第113話 無知

続けて森田は話す。


「貴方の言う悪役に徹するというのが具体的にどういう事をするのかは分からないが、それが貴方の行動を制限するものなら、そんなものいらないと俺は思う。

使徒という魔物が他グループの者でも苦戦する相手と言うのは白い空間での話で分かった。そして、そんな相手に一人で戦っていた貴方が強いという事は馬鹿でも分かる。

…果たして貴方の行動を制限してまで新規プレイヤー達からの信頼が必要なのか?」


それを聞き「たしかに」という納得の表情をしている者も現れた。その反応を見た梅垣は、森田だけでなく周りの者にも向かって話し始める。


「不安の芽は小さいうちに摘まないといけない。彼らの不信感をそのままにしていたら、それは今後新しく来るプレイヤーにも伝わる可能性がある。

もしもそんな彼らがクエストを重ねて強くなり背中合わせて戦う事になった時、両者とも相手に背中を預けられるか?前だけ向いて彼らと共に戦えるか?」


梅垣の言葉を聞き周囲の者は何も返せない。梅垣の言った通り、自分に不信感を抱いている相手に背中を預ける事など出来ないと全員が考えたからだ。



「取り敢えず新規プレイヤーへの説明は終わったよ…って皆さんそんな暗い顔してどうしました?」

「ん、何か真剣な話をしてたの?ちょっとこっちも困ってて話があるんだ」


そう言いながら松平と飯田がこちらにやって来る。飯田の言う困っている事が何なのか気になり、最初に梅垣が「困っているというのは今回の新規プレイヤーについてか?」と尋ねる。

すると飯田は頷く。


飯田が困っているのは、今回のクエストに新規プレイヤーを連れていくかどうかの話らしい。

いつも通りクエストについての説明を新規プレイヤーにすると

「すげー楽しそう!」

「あのクエストボードの通り土曜日に横浜に行けば良いんだな!めちゃ楽しみだわ!」

などとクエストに参加しようとしている者が現れたらしく、無理にでも止めるべきか松平と飯田は悩んでいるという。


「一応まだ連れて行けるか分からないって言ったんだけど、あまり耳を傾けてくれなかったんだ…あの様子だと僕ら無しでも行こうとするかも…」


「放っておきたい所だが、何もしなければ後で「何で止めなかったんだ!」とか言い出す輩も出そうだ。

…目の前で俺の指でも切り落としてみるか。クエストに行ったらこの程度の怪我では済まないと脅せば自重するだろう」


「ちょ、何言ってるんですか!?」


「いや、一発で彼らの行動を止められるのなら悪くない手だと思うぞ。

それより酷い負傷なんてクエストでも何回もしているから問題無い。それにヒールを持っている者がいるし、指一本なんてすぐに治る」


急にとんでもないことを言い出した梅垣に内野含めて周囲の者は焦る。梅垣の声のトーンからしてふざけて言ったものには聞こえなく、本気でやろうとしているのが分かったからだ。


次に新島が梅垣を止めようと口を開いた。


「…ヒールを使える人のMPが勿体ない気がします。今ここでMPを使っても現実世界じゃ回復しませんし、出来るだけMPの温存はしておいた方が良いと思います」

効率を第一に考える梅垣に合わせて説得しようとしているのは何となく分かったが、次の梅垣の一言で一蹴される。


「それは大丈夫だ、転移が来るたびにMPは全回復するからな。恐らくここから戻る時の転移でも回復する」


「「え?」」


そう数人の声が重なると、周囲の者は真偽を確かめるべく松平と飯田の方を向く。


「現実→ロビー、クエスト→現実での転移でMPが回復するのは知ってたけど、ロビー→クエストで回復するのは知らなかった…」


飯田達も知らなかったようで梅垣の言葉を聞いて驚いている。その後、松平から「一度回復するのか試してみようという話は出たが、クエスト前に試すのはあまりにもリスクが高くて断念した」と説明されて飯田達がこの事を知らなかった訳に納得した。

梅垣以外の魔力の大きさが分かるスキルを持つ者は現れたが、それは内野が来た一回前の事であり、それを検証する余裕が無かったという。


確かに梅垣さんみたいに魔力が分かるスキルが無ければ、MP回復するのか確かめるのに、誰かがロビーで大量にMPを使わなければならない。そんな危険な役を引き受ける人なんていないよな。


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途中ミスがあり今回は文字数が少なくなってしまいました

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