら涙を浮かべていた。
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