第124話 使徒の力
怠惰グループの者達は深刻そうな表情になったので、それを不安に思い直ぐに笹森が聞き返す。
「な、なにかマズイ事でもありましたか?」
「…参考までに聞かせてもらいたい。今生存している君らのグループの中で、まともに戦闘が出来る者はどの位いる?」
「まともに戦闘が出来る者…レベルが高い人って事ですか?」
「レベルが低い云々ではなく、クエストで魔物や人間の死体を見てもPTSDに陥っていない者だ。躊躇なく魔物を殺し、人間の死体を見ても取り乱さずにいられる者が何人いるかという質問だな。
ちなみにこの条件を満たす者は怠惰グループでは50人ちょっとしかいない、現在のプレイヤー数は170人近くいるのにな」
「待ってくれ。そっちは50回もクエストを受けているはずだが、流石にそれは少なすぎないか?」
川崎の言う50人という数字に梅垣は少なすぎると疑問を口にする。そして川崎も自虐するようにそれに同意する。
「俺もそう思うな。毎回20人ぐらい新しい者は入ってくるのに、ここまで残った戦える者はたったの50人だ。
だがそれも、俺達の相手に人間似の魔物が多いせいだろうな。普通の動物型の魔物を殺すのは案外ほとんどの者が出来るが、人型の魔物となると話が変わってくる。
第一に半数以上の者がその魔物を殺す事が出来ず、第二に精神障害に陥る者が現れる。この二段階を超えた者もクエストで何人も死亡し、結果がこの様だ。
だが、その分残った50人には絶大な信用があるぞ」
川崎の言葉を聞き、周囲の怠惰グループの者は全員誇らしげな顔になる。ここにいる全員がその50人にあたる者だからだ。
だがその後、川崎の口から厳しい事を言われる。
「俺達は50回のクエストでじっくりと信頼できる仲間を集められたが、君達はそうでは無い。
クエスト経験が少ない強欲グループは勿論そうだが、正直これは憤怒グループにも当てはまる。
2ターン目のクエストでは現代での戦闘。当然一般人が大量に死ぬだろう。更に今回は7グループともクエスト場所が同じだから、恐らく俺達の方の人間似の魔物とも戦闘になる。
この二つがあるから、今まで憤怒の所のクエストでは戦えていた者も次のクエストではどうなるかは分からない。最悪クエスト途中で戦えなくなる者も現れるというのは肝に銘じておいてくれ」
「…ですね。私自身もそうならない様に願います」
強欲側二人は当然だが、笹森も気合を入れ直す。
川崎に現在いるプレイヤー数は80人程度とだけ伝えると、川崎は一旦プレイヤー人数の話をやめ、各々の疑問や質問を口にする事になった。土曜日のクエストについては川崎が「あと30分ぐらいである者が来るから、そいつが来たら話し合おう」と言ったのでお預けだ。
内野は予め皆から聞いておいた質問内容のメモなどを見ながら質問していく。
・怠惰側のプレイヤー人数、平均レベル(飯田)
プレイヤー人数170人、平均レベル45。
・複数人で魔物を倒すと、個人個人の上がるレベルは下がるのか。ゲーム的に言えば経験値はどう分配されるのか(森田)
何人で倒そうと一人当たり貰えるQPが変わらない様に、経験値も人数が多くてもあまり変動しない。ただ明確な数値が無いのであくまでも感覚的にしか言えない。
・今後強欲以外のグループとどう交流するのか(松平)
基本は友好的に交流。いずれ笹森経由で憤怒の平塚とも会おうと考えている。
ちなみに2ターン目のクエストは出来るだけ強欲グループのサポートをするつもり。
・呪いの装備について(工藤)
稀にガチャから出てくるものとしか分かっていない。
アイテムにスキルの効果が付与されているもので、解呪石を使う事でデメリット無しでそのアイテムを使用できる。呪いが複数重なっている事もあり、解呪石一個で呪いは一つしか直せないので、多い時は3つ必要。
現在見つかっているデメリットは、装備を外せない、MPの減りが速くなる、一部ステータスが下がる、装備していると負傷する、ヒールされない、気分が悪くなるといったものだ。それぞれの効果にも強弱はある。
・スキルガチャとかの中身(飯田)
通常スキルレベルアップで手に入るスキルは、例えば『アイス』→『ブリザード』と属性関連で繋がるものが多い。だがスキルガチャのものは全く違う系統のものが出てくるので、違う系統のスキルが欲しい時にやると良い。
それに所持スキルが多くなるとスキルレベルアップで新スキルが手に入らない事が増えてくるので、それにより行き詰った場合にガチャをする。
・無詠唱のコツ(松野)
無詠唱には才能の差がかなり出る。10回で無詠唱に成功する者もいれば、その5倍やっても出来ない者もいる。
通常、詠唱時のスキルは融通が利かない。少しでもMPが無ければ発動できないし、スキルの操作もあまり出来ない。
だが才能ある者は詠唱した時でも、多少MPが足りなくてもスキルを発動出来る。これでスキルの才があるか確認するのが一番手っ取り早い。
・川崎の好きな食べ物と好みの女性のタイプ(尾花)
麵系は基本好き、タイプは秘密。
ここまでは内野が尋ねたもので、ここからは川崎の質問が始まった。使徒について、他グループのクエストの状況などの話だ。
憤怒グループの使徒は巨体のカマキリみたいな魔物だという。先程笹森が言っていた真っ暗な空間というのを鎌を振って作り出す能力を持っていた。
真っ暗な空間というのは空間に穴が開いた様なものであり、真っ黒な異空間へのゲートが空中にあるという感じらしい。だが大きいものだとそれが数メートルにも渡り地面にあり、足を滑らせてそれに落ちた者は帰って来れず死んだ扱いになった。
それは平塚の『憤怒』で出した闇すらも異空間へ送るので、破壊する手段は今の所無い。
傲慢グループの使徒は赤い熊。おどろおどろしい黒い波を放つのだが、当たってしまった者は恐怖の感情を植え付けられる。一度当たって植え付けられた恐怖はクエストが終わっても消えず、精神障害に陥ってしまう者が多かった。
クエスト範囲には荒れた大地が多く、緑の木々が生い茂っている所などほとんどない。
『傲慢』の椎名がほとんど一人で倒してしまったので詳しい事はよく知らない。
強欲グループの情報の説明は梅垣がした。
『無冠の王の使徒』という名前。黒狼が自殺しようとした事や急に動きを止めた事。黒狼のアイテム説明欄にあった『主を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼』という文。次の『強欲』持ちが現れるまでに発生した空白期間など、話せるものは全て話した。
だが、肝心の使徒特有の能力というのは浮かんでこなかった。
さっきの塗本の話では使徒の持つ能力は王が持っている能力と近いものらしく、2ターン目に出てくる使徒も同様の能力を持つと考えられるので、今のうちにそこをハッキリさせておかなければならない。
一応候補として挙がったのは、黒狼の使っていた雷と、最後のクエストで他の魔物を呼び寄せた黒狼の遠吠え。
雷はよく使っていたが、遠吠えをして魔物を呼んだのはその一回限り。なので雷の方が王の能力という線が濃いが、遠吠えの方が使徒の力という線もまだ充分にある。
「強欲グループの使徒の能力については、その二つが使徒の能力とはまだ断定も出来そうにないな。2ターン目で遭遇してみないと分からないが、『無冠の王の使徒』名前も何かのヒントになるかもしれないし、頭に入れておこう」
川崎がそう言い終わった所で、梅垣は店のドアの方を見る。
「さっきから近づいてきていた大きな魔力を持つ者が店の前に来たみたいだ」
すると梅垣の言う通り一人の男が店に来店してきた。
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