第123話 カラサワ

いきなり他の異世界系の作品みたいになりましたが、しっかりこれは『囚われの魔物狩り』の話です。

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「私がとある村のオーガで、『バウ』という名前だった時の話です…」



とある森の中の集落には数十頭のオーガが暮らしていた。オーガは全長3メートル程の二足歩行の生き物で、角がある事以外は人間とはほとんど変わらない生き物。

そして彼らは『日本語』を使って意思疎通をしており、狩猟や農業をして生活をしていた。


村で誕生したバウという名前のオーガ。彼はとても好奇心旺盛でよく森の外に出ようとし、その度に母に怒られていた。


「村の外には行ってはダメよ。村の外には王国人がいて、見つかったら私達は殺されてしまうの。『カラサワアズサ』様が王国人を全滅させるまでは森から出られないの」


数十年前にこの集落を作った者が伝承として伝えた話だが、伝承として残されているのは、カラサワアズサが王国人を全滅させるまでは森から出てはいけないという事だけ。だからカラサワアズサ・王国人が誰なのかなどは誰一人知らずにいた。

だがカラサワアズサという者は神の様に崇められており、集落の中央には像すら建てられていた。オーガよりも小柄な女性の像だ。

プレイヤーに会った今では分かるが、これは日本人女性の像であった。少なくともオーガ達は自分達以外に人型の魔物は知らず、この石像の者もオーガだと思っていた。


森の中で数年過ごし、次第に伝承にウンザリしてきたバウはある時その像を破壊してしまった。

毎日のように像に向かって膝を付いて祈っている皆の姿、代わり映えしない森の中で一生を過ごすつもりの者達、そんな彼らへの不満が爆発したのだ。


村の者はそんなバウに罰を与えた。それは集落の少し離れにある湖の底で、稀に見つかる青色の綺麗な宝石を見つけるまで集落に帰れないというものだ。



この世には生き物を殺せば殺すほど強くなれるというルールが存在し、バウは強くなるために多くの生き物を殺していたので、オーガの中ではかなり強い方であった。

なので水中で他の生き物が襲ってきてもある程度は対象可能で、湖の底に長時間潜って目的の物を探す。


そしてバウが青色の宝石を手に入れて湖から上がった直後、集落の方から皆の悲鳴が聞こえてきた。

何事かとバウが駆けつけた頃にはオーガの集落は、森では見たことが無い二足歩行の生き物達によって潰されていた。集落を襲ったのはオーガ同様に日本語を話す肌が紫色の悪魔みたいな魔物。彼らはオーガ達を抵抗できない状態にする為に四肢の筋肉を削いだ後、巨大な檻の中へと雑に放り込んでいた。


「王国の復興の生贄になれ」

「カラサワを殺す為だ」

「オーガはカラサワの攻撃対象にならない」


などと敵が言っているのをバウは聞いていて、王国という単語により彼らが伝承にある王国人というのが分かった。


あの伝承は本当だったんだ…もしかしてこうなっているのは俺があの石像を壊したからか…?


焦燥に駆られて直ぐにでも動きたかったが、バウには何も出来なかった。オーガの中でも強かった者達が相手一体に蹂躙されているのを見てしまい、自分にはどうする事も出来ないと考えたからだ。


何も出来ないと悟りバウが一度安全な所まで引こうとした時、一体の敵に姿を見られてしまった。


「まだオーガが残っている!」

「脚を切断しろ!」


後ろからそんな声が聞こえてくるが無我夢中で走って逃げる。だが相手の方が圧倒的に強く素早く、地の利があっても直ぐに追い付かれて相手の軽い爪の一振りで脚を切断されてしまった。


そんな…俺の、俺のせいだ…

像を壊したから王国人が来てしまったんだ…カラサワアズサ…様の加護が無くなってしまったんだ…


脚を切断された痛みを感じなくなる程の後悔がバウを襲う。

そして最後にバウが縋ったのは、今まで気に食わない存在であったカラサワアズサであった。


「カラサワアズサ様!どうか皆をお救い下さい!

俺と違って皆は伝承に従ってを従っていました!だから…」


空に向かってそう叫ぶバウの顎を、王国人は軽々と大きな爪で引き裂く。


「死体でも活用方法があるらしいしこの個体ぐらいは殺しても問題無いか。

てかよ…揃いも揃ってカラサワアズサ様、カラサワアズサ様うるせえんだよ。カラサワがお前らの救世主的存在なのは分かるが、所詮は魔王様に一度殺された人間だ。この計画が成功すればアイツも死ぬし期待するだけ無駄だぞ」


顎を引き裂かれたので出血は酷く、死が迫ってきているのが分かった。そしてバウは最期までカラサワアズサという存在に助けを乞いながら目を閉じる。




〔それじゃあカラサワの使徒にでもなって生き延びる?

使徒の力を使えばこの状況を打開できるし、それに囚われた仲間のオーガを助けられるかもしれないよ〕


薄れていく意識の中、突然頭の中にそんな声が入ってきた。


〔声を出せないだろうけど心の中で念じてくれれば聞こえるよ。あ、でももう数秒で君死ぬから決断は早めにしてね〕


…なる!使徒というのになる!


少しでも希望があるのならと、バウは声の通り心の中でそう念じた。すると次の瞬間には意識は鮮明になっており、自分がさっき倒した湖の生き物になっている事に気が付いた。


〔これが僕の与えた使徒の能力、魂を移して他の生き物の身体を奪えるというものだよ。その身体はさっき君が殺しそびれた生き物の身体ね。

基本は気絶している生き物の身体にしか入れないし、乗り移る先の身体があまりにもボロボロだと乗り移った時にその負傷の痛みを感じる事になるから難しい能力だけど、使いこなせばきっと君の望みは叶うよ〕


俺の望み…この力があれば皆を救えるのか!?王国人にも勝てるのか!?


〔ああ。その力は唐沢からさわの持つ力に近しいものだし、君の頑張り次第ではきっと王国人を滅ぼす事が出来るはずだ。唐沢からさわと共にね。

でも今の君は弱い、王国人一体殺す事が出来ない程ね。だから仲間を救うのには強くならないといけないんだよ〕


強くなるのには一体どうすれば?

これまでの様に生き物を殺していけば強くなれますか?


〔効率はかなり悪いね。でもとっておきの獲物がいるから大丈夫〕


声の主がそう言うと、突然頭の中に森の俯瞰視点の光景が流れてきた。俯瞰視点には5つ赤い点があり、ズームして見るとその赤い点が狼だと分かった。


〔2日後、この範囲に人間というオーガに似た二足歩行の生き物が多数やって来る。そいつらを殺すんだ。でもこの俯瞰視点にある赤い点の魔物が全員殺されると人間達はいなくなっちゃうから気を付けてね。

使徒はその人間を殺す事で強くなれるから、他の魔物よりも最優先に殺すと良いよ。この湖からは少し離れているけど、今の君の身体は一応陸にも対応している生物だからこの場所に行くのは問題無いと思う〕


…分かりました。

ですが一つ聞かせてください、貴方は一体何者なんですか?


〔それは教えられない。でも利害は一致している仲間同士ではあるから安心して、僕は君の仲間だよ。君は自分の望みを叶える為に動いていれば良い〕


ありがとうございます…俺にもう一度チャンスを与えてくれて…


これを最後にこの声は聞こえなくなった。

こうしてバウは唐沢の使徒としてこっちの世界に現れたプレイヤー達を殺して強くなっていった。使徒はクエストに出るも出ないも自由なので偶にクエストに行かず、王国人が何処にいるのかなど探っていた。

だが王国人を見つける前に川崎に捕まってしまい、今では使徒の力も使えなくなっていた。




使徒の話は4人にとって衝撃的なものであった。

驚くべきところが沢山あって4人は何処から質問すれば良いのか分からずにいた。そんな反応を見て川崎はまとめに入る。


「この話で分かる重要なことをまとめよう。

・過去にも異世界に転移した日本人がいた、そして俺達が倒すべき『王』とはその日本人

・『使徒』と『王』は直接的な関りは無い

・あの世界には王国人・魔王という『王』・『使徒』とは別の勢力がいる。

オーガや王国人が日本語を使っているのは、恐らく異世界に転移した日本人が広めたからだろうな」


まさか異世界がこんな事になっているだなんて思いもしなかった…

一応異世界に文明の跡があったから、もしかするとこっちにも人間がいるのかもしれないとは思っていた。だがその文明の跡は王国人という者達の物なのかもしれない。


「それじゃあ僕らは使徒と王、王国人と魔王を倒さないといけないんですか?」


「それはまだ分からないな。それに俺の予想が当たっていれば敵はもっと多いぞ」


「え、もっとキツい状況になるんですか?」


「ああ。

内野君らがここに来る前に小野寺に聞いたのだが、どうやら傲慢グループのクエストでは荒れた大地が多いらしい。

そしてさっき笹森が言っていた『クエスト範囲にある真っ暗な場所』、これは他グループの誰一人分からなかった。

これらから、俺達が受けているクエストの場所はかなり離れていると考えられる。だから怠惰グループの所に王国人がいるように、他グループの近辺では他の勢力がいる可能性がある。

俺達が倒すべきは『王』だが、クエストでその他の勢力と遭遇したらそいつらとも戦わなければならない」


この話を聞いて、内野は隣にいる梅垣に尋ねる。


「梅垣さんは王国人みたいな勢力に遭遇した事ありますか?」


「無いが、ゴーレムの核があった地下の文明の跡からして文明人がいるとは思っていた方が良いな」


「うう…出来れば最後まで会いたくないですね。二足歩行の人間似の魔物とかあまり殺したくないですし」


「…!?」


内野がそう言った瞬間、川崎や怠惰グループの者は少し驚きながら内野の方を見る。

そして川崎は4人に尋ねる


「もしかして君らの方にはゴブリンみたいな人間似の魔物は居ないのか?」


「ああ、俺は見たことがない」

「俺の所もありません」

「私も知らないですね」


これを聞いて川崎らの顔は少し険しくなった。

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