第122話 使徒という男

クエストクイズは残り二問となったが、先程の早いペースで問題は続く。


・七問目

『鉄の剣が二本ある。一つはレベル100の者が買った物で、もう一つはレベル1の者が買った物。双方の剣をかち合わせた時、刃が欠けるのはどちらか』


正解はレベル1の者が買った剣。

QPで買ったアイテムは、同じアイテムでも所有者の強さによって多少性能が変化する。所有者ごとにアイテムが多少変化しているのは、購入したアイテムが自分のサイズに合わさっている事からも推測出来たという。


ちなみにアイテムの譲渡には渡す側と受け取る側が認めなければならず、両者その条件を満たしながら手渡しでアイテムを受け取ると、受け取る側に触れた瞬間にそのアイテムは変化する。


この問題辺りで、二階堂は自分達にクエスト関連の知識を与える為にこんなクイズを出してくれているのだと何となく察せられた。


そしてようやく最終問題となる。クイズの点数は小野寺と笹森が拮抗しており、経験が少ない内野・梅垣の強欲グループの点数は少し離れていた。


「さあさあ最終問題!

強欲チームは点数の差があるけど、最後の問題はとても難しいから10ポイント!だから強欲チームも単独で正解したら逆転勝利が狙えるよ!」


とても難しい最終問題という事で緊張が高まる。別に優勝したいから緊張しているという訳ではなかったが、やはりやるからには勝ちたいという思いが皆にあった。


最後の問題は画用紙を使わず、二階堂の口頭で発表される。


「それじゃあ最終問題!

今この場にいる怠惰メンバーの中に、実は川崎さんの『怠惰』で出した者が紛れ込んでいます。それが誰だか当ててみてください!」


「!?」


内野達は一瞬二階堂が何を言っているのか理解出来ずに固まり、目だけで怠惰メンバー達の方を見る。

当たり前だが、さっき出したゴブリンや小野寺に張り付いている虫以外の全員人間だ。


『怠惰』で人間を出したということは一度人間を吞み込んでいる事になるよな…いくら川崎さんでもそんな事するか…?

大きい実験をするのは控えてると言っていたし、人体実験なんかしてる訳が無いよな?


怠惰側のメンバー達は驚きもせず変わりなく席に座っている。この事からこれが二階堂のついた噓という線は無いと考え、直ぐに川崎に問う。


「川崎さん…これって本当ですか?本当にこの人達の中に『怠惰』で吞み込んだ人が居るんですか?」


「ああ。だがスキルの検証に人体実験をしたくてやった訳ではないし、仕方が無かったんだ。

それにその者が人間かどうかは各々の認識によるな。少なくとも純粋な人間とは俺は思わない」


純粋な人間じゃない?

え、もしかして異世界系によく出てくる魔物と混血の人間がいたりするのか?

いや…でも怠惰メンバー13人の顔を見ても、明らかに全員日本人だ。この中に人間以外がいるとはとても思えないぞ。


4人ともこの問題に悩んでいると、小野寺が急に何かに気が付いたかのようにハッとした顔になった。

その表情に怠惰メンバーは「まさか分かったのか!?」と言わんばかりの驚きの表情をしていた。


小野寺は挙手してから一呼吸し、晴れやかな表情でゆっくりと答えを口にする。


「この中に人間以外の者なんて居ない、きっとそれが答えなn…」


「ふざけてんのか?小野寺、お前0点だ」


最後まで言い切る前に清水が口を挟み、小野寺の頬をつまむで無理やり座らせる。

小野寺が「痛い痛いです!それにふざけて言った訳なんかじゃありませんって!」と必死に言った事で、ようやく指を離してくれた。


「本当にそう思っただけなんですよ。話し合いしていた時の皆さんの反応を見る限り、全員が会話の内容を理解して聞いていた感じしましたし、どう見ても全員普通の人間にしか見えないんです」


「残念ながら居るんだよ。それにつねったぐらいで大袈裟だぞ」


「いや、マジで痛かったんですよ?

自分の物理防御力が低いのは昨日話しましたし…少しぐらい加減してくれても…」


「これでも加減したつもりだ。本当は敵であるお前に加減する必要なんか無いのにしてやったんだ、頬潰されなくて感謝しろよ」


仲良しの友達みたいな事をしている二人を川崎が止め、再び川崎は内野達の方を向く。内野達は誰一人として怠惰で吞み込まれた人間?が誰なのか分からず頭を悩ましていた。

その反応を見て川崎達怠惰グループの者の口角は少し上がる。


「二階堂の少し意地悪な問題だったな。なら答え合わせと行こう」


川崎がそう言うと、川崎の後ろ側の席に座っていた一人の男が立ち上がる。釣り目の20代半ばの男で、どう見ても普通の日本人だ。


「塗本、自己紹介してみろ」


「どうも、私は使徒です。日本での名前は塗本ぬりもと清弘きよひろです」


「!?」


自分を使徒と言う男に驚きつつも、質問をしてみる。


「え、本当に貴方が使徒なんですか?どう見ても日本人にしか見えないんですけど…」


「そうですよ。この身体は私の本当の身体では無いですから、見た目では分かりませんよね」


男は丁寧な言葉使いで返答してくる。

あまりにも流暢な言葉で、本当は使徒だと言われても内野達は信じることが出来なかった。


そんな3人の反応を見て、男は川崎に小さな声で「信じてもらえてないようなので、川崎さんの口から説明していただけませんか?」と言う。

こうしてこの者についての説明が始まった。



最初に説明されたのは使徒の能力。この使徒は自分の魂を移し、他の生き物の身体に乗り移れるという。

だが誰に対しても何時でも使える訳ではなく条件がある。それは乗り移る対象が気絶している時・MPが0でステータスが無い時にのみ発動出来るというものだ。


川崎達が最初にこの使徒と遭遇したのは3回目のクエスト。

赤い鳥の魔物に乗り移っていた使徒と戦っていたのだが、ある者がスキルで使徒の羽を貫いて落とした時、使徒は近くで気絶していたプレイヤーに乗り移った。

使徒の魂がプレイヤーに移ったので、元々の鳥の魔物の魂が意識を取り戻して暴れるが、その後すぐに鳥は殺される。

これで戦闘終了だと一同が油断した所で、使徒は乗っ取ったプレイヤーの身体を使い、近くにいた者を殺して逃げ去った。


当時何も知らなかった川崎達は急な仲間の裏切りにしか思えず、その男を追いかけて殺す。だがまたしても殺される寸前に使徒は他の魔物に身体を移しており、使徒はそのまま能力を誰にもバレる事なく逃げて行った。



こんな事を繰り返しているうちに川崎達は異変に気が付き、クエスト30回付近でようやく使徒の能力が分かった。


条件もある程度分かったので、使徒が周囲の誰にも乗り移れない状態で殺せば使徒の魂も死ぬと考え、作戦を決行する。


数回は失敗したが、遂に41回目のクエストにて『怠惰』による使徒の捕獲に成功した。この時の使徒は『塗本 清弘』という男の身体を乗っ取っていて、その状態で『怠惰』の闇で吞み込んだから、今の使徒の姿は塗本という男の身体になっている。



「これで人間の身体を吞み込んでしまった理由にも納得できるだろ?」


「はい。でも気になる事があるのですが、今の使徒が他の身体に乗り移ったらどうなるんですか?」


もしかすると使徒に逃げられるんじゃないかと内野は懸念していたが、それは使徒本人の口から説明される。


「生憎それは出来ません。この闇で形成される身体になってからは魂を外に出す事が出来ず、私の使徒しての能力は完全に無くなりました。

なので今の私は川崎さんに絶対服従の奴隷みたいなものですよ、命令以外で人を殺めるつもりはありません。この身体で死んだらきっと本当の死を迎える事になるでしょうし、今や川崎さんに生殺与奪に握られています。反抗しようなど微塵も思いません」


「もうこいつを吞み込んでから1ヶ月以上経つがこいつは他の身体に乗り移ろうとしてないし、恐らく全部本当だ」


この説明により使徒が暴れない事に納得出来た。次に梅垣が疑問を口にする。


「それじゃあ今のお前は全て正直に話してくれるんだな。

なら聞かせてくれ、お前は『クエスト』について何処まで知っている。俺達の前に立ちはだかる『使徒』『王』とはどんな存在だ」


「それでは私が知っている全てをお話しましょう。

先ずは私が『使徒』になる前の話…生い立ちから全てを…」



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クイズの優勝賞品である割引券は笹森が貰った

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