第118話 プレイヤーの集い
周囲のそんな声が聞こえてくるが、梅垣は全く気にせずに話す。
「脅かすような真似をしてすまない。内野君と笹森さんしか来ないはずなのに、魔力感知で近くにプレイヤーの反応が3つあったから隠れて様子を窺っていたんだ。
ただ、隠密スキルを使ってないからああやって周囲の者がうるさくて潜めてなかったがな」
カッコイイ故の贅沢な悩み…俺も一度はそうなってみたいものだ。
隣にいる笹森がまるで梅垣に一目惚れしたかのような表情を浮かべているのが、より一層内野にそう思わせた。
梅垣の登場により敗北感を抱いた尾花であったが、それを誤魔化すように強がる。
「俺が彼女に声を掛けている時には既に付けていたな。イケメンオーラが駄々洩れだったぜ、少しは俺みたいに隠したらどうだ?」
「そんな事よりも、尾花さんはどうしてここに?」
内野がそう尋ねると、先程までのふざけた雰囲気は無くなり尾花は真剣な表情になる。
「頼み事があって、それを君に言う為にここまで来た。
今回のクエストの場所は横浜って書いてあったが…実は俺の妹がその近辺の病院に入院している。生まれながらの障害で人工呼吸器無しでは生きられないから、避難させるのは難しい。
それで君から川崎さんに頼んでもらいたい事があるんだ。どうか俺の妹のいる病院を守ってくれないかって…」
「な、なるほど…妹さんの為ですか。
分かりました、僕から川崎さんに頼んでみます。でも川崎さんがどう言うからは分からないですよ」
「ありがたい!頼んだよ内野君!」
願いを聞き入れると尾花は感謝の言葉を述べ、その後はまたおちゃらけた雰囲気に戻る。そして川崎の元に向かう3人の邪魔をしない様にと直ぐにこの場を去っていった。
そんな尾花の後ろ姿を見て、梅垣はボソッと呟く。
「…不安の種だな」
「え?」
「いや何でもない。それよりも早く電車に乗ろう」
こうして3人は約束の場所の最寄り駅へと向かう。
平日の昼付近だから電車の席はそこそこ開いており、3人は並んで座る。3人はクエスト関連以外にも私生活の事などを話して時間を潰していた。
笹森の態度で分かった事がある。恐らく笹森は梅垣さんに惚れている。
昨日会った段階ではどうだったのか分からないけど、少なくとも今は確実に梅垣さんにそういう感情を抱いているだろう。
俺と話す時よりも梅垣さんと話す時は声のトーンが高くなり、梅垣さんと目が合うと頬を赤らめていた。
恋愛について詳しくない俺でも直ぐに分かるぐらいだ。
…俺もオシャレしたら少しは女子にそんな反応されるかな?
そんなこんなで駅に着き、目的地の方へ向かおうとすると梅垣は一瞬足を止める。
どうしたのか尋ねようと顔を覗き込んでみると、梅垣は何かに驚いているのか目を見開いていた。平然を装おうとはしているが、驚きを顔に隠しきれていない様子だ。
「場所的にも恐らく怠惰グループの者だとは思うが、大きな魔力の反応が10個ほどある。しかもその内の一つが…とんでもなくデカい。明らかに他の者の魔力とは桁が違う」
「あ、それじゃあそれが川崎さんの魔力なんでしょうかね?」
「恐らくそうだろう。
黒狼の魔力は見えなかったから比較は出来ないが…流石の黒狼もこれほどの魔力は持っていなかったはずだ。一体どれくらいレベルを上げればこんな大きさの魔力に…」
そんなに凄いのか…そんな凄い人と早いうちに協力出来て本当に良かった。
駅から約束の場所へと歩いていく。これから川崎に合うと考えると少し緊張するが、同時に楽しみでもあった。
そして内野達はとある建物の前で足を止める。脇道沿いにある古い喫茶店で人通りがほとんど無く周囲に人はいない。
店前の看板にはマサイ珈琲店と書いてあり、その下にはメニュー表が貼られている。店内の様子はカーテンのせいで誰か動いている事以外は分からない。
だが店のドアに掛けてある小さな板には〔閉店〕と書いているので中に入って良いのか悩んでいた。
「えっと~本当にここ?」
「川崎さんに送られてきた店の場所と名前は合ってるからここだよ」
「多数の魔力の反応がこの店内からする。確実にここだ」
梅垣が先陣切って店のドアを開けようと手を伸ばした直後、店内から一人の女性が出て来る。
大学くらいの女性で、ここで働いているのか緑のエプロンを身に付けている。胸のネームプレートには『二階堂 凛』と彼女の名前が記されていた。
その女性は内野達に一度目をやると少し固まるが、内野の顔を見た途端にハッとした顔になる。
「あ、内野君だね!
って事はそっちの二人が川崎の言っていた憤怒グループ子と強欲グループの強い人か。
さささ、入って入って!もう店内に川崎さんいるよ!」
女性は元気よくそう言うと、店内に向かって「もう内野君達きたよー!」と声をかける。内野達は案内されるがままに店内へと入っていく。
店内は至って普通の喫茶店。だが内野達が店内に足を踏み入れた瞬間、店内にいる全ての者と目が合う。
カウンター越しにこの店の店主と思われる老人、カウンター席に座っている者達、普通の席に座って食事をしている最中の者。全員で10名だ。
その中には見知った顔の清水もいて、その横には小野寺(赤仮面)もいる。だがその顔見知りの二人よりも、最初に目に付いたのはその手前にいる者だった。
「よく来てくれた。君達もこの席に座ってくれ」
それは『怠惰』のスキルを持つ川崎賢人だ。白い空間で会った時と全く同じ服装である。
川崎・清水・小野寺は6人席に並んで座っており、3人が川崎の言う通り席に座る。すると先程の女性がメニュー表を持ってくる。
「今日は長い話になるだろうから何か頼んでおいた方がいいよ~マスターからは値引きするなって言われてるから通常通りのお値段だけど」
「3人には俺が奢る。好きなものを頼んでくれ」
「「ありがとうございます」」
小さな店なのにメニューのバリエーションはかなり多く、3人は各々好物を注文した。内野はハンバーグ、笹森はスパゲッティ、梅垣はステーキ。
3人はメニューを注文した後川崎の方に向き直ると、川崎が口を開く。
「それじゃあ話を始めるか。
何となく分かっているだろうがここにいる人間は全てプレイヤーだし、小野寺はこの情報を仲間に発信しようだなんて考えていない。だから気兼ねなくクエストについて話して良い。
…お前らも彼らに対してそこまで警戒しなくて良い」
川崎がカウンター席に座っている数人に目を合わせる。彼らは内野達を警戒している様で、いつでも動けるようにするためか片足を椅子から出していた。
その内の一人、中学生ぐらいの青年が川崎に言い返す。
「川崎さん、いくら貴方の弟の恩人だからってそいつらを無条件で信じるのは無理ですよ。
まだ僕らは相手の事をよく知らないし、もしかすると『強欲の刃』で貴方のスキルを奪おうとする可能性もあります。その時にいつでも殺せるようにしておかないと」
「大丈夫だ佐々木、強欲グループにレベル100を超えてる奴はいない。それにこの状況で俺を襲う程の馬鹿はいないだろう。だから警戒を解け」
「…」
川崎の説得で青年は渋々警戒を解いてカウンターの方に向き直り、机の上にある飯を食べ始める。他の者達も同じ様に警戒を緩めるが、完全に気を許した訳では無い様子だ。
「…うちの者がすまないな」
「いえ、他グループのプレイヤーを警戒するのは当然の事でしょうし大丈夫です」
食事をしながらの、強欲・怠惰・傲慢・憤怒4グループでの情報交換が始まった。
先ずは周囲の者達の警戒を少しでも緩めてもらうため、内野と梅垣は自分のグループの情報から提示すると名乗り出る。
「そうか、なら『強欲』の能力について最初に聞かせてもらおう。次に『傲慢』について小野寺から再度説明してもらう。
そしてそこの彼女から『憤怒』の能力についても聞きたい。俺の『怠惰』について教えるのはその後だ」
「分かりました」
「私も昨日平塚さんから許可を取ったので大丈夫です!」
こうして全プレイヤーが最も気になっているだろう大罪の能力が明かされていった。
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