第112話 冷酷なる者

ここへはスマホを持ち込めず川崎達との連絡手段が無いので、今は元の話へと戻る。

大橋は腕を組みながら冷静に自分の考えを述べていく。


「相手がどれぐらい強いのか分からない以上、新規プレイヤーは今回のクエストに参加しないという手もある。もしも魔物の強さがクエスト経験50回の他グループに合わせられるのなら、新規プレイヤーだけでなく俺達も厳しい戦いを迫られるだろう。

最終判断は怠惰グループの慎二の兄に委ねる事になるだろうが、少なくとも俺は新規プレイヤーを連れて行く余裕はないと思う」


「俺も同感だ。何よりも今回のクエストには使徒が7体いる可能性があるし、足手纏いはあまり連れ行くべきじゃない」


梅垣は大橋に同意し、きっぱりと新規プレイヤーを切り捨てる事を口にする。切り捨てると言っても今回の場合は見殺しにするという意味ではないので、正義感の強い木村も前回のクエストの時の様には口を挟まなかった。


使徒が7体いるという事を考えると他の者も顔が少し引き攣り、新規プレイヤーを連れて行かないという意見に否定の声を出そうとは誰一人思わなかった。


「その~新規プレイヤーという括りの中には僕らもいます?だとすると僕も次のクエストには参加しない方が良いんですか…ね?」


慎二がそう質問を投げかけ、梅垣が答える。


「…それは君の兄と話してからじゃないと決められないな。怠惰グループと協力してクエスト受けるのなら、どれだけこっち側の人数を受け入れてもらえるのか決めるのか君の兄だ。

まぁ…怠惰グループと協力出来なかったら、新規プレイヤーを連れていくつもりはないのは確かだ」


「そうですか…でも兄は出来るだけ内野さん達に協力したいと言っていたので、多分協力してくれるはずですよ!」


慎二から良い話が聞け、周囲の者の表情は明るくなる。


川崎さんは俺と始めて連絡した時から協力的だったし良い人だ。本当に助かる。

…てか飯田さんと松平さんがいないのにこんなに話を進めて良いのか?


二人を除いてこんな重要な話をしていいのか心配になり、内野は梅垣に小声で尋ねてみる。


「これって飯田さんに言ってから決めた方がいいんじゃないですか?」


「…その話についてもすべきか」


梅垣は少し悩んだ末そう言うと、皆の方に向き直り口を開いた。


「既に飯田さんや松平さんには話しているが、前回のクエストのロビーで内野君が松平さんに言った通り、これからはリーダーなんて役割を無くそうと思う。

と言っても新規プレイヤーの信頼が飯田さんに寄っている以上は、直ぐに無くすというのは無理だ。だから今は少しずつ飯田さんの負担を軽減しよう」


梅垣の提案に驚いていた者が多数いたが、一人のプレイヤーが手を挙げて質問する。内野との面識は無いがクエスト歴が内野より多く飯田との付き合いも長い者だ。


「それ気になってたんだけど…もしかして飯田さんってリーダーの役を重荷に感じていたんですか?」


「ああ。どれ程追い詰められていたのかは俺には分からないが、これは彼に責任を背負わせ過ぎた俺達の責任だ。

使徒・大罪・2ターン目だとか色々判明してきたし、皆の認識を変えるのは今がちょうどいいはずだ。俺含め今から少しずつ皆で変わっていこう」


知らず知らずのうちに飯田を追い詰めていた事を知り、飯田を慕っていた者は頭を抱えたり、啞然としたり様々な反応をみせた。

中には平気そうな顔してヘラヘラしている者もいたが、大橋が睨みつけると肩をすくめて下を向く。


その者達の反応を見たあと、大橋は小さな声で自虐気味に一言呟く。


「…俺が言えた口じゃないな」


これはすぐ隣にいた泉にしか聞こえておらず、他の者はそれに気が付かず話を進めていった。

次に声を出したのは、フレイムリザードのクエストの時に木村と言い争っていた青年。(46話)


「少しずつ飯田さんの負担を軽減しようって…前回の新規プレイヤーの信頼を飯田さんに被せたのはアンタだろ?

あの連絡グループでやった茶番で飯田さんの信頼は上がったが、これじゃあ今あんたが言った事と逆だ。負担が増えるばかりじゃないのか?」


あまり良い印象者ではないが、今回の彼の意見については頷けた。内野自身も飯田の心配をしていたので同様の疑問を抱いていたのだ。


それに梅垣が返す。


「そうだな…あれは確かにマズかった。あの時は効率だけを考えて手っ取り早い方法を取ってしまったんだ、彼の心の事など一切考えずにな。


前のリーダーが死んで以降のクエストで、俺は心を殺してただひたすらに効率だけを考えて行動していた。

誰かの助けを求める声に耳を傾けず、魔物が多い方へと向かいレベルを上げる。黒狼に襲われている者も見殺しにした。全てはかつての仲間の仇を討つために…

その期間が濃すぎたせいで、こんな冷酷な考え方の癖がついてしまったんだろうな」


梅田の話を聞き、周囲の者は何も言えなくなる。内野もどう答えれば良いのか分からなかった。


…そうせざる得なかったのか。効率を求めると見捨てなければならない者が現れる。その者達を簡単に切り捨てられるように自分の考え方すら変える必要があったんだろう。


頭の中でそう考えていると、この梅垣の考え方が少し自分に似ている気がした。思い出したのは前回のクエストで梅垣の作戦の肩を持ったことだ。

自分も友を生かす確率を上げるために作戦に手を貸した、冷酷な考え方が出来る者として自分も同類であると考えたのだ。



少しの間沈黙が流れ、再び梅垣が口を開く。


「だが俺も変わっていこうと思うし、罪滅ぼしもしようと思ってる。俺が悪役に徹して行動し、そんな俺を皆が非難すれば以前の新規プレイヤーからの信頼も厚くなるだろう」


「それって…また一人になるつもりなんですか?せっかく黒狼の一件が終わってこうして一緒に戦える様になったというのに…」


またしても一人になろうとしている梅垣を心配して内野が声をあげる。他の者も同様に「他の案を考えよう」と声を上げるが、梅垣は首を横に振る。


「俺はもう打算でしか動けない。いや、クエストに来る前からそんな考え方をしていたからきっと俺はここに来たんだ。


前も言ったが、ここに来る者は負の感情を抱えた者が来る…多くの者は何かに対する劣等感だろうな。俺だってその一人だ、さっきは冷酷な考え方の癖とか言ったが、日常生活からその思考に至る素質があった人間だ。多分俺は変われない。

それに一人で行動するのに慣れ過ぎた。だから一人で良い、一人の方が良い」


「…」


梅垣さん自身にそう言われると…何も返せないな。人生・クエスト経験の無い俺が軽々と「そんな事ない!人は変われる」だなんて無責任な事言えないし…


内野が何も返せなくなると今度は森田が手を上げ、皆がそちらを向く。


「前回騙された新規プレイヤーの括りに入る俺が言うのは変かもしれないが、そもそも無理して前回騙した新規プレイヤーからの信頼を手に入れる必要があるのか?

彼らからの信頼と貴方の能力を天秤に掛けてみて、彼らからの信頼を取るべきと言う者はここに居ないと思うのだが」


…冷酷な考え方出来るって奴が俺と梅垣さん以外にも見つかったな。

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