第108話 3回目の居眠り

気を取り直して川崎から届いたメッセージの続きを見る。


〈どうやら強欲グループでは運のステータスの仕様や恩恵を知っている者がいないらしいから、先にこの説明をしておく〉


これは川崎から届いていたのは、謎に包まれていた運というステータスについてで、興味をそそられた内野は一旦進上への不安を忘れてメッセージを読んでいく。


〈気づいているだろうが、そもそも運には他のステータスと違う点が幾つもある。SP1ごとに1しか上昇しない。ショップにあるQP10で買える『運上昇』というのを買うと運が1上がる。ポーションで運を上げるものがない。

これだけで普通のステータスとは異質なものだというのは分かる。俺はそれが気になり、新規プレイヤーを使って運にSP・QP極振りさせてみた。すると思いもよらぬ事が起こったんだ。

なんと運が20になったら『契りの指輪』という新たなアイテムが追加された。一回の購入で二個指輪が付いてくるもので、効果はペアの指輪を付けている者同士はクエストの転移時に同じところに転移するというものだ〉


え、これさえあれば常にペアの人とクエストで一緒に行動出来るって事!?


アイテムの効果に驚き目を大きくしながらも、内野はそのまま文を読み続ける。


〈どうやら黒沼もこのアイテムの存在を知っていたようで、『契りの指輪』を紫仮面の薫森に渡して共に行動していたという。

『独王』で戦闘が得意な薫森にステータスを渡していたのなら、魔物を狩る効率はかなり高いだろうし、二人のレベルだけ他より突き抜けて高いのも頷ける〉


他のメンバーと比べてレベル20以上も離れている事に疑問に思っていたが、これで二人のレベルだけ高かいのも納得出来た。だが二人がどんな行動していたのかなどの詳細は、共に行動していなかった赤仮面には分からないようでこの話はここで終わった。

次は傲慢グループについての情報が箇条書きで書かれていた。


・総人数170人

・平均レベル47


ここまでは特に目を惹くものはなかったが、次に記載されていたのは全てのプレイヤーが気になっているであろう情報であった。


・大罪について。

椎名しいなごうは誰とも行動せずにほとんど一人だから、『傲慢』の能力について分かっているのは、闇で自分の複製を作れるという事ぐらい。複製体の性能はどうなのか、複製体に意思はあるのかなどは分からないが、複製体すら更に大罪スキルで複製を作れることは確認済み。


こ…これが『傲慢』の能力…


さっき聞いた『独王』の方よりも凄さがあまり分からず、内野と松野の反応は微妙なものになっていた。


「…複製体の能力によっては独王の方が強いんじゃないか?俺まだクエスト一回しか受けて無いから何とも言えないけど」


「複製体が敵を倒してもレベルが上がるのか、複製体は本体に比べてどの程度劣っているのかとかでかなり強さが変わりそうだな」



どうやら小野寺(赤仮面)から聞き出した情報はこれぐらいで、最後に書かれていたのは今後小野寺をどうするかについてだった。


〈今日聞き出した事以外にまだまだ聞きたい話があるから、暫く小野寺は清水に預ける。

土曜日に会う約束をしていたが、その時にこちらは小野寺を連れて来ようと思う。内野君は憤怒グループの者一人を連れて来てくれないか?

怠惰・傲慢・憤怒・強欲の4グループについての情報を交換しておきたい〉


憤怒グループから連れてくる一人は笹森で良さそうだ。

だが一つ不安がある、それは…俺だ。強欲グループについての情報といっても、俺はクエスト経験数回だから教えられる情報は『強欲』の能力程度。川崎さんの聞きたい事に答えられないかもしれない。

…俺以外のクエスト経験回数が多いベテランの人も連れて行った方が良いな。


クエスト経験回数が多いベテランの人と考えると、真っ先に思い浮かんだのは梅垣であった。土曜日に会う約束をしている場所は都心の方で、松平や飯田は住んでいる場所が離れている可能性があるから梅垣が一番丁度良さそうである。


川崎にその旨を伝えると直ぐに返信で〈了解、ではそちらは3人で約束の場所まで来てくれ〉と来た。

正直自分一人じゃ不安で、梅垣と笹森も連れて行ける事に安堵して一息つく。


その後松野に「勝手に笹森と梅垣さんの予定入れちゃったけど大丈夫なのか?」と言われてハッとし、直ぐに二人にこの事を連絡する。

すると二人とも特に土曜に都合が無かったらしいので快く受け入れてくれた。


これにて川崎からのメッセージは終わる。

内野が荷物を持って帰ろうとすると、松野が声を掛けて引き留めてくる。


「なぁ、一つ提案があるんだ。この騒動が一通り終わったらプレイヤーの皆で何処かに出掛けてみないか?」


「皆で旅行とか…か。楽しそうだな」


「だろ?俺も早く皆と仲良くなりたいし、これならプレイヤー間の仲間も深められそうだよな」


皆で何処か出掛けるというのを想像すると、行けると決まっている訳では無いが内野の胸は高鳴った。


今まで家族以外と旅行に行く事なんてなかったし…少し考えただけでなんかワクワクしてきた。

行くとしたら二泊三日か?夏なら海水浴とかバーベキューも出来て楽しそうだし、黒沼の問題が終わったら皆で行きたいな。


そんな何時いつになるか分からない予定を思い、二人の表情は明るいものになっていた。



家に帰ってからは、授業が集中できなかった分の勉強を家でしていた。今週の土曜日は川崎達と会う予定があるから、その日勉強出来ない分今のうちにやらねばならなかった。

相変わらず頭の中にあるのはクエストの事ばかりで集中は出来ていないが、必死になって苦手な英語と歴史のワークを周回する。


数十分である程度は覚えたが、久々にやる本気の勉強に疲れて内野は眠気に誘われる。


18時51分か、いつもならクエストがあるかもしれないからこの時間には眠れなかったな。

今日は疲れたし休憩として少し寝よ、どうせ晩飯出来たら母ちゃんが起こしに来てくれるだろうし。


そう考え内野はベッドで横になって眠りについた。





「内野君、もしかして今日色々あったから疲れちゃったのかな」

「このまま寝かせておくべき…かな?」

「仕方ないんじゃない?

仮面の事もあるけど、急にクエストの黒幕に大罪スキルがどうとかって凄い立ち位置に立たされてるんだから」


ん……声?


なんだか新島達の声が聞こえる気がするが、眠いので内野はそのまま目を瞑ったまま二度寝をしようとする。



が、ベッドのはずなのに地面が硬い事に気が付き、内野は直ぐに飛び起きる。

内野の周囲には進上・新島・工藤がおり、3人とも急に飛び起きた内野に少しびっくりしていた。


…もう3回目だから分かるぞ。


内野がいたのはいつもと変わらないロビーの真ん中。これからクエストが始まるというのを直ぐに察することが出来た。

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