第119話 大罪の力
先ずは内野から『強欲』について説明していく。
「一言で言えば、闇で吞み込んだ相手のステータス・スキルを奪えるというものです。
強力なものですが、一回の使用で全MPが無くなったり気絶したりなどがあるので連発して使うことは出来ません」
強欲の能力に周囲の者は驚きの声を上げる。
「とんでもない速さでステータスを上げられるのか…」
「これは頼もしいな、使徒とか強い魔物を吞み込んだら最強じゃないのか?」
「いや、それなら川崎の『怠惰』で吞み込んだ方が良いだろ」
『強欲』の能力を知り、先程まであった内野達に対する懐疑の目は薄まる。
わざわざレベルの高い者がいない強欲グループと組む必要があるのかなどと思っていた者が大半だったが、『強欲』の能力を知り内野の評価を改めたからだ。
ずっと黙々とラーメンを食べていた清水も、これには食事の手を完全に止めて内野の話を聞いていた。
「気絶は毎回起こるのか?」
「いえ、起きたり起きなかったりします。自分もまだ法則性などは分かっていません…」
「…それは心配だな。共に行動する者としてその不安要素はあまり放置してはいられない。
一先ずこの紙に、強欲を使った時の事を全て書いてみてくれないか?吞み込んだ魔物、気絶の有無とかな」
川崎に紙とペンを渡され、内野は言う通りに紙に強欲使用時の状況を書いていく。内野が当時の事を思い出しながら書いていくと追加で「クエスト事に分けて書いてくれ」と言われ、指示通りにする。
〈スライム〉
・スライムに対して使用、気絶無し
〈ゴーレム〉
・ゴーレムに対して使用、身体に力が入らなくなって少し経過してから気絶
・ゴーレムの核に使用、スキル使用後即気絶
〈フレイムリザード〉
・黒狼(使徒)に使用、黒狼の雷に打たれていたからか気絶はしなかった
〈無冠の王の使徒〉
・サソリに使用、気絶無し
・囲まれている状況だったので多数の魔物に使用、意識は朦朧としたが気絶はしなかった
・黒狼(使徒)に使用、スキル使用後即気絶
〈現実〉
・赤仮面・青仮面に使用、気絶無し
〈昨日のロビー〉
・練習で使用、使用した瞬間に転移したので分からない
自分でこれを書いているうちに、内野はある規則性が分かってきた。
「今気が付いたのですが…連続して使う場合は代償が必ず重くなるという法則性はありますね」
「だが別のクエストの時にはそれがリセットされてるみたいだな。もしも転移の度にリセットされるのならば、今の君は問題なく強欲を使える事になるな」
転移の度にリセットか…次いつ転移されるか分からないし迂闊に強欲は使えないな。
『強欲』の話が終わり次に移ろうとした所で、内野は一つ尋ねたい事があったのを思い出した。
「川崎さん。ステータスをSPで上げる時って一回当たりどの位上がりますか?」
「…3~5だ、MPを上げる時は8~10だがな」
「それじゃあスキルのレベルを3とか6に上げた時、新しいスキルとか手に入りますか?」
「まさか内野君、わざわざこれを俺に聞くって事は…」
内野は自分のステータスがSPで全然上がらず、スキルレベルを上げても新スキルが手に入らない事を素直に話した。
もしかすると大罪スキルを持つ者にだけある欠点かと内野は思っていたが、川崎はそんな事なく普通にステータスが上がるらしい。
もっと詳しくそこについて話を掘り下げようと川崎はするが、怠惰グループの他の者が「早く他の大罪の能力を知りたい」と言ったので、話は大罪の力へと戻る。
次に小野寺が『傲慢』スキルについての説明をした。内野達は昨日聞いたので知っているが、昨日居なかった者の為に再度説明するように川崎から指示があったからだ。
現時点で『傲慢』について分かっているのは、闇で自分のコピーを作れることぐらいで、内野同様に皆の反応は微妙なものになっていた。
「使えるスキルなのは確かだが、そのコピーとやらがどれ程動けるかによって評価が変わるから何とも言えないな。
だが、オリジナル同様に自分の意志で動いたりできるのならかなり強力なスキルになるな。
次は憤怒について教えてくれ」
「分かりました!
憤怒で出した闇はどんなものでも削れる性質があり、それを剣みたいに振り回す事で攻撃が出来ます。
自身や相手のステータス関係無くどんなものでも削れちゃうので、平塚さんにかかればどんな魔物でも首を刎ねれば一撃で倒す事が出来ちゃいます!
実際に使徒も普通の魔物同様に防御力無視で攻撃が入っていました」
『憤怒』の能力を聞いた者の驚き具合は『強欲』『傲慢』の時よりも大きかった。
どちらも凄い能力だが、内野は『強欲』スキルの使いにくさを説明してしまっており、『傲慢』は分からない所が多かったので周囲の者の評価は『憤怒』が勝った。
相手のステータス無視して攻撃が入るなんて…やっぱ大罪スキルって凄いな。平塚さんなら使徒がいくら強かろうと攻撃を当てれば勝ちじゃないか。
「使徒にさえも通用するのか…ボス戦で即死系呪文が効くとか強すぎるだろ」
「川崎さんの闇も使徒に通用するし、やっぱり大罪スキルってこれぐらいチートな能力なんだな」
先程内野達を警戒していた者達がそんな事を話しており、内野達は益々川崎の『怠惰』の能力が気になってきていた。
そしてその期待に答える様に、最後は川崎がゆっくりと口を開く。
「…最後になったが『怠惰』の能力を教えよう。いや、実際に見るのが一番分かりやすいだろうし今ここで見せよう」
スキルの内容を知らない内野・梅垣・笹森・小野寺らの心に緊張と期待が生まれる。
内野達は固唾を呑み込んで目の前の川崎に注目する。
が、川崎は黙ったまま何もしない。ずっと腕を組んでこちらを見てくるだけだ。
「え、スキルを使うんじゃ…」
と内野が言おうとしていると、急に隣に座っている梅垣が上体を横にしてテーブルの下を覗き込み「なるほど…これが『怠惰』のスキルか…」と呟く。
一体何を見たのか気になり、内野・笹森・小野寺も直ぐにテーブルの下を覗こうとする。
内野が上体を横にしてテーブルの下を見た瞬間、内野はテーブルの下にいる生き物と間近で目が合った。
そこにいたのは肌が緑色で3頭身ぐらいの人型の生物、ゲームなどで言う所のゴブリンという生き物だ。目は普通の人間のものよりも大きく、結膜炎の様に目が赤い、そして頭頂部には少しだけ赤い毛が生えた。
「うわぁぁぁ!」
そんな生き物と意図せず目が合ったので、ホラー映画で怖いシーンを見てしまった時さながらの反応で驚く。
笹森と小野寺もまさかそこに生き物がいるだなんて思っておらず、肩がビクッと動いていた。
その3人の様子を見て周囲の者から笑いが起きた。だがほとんどの者は3人を馬鹿にする嫌な笑い方ではなく、「やっぱりビックリするよな」というような温かい笑いだった。
ゴブリンは机の下から出て立ち上がる。照明のお陰で先程よりもよく見えるが、グロテスクな様をしているので内野達は身構える。
「コイツは俺の命令に従って動くから大丈夫だ、驚かせる様な真似をしてすまない。だがこれで何となく俺の『怠惰』について分かったんじゃないか?」
「…魔物を捕らえて仲間にする能力か?」
梅垣のその答えに川崎は頷く。
「闇で吞み込んだ魔物を仲間として従えられるスキルだ。いや…従えると言うのは少しおかしいかもしれんな。
誤解を招かない様に『怠惰』について詳しく説明しよう。取り敢えずもう一体魔物を出すから、その時の様子をよく見ていてくれ」
川崎が席を立ちあがり通路側に立つと、川崎の身体から内野の強欲と全く同じ闇が少し現れる。
その闇が少し膨らんだかと思うと、次第にその闇はゴブリンの頭へと変わっていった。そして数秒も経たない内に闇は完全にゴブリンとなった。
先程出したゴブリンとは別の個体で、毛は生えておらず最初に出したゴブリンよりも若い個体だった。
内野ら全員がそれを見たのを確認すると、今度は今出したゴブリンをしまってみせる。
ゴブリンは川崎に触れるとその部分から身体が闇へと戻って直ぐに全身消えていった。
「今見て分かっただろうが、怠惰は吞み込んだ魔物を闇から呼び出すのではなく、吞み込んだ魔物を闇から作り出して従わせるものだ。
今作り出したコイツらは死んだ判定になると死体が闇になり、俺の元へと戻ってくる。一度死んだ魔物は呼び出せないから、手塩に掛けて育てた魔物には無理は出来ん」
「育てるって…闇で作った魔物もレベルが上がるって事ですか?」
「成長するのはレベルだけじゃないぞ」
川崎はそう言いながら最初に出したゴブリンにフォークを渡し、さっきまで自分の座っていた席に座らせる。するとゴブリンはフォークを器用に使いスパゲッティを食べ始める。
「ゴブリンみたいに知能が高い魔物にはこんな事も教えられる。特に最初に出したコイツは他の個体よりも頭が良いから直ぐに覚えた。他のゴブリンと違ってこいつにだけ赤髪が生えているのも何か関係があるのかもしれないな」
「「おおっ!」」
器用にフォークを使って食事をするゴブリンに内野・笹森・小野寺は声を出して驚く。梅垣も驚いてはいたが、何か他の事を考えているみたいでゴブリンへの興味は3人ほど湧いてなかった。
な、なんかちょっとだけ可愛い…かもしれない。グロテスクな見た目で少し食欲が無くなったけど。
少しするとゴブリンはスパゲッティを食べるのを辞め、内野の方を見てくる。
内野に目を合わせると今度は内野の食べているハンバーグに目をやる。その後も交互に内野とハンバーグを見ていた。
「こいつの好物はハンバーグでな、内野君のハンバーグを食べたがってるだけだ。仕方ない、もう一つハンバーグを頼もう」
ハンバーグが好きとは…中々良いセンスしてるな。何かこのゴブリンとは気が合いそうだ
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