第116話 新島の考察
俺はまだ無詠唱で発動出来るスキルが一個も無いし、無詠唱での発動がどんな感覚なのかも分かっていない。ギリギリで強欲は使えたが……正直これだけじゃ無詠唱に近づけた感覚だとかが全くないな。
取り敢えず上体を起こしてスマホを手に取ると、既に幾つもの通知が来ていた。それぞれ帰ってくるのに時差があるからか、内野が目を覚ましたタイミングで既に送られてきていたものもあった。
今回の新規プレイヤーがグループに入って来ていたが、まず確認すべきは他グループの笹森・川崎からの連絡。やはり他グループも同じ様にロビーに転移し、内野達が見たクエストボードと全く同じものを見たという。
そして川崎の提案で、約束の日時を変えて明日集まろうという話になった。
明日は木曜日で学校があるが、学校に行く事なんかよりこっちの方が遥かに重要な事なのでこれには賛成であった。一応笹森と梅垣にも確認を取ると直ぐに了承してもらえた。
そして少し時間を置いて、川崎からはこの様なメッセージが届く。
〈今のうちに言っておこうと思うが、俺は君のグループと協力してクエストを受けるようと思っている。聞いた話だと君らはクエスト歴が最長でも20回みたいだし、今後の事を考えると君たちにも強くなってもらわないとならないからな。
だが君のグループ全員を連れていくのは無理だ、人数で言えば40人が限界。詳しい事は明日話すが、少なくとも俺達と協力してクエストを受けるのならば誰を置いていくのか選ばなければならない。この事を頭に入れておいてくれ〉
メッセージには怠惰グループと協力する条件が書かれていた。
誰を連れていくのか人数を絞らないといけないのか…40人となると黒狼のクエストで生き残ったメンバーか?
いや、これは俺一人で考えるべきじゃない。明日川崎さんの話を聞いた上で皆と話し合おう。
取り敢えず明日川崎に会うことをグループの皆に告げ、なにか聞いておいて欲しい話が無いか尋ねてみる。
すると続々と要望が届く。
・怠惰側のプレイヤー人数、平均レベル(飯田)
・スキルガチャとかの中身(飯田)
・複数人で魔物を倒すと、個人個人の上がるレベルは下がるのか。ゲーム的に言えば経験値はどう分配されるのか(森田)
・今後強欲以外のグループとどう交流するのか(松平)
・呪いの装備について(工藤)
・無詠唱のコツ(松野)
・好きな食べ物と好みの女性のタイプ(尾花)
・川崎の『怠惰』の能力(大勢)
グループに届いたのはこれぐらいだった。途中尾花がふざけた質問を書いているのさえ除けば、どれも内野にとっても興味深い質問であった。
だが一通だけグループではなく内野個人にのみ届いたものがあった。それは新島からのものだ。
〈蘇生石の仕組みについて聞いてみて欲しい〉
…?
新島が一体何を書いているのか分からず、取り敢えず通話で直接聞いてみる事にした。
〔ごめん、あんな書き方じゃ分かる訳ないよね。でも何処から話そうかな…取り敢えず私が昨日今日で考えていた事を話すよ。
昨日梅垣さん・内野君と話した後、私なりに蘇生石について色々考えてみたんだ。それで私が導き出した考えがあるの。
それは、蘇生石で生き返るのはセーブされた人間というか…記憶のバックアップをとられた人間なんじゃないかって事〕
「え、バックアップってデータ保存みたいな感じのやつ?」
〔そう。先ずはそう考えた前提で話を進めていくね。
最初に何処がセーブポイントなのかって話だけど、それは多分私達が現実→ロビーに向かう時。それなら私にある記憶の飛び方にも納得できるよね〕
新島はフレイムリザードクエスト時のロビーに転移する瞬間に記憶が途絶えているから、確かにセーブポイントは現実→ロビーに向かう時になるな。
これなら蘇生石で復活した人がそのクエスト時の記憶を持っていないのに納得できる。
〔内野君はもう気が付いているかもしれないけど、何故か現実→ロビーに向かう時だけは青い光が出ないよね。
一瞬気を失う感じになるのはどれも一緒だけど、ロビー→クエスト、クエスト→現実でも青い光は出る。
この何故か一つだけ違うのも、この転移にだけセーブという特別な工程が挟まるからって考えられると思うんだ〕
「すまん新島、俺って初回と前回のクエスト以外毎回寝てたからそんなの全く意識して無かった」
〔え、あ、そうなの!?そんなにクエスト前に眠れるなんて肝が据わってるね〕
ただ何も考えてなくて普通に寝てたと訂正しにくいのでそのまま黙って新島の話を聞く。
〔とりあえずこの考えが合っていれば、このクエストの黒幕はプレイヤーの記憶に関与出来るって事になるし、死んだプレイヤーの偽物が本体の記憶を持って現実世界で騒がれる事なく暮らしているのに納得も出来る。
で、内野君はこの考えをどう思う?何処かに矛盾点とかあるかな?〕
と、新島にこの考えをどう思うか尋ねられ、内野は頭を悩まして考えてみる。だが考えてみても矛盾点などは特に見つからなかった。
「特におかしい所は無いと思う。それに今の話を聞いたら、俺もそうとしか考えられなくなってきた」
〔うん…それで内野君から川崎さんに聞いてもらいたいのはこの考えが合っているかどうかなの。
経験豊富な川崎さんなら何処か矛盾点を出してくれるかもしれないし〕
「なるほど、それは俺も気になるから聞いてみるよ。でも一旦この話をグループでしておかない?
今後蘇生石を使う時とかに役t…」
〔待って!皆にはまだ言わないでほしいの!〕
急に新島は強い口調で内野を止める。内野がどうして皆に話してはいけないのか聞く前に、新島はそのまま言葉を続ける。
〔…いい?
私が話したのは内野君だからなの、貴方が特別だからなの。…出来れば貴方以外にはまだ話したくない…〕
と、特別?
俺だけが特別って……もしかして新島は俺に好意を抱いているのか?これも彼氏に愚痴を話したいみたいな感じ…なのか?
この前新島は、ゴーレムのクエストで黒狼から命を張って俺を助けたのは「身体が勝手に動いちゃった」からだと言っていた。(91話)
だが普通に考えてまだ知り合ったばかりの者にそんな事出来ない…出来る訳がない。
でも、もしも新島が俺に特別な感情だとかを抱いていたのなら話は別なんじゃ…
真剣な話をしているというのに、新島にそう言われ、内野は浮かれた考えを思い浮かべながら心拍数を上げていった。
それと共に顔は少し赤くなり声が上擦る
「特別な人って…俺はそんな…」
〔いや、貴方は特別だよ。貴方は七つの大罪で、他の人とは違って蘇生石で生き返れないし…〕
今度は恥ずかしさのあまり内野の顔は真っ赤になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます