第111話 騒ぎ鎮静

内野達も飯田の手助けに向かうが、新規プレイヤーが大人数なので騒ぎは大きく、とてもクエストについての話が出来る状況では無くなっていた。


「う~ん…どうしよう。こんな大人数は初めてだからどう対処すれば…」


飯田が頭を掻きながらそんな声を出す。中々落ち着いてくれない新規プレイヤーに少しイラつきを覚える人が現れた頃、突如広間の上方で爆発が起こった。

爆音とともに爆発による熱気が肌に伝わり、何事かと全プレイヤーがそちらを見る。


爆発の起こった真下には一人の男が立っている。それは内野が前回共に行動したメガネの男、森田であった。森田がフレイムボムというスキルを使用して皆の注意を引いたのだ。名前の通り爆発と共に炎が周囲に散らばっていたが周囲に人がいないので負傷した者はいなかった。


さっきまで騒がしかった者達は爆音に驚き声を出すのをやめ、広間には静寂に包まれる。そして森田は飯田の方を見ながら「これで静かになっただろ?」と言わんばかりにコクリと頷く。

森田のお陰で騒ぎは一瞬収まり、その隙に飯田と松平は新規プレイヤーに説明を開始する。

いつも通り最初はスキルだとか魔物だとかを信じない者が多かったが、インベントリからアイテムを出したり、ステータス画面を開かせることでほとんどの者が飯田の言葉を信じる様になる。こうして円滑に話は進んでいった。



説明係は数人で十分だからか飯田は「ここは僕と松平に任せてと」と言われたので、内野達に自由行動をする。

本当は飯田の負担を減らす為に新規プレイヤー達への説明は自分がやると声を上げたかったが、飯田や松平ほど説明慣れしている者はいなかったのでここは二人に任せる事となった。

取り敢えず内野は広間でフレイムボムを使った森田の元へ行く。


「それにしても森田さん、まだクエスト経験が少ないのにスキルで皆の注意を引くなんてよく出来ましたね」


「思い付くのは簡単だが、無駄にMPを使うのを避けたいから皆やってないだけだろ?

俺も無駄にMPを使うのは避けたかったが…まぁ低レベルの俺が一回スキル打てなくなる程度あまり問題ないだろう。黒幕とあのクエストボードを見る限り、次のクエストは強制参加でも無さそうだし。

デメリットより、リーダーと呼ばれているあの人に恩を売れるメリットの方が大きい気がするからやっただけだ」


まだ新規プレイヤーだというのに冷静にそう答えた森田に、一同は驚きを隠せずにいた。


「森田さんは凄いですね…僕なんか余裕が無くてそんな事思い付きませんでしたよ」

「やっぱりあんた只者じゃないな」


森田の近くにいた二人が驚きの声を上げる。その二人は前回内野・森田と行動していた川崎 慎二と尾花 嶽尾であった。


尾花は金髪・ピアス・サングラスとかなり目立つ見た目をしている。

だが慎二の見た目は普通すぎて、慎二があの『怠惰』スキルを持つ川崎賢人の弟であるにもかかわらず、内野はようやく彼が声を出したことで存在を認知する。


「あ、慎二君!」


「こんにちは内野さん。今日は色々あったみたいですけど、兄さんの仲間の方が助けに向かってくれたらしいですね」


「そう、清水さんに助けられたんだ。

もしも君が賢人さんの弟じゃなくて、未だに怠惰側と協力関係を結べていなかったら危なかったよ。紹介してくれて本当にありがとう!」


「お役に立てて良かったです。

でも仮に僕がいなかったとしても、多分兄さんは近いうちに貴方にコンタクトをとっていたと思いますよ。

兄さん側の方でもあの動画に映っていた内野さんがプレイヤーなんじゃないかって話は出てたみたいですし」


そういえば白い空間で川崎(賢人)さんもそう言っていた。良くも悪くもあの事件のせいで色々あるな…


二人が話していると、木村が手を挙げて慎二に尋ねる。


「あの~お兄さんってどんな方なんですか?あの白空間での様子だけ見ると頭が良く回る人って事しか分からなかったのですが」


「あ、それ私も聞きかった!」

「俺も俺も!」


工藤と尾花が木村の質問に賛同して声を出す。声には出していないだけで、ここに居たほとんどの者がそれを気になっていたので期待の顔を慎二に向ける。

だが答える側の慎二の表情はそこまで明るいものでは無かった。


「僕の知っている兄さんは、頭が良くて、家族や友人に優しくて、誰よりも人情に厚い人でした。それに潔癖気味でもあって、兄さんが実家を出るまではいつも「部屋の片付けをしろ」と怒られていました」


潔癖気味…?


失礼な事だが、あの中途半端に髭を生やした人にしては以外な性格であると内野は考えてしまった。

だがこればかりは他の者も同様の疑問を抱いており、泉が疑問を声に出す。


「凄い意外ですね。

潔癖の人って毛の手入れを欠かさず、身なりにも気を使っているものかと思っていました」


「…5年前はそうでしたね。髭のケアは毎日行っていましたし、身なりにも気を使って数分コンビニに行くのにすら外出用の服に着替えていました。

だから兄さんのあんな格好を見ても本当に兄さんなのかあの場では判断出来なかったんです。


それにグループに上げた写真の通り、昨日僕は兄の家にまで行きました。家の中はゴミが散乱していて、とてもじゃありませんが兄の住んでいる家だとは思えませんでした。その時に色々尋ねたのですが、5年間で何があったのかは教えてもらえず…結局クエスト関連の事しか話してくれなかったです」


やはりあの川崎の格好は異常なんだな。元からずぼらな人だったら有り得るが、流石に今の話を聞くと5年間のうちに何か大きな事があったとしか思えない。でもどうして5年間も会わなかったんだ?普通に家に行けるのならもっと早く言えばよかったのに。


その疑問を尋ねてみると、慎二は少し俯きながらゆっくりと口を開く。その時の声は怒っている様な落ち込んでいるかのような低い声であった。


「…ごめんなさい。これ以上はあまり話したくないです…」


「あ、ごめん…あまり俺達が踏み込むべき話じゃなかったね」


その慎二の様子を見て不味いと思った内野は直ぐに謝罪した。「大丈夫です」と慎二は答えるが、周囲の者は誰も喋らなくなり気まずい雰囲気の沈黙が流れる。

元々他者とコミュニケーションを取るのが苦手な内野はこの状況で自分がどうすれば良いのか分からず、ただ黙って誰かがどうにかしてくれないかと黙って待つしかなかった。



「そうだ、俺達みたいなプレイヤーなりたて人は次のクエストでどうすればいい?

ここについて説明も色々されたけどもあまり頭に入ってないから、出来ればベテランの方々に指示してもらえると助かるのだが」


気まずい雰囲気を打開するため、尾花が皆に対して質問を投げかける。すると大橋は直ぐにそれに食らいついて再び沈黙が流れるのを避けようとする。


「まだ2ターン目というのでどれ程ルールが変わっているのか分からないからここでは何とも言えないな…

確か怠惰グループ達と今週の土曜日会うらしいし、そこで色々と……あ」


「「…あ」」


ある事に気が付いた大橋は言葉を止める。それと同じタイミングで新島と梅垣も同様に何かに気が付いて少し声を出したので、どうしたのか工藤が新島に尋ねる。


「え、なになにどうしたの?」


「クエスト開始は三日後ってあるけど…その日って川崎さん達と会う約束をしていた日だよね?」


「…あ、そうじゃん!」


クエストボード見た後直ぐに新規プレイヤーの騒ぎを抑えに向かったからそこまで考えてなかった…

川崎さん達も同じものを見ているだろうし、帰ったら日時をずらしてもらおう。

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