第109話 再会の二人
周囲には見知った顔の者ばかりだが、誰一人今日クエストがあるとは思っていなかったからか全員が困惑している表情であった。
取り敢えず内野はブレードシューズをインベントリから取り出して履き、近くにいた新島達の方を向く。
進上と工藤は今日会ったばかりだが、新島の顔を見るのは9日ぶりだったので最初に内野は新島に声を掛けた。
「久しぶり、と言ってもまだ9日ぶりか」
「私から見れば君に会うのは3日ぶりだけどね。それより今日は大変だったみたいだけど大丈夫?
進上さんと工藤ちゃんは助けに行ったらしいね、本当は家が近ければ私も…いや、行ったところで私じゃなにも出来ないか」
確かに戦闘に関しては新島じゃ力になれないかもしれないが、正直近くにいてくれれば安心出来る気がする。
…一回命を救われたからか?
二人がそんな話をしている間、進上と工藤はとある者達を見ていた。それは広間の前の方で向かい合う松平と飯田。
松平は飯田を見て目に涙を浮かべており、飯田さんは松野の肩に手を当てて何か喋っていた。
松平さん…ようやく飯田さんに会えて凄い嬉しそうだ。会えなかった期間はそんな長くはなかったが、安心して涙が出て来るのは俺は良く分かる。
松平と飯田の方をロビーにいるほとんどの者が見ており、それに気が付いた松平は顔を赤くして下を向く。飯田はそれを見て微笑み松平の頭を撫でるので、更に松平の顔は赤くなっていた。それに釣られてか他の者の顔にも笑みが浮かんでいた。
「おい内野。折角の再会ならお前も肩に手を当てて頭撫でてみたらどうだ?」
飯田達の方を見ていると、横から小声で何者かにそう言われる。後ろにいたのは寝巻の松野であった。裸足で寝巻という事から考えられたのは…
「…もしかして寝ようとしてた?」
「ああ、今日色々あって疲れたから眠くなってな。流石にこの格好で人前に出るのは恥ずかしいから、お前が起きるまで端っこに居たんだ」
似た者同士の二人を見て新島達がフフッと笑っていると、前にいた飯田が咳払いをした後に皆に向けて声を出す。
「皆久しぶり!不甲斐ない事に一度死んでしまったけど、松平さんのお陰でまた生き返れました!
これ以降のクエストは今までのものとは違うだろうけど、それでもこのメンバーが生き残れるように頑張るよ!」
飯田の帰りを待ちわびていたものは全員声を上げて喜ぶ。前回の新規プレイヤー達はそれぞれ違う反応であったが、以前梅垣を敵役にして飯田は信用を勝ち取っていたから悪い反応をしている者はいなかった。(92話)
「そうだ、いつも通り今回の新規プレイヤーに色々説明しないと。まだクエスト出て無いし、クエストの情報が出るのはいつも通りの時間かな」
飯田は新規プレイヤーの現れる部屋に小走りで向かいながそう言い、松平も飯田の後を追いかけていった。
二人の表情は明るく、そんな様子を見て内野の中にあった一つの不安は少し薄まった。
飯田さんはリーダーという立ち位置を重荷に感じていて今まで無理してたみたいだけど、松平さんも笑顔だし今の飯田さんの笑顔は無理に作った笑顔じゃなさそうだ。
でもリーダーという立ち位置を無くすって考えは頭に入れておいた方がいいかもしれない。まだまだクエストは続くから……
その後は木村や大橋達と合流したりして話していた。すると内野は一人の男に話しかけられる。一度も話した事の無い人だ。
「内野君…だよね?
前は君のお陰で僕たち助かったよ!ありがとう!」
男の人は内野の手を握り頭を下げた。それに釣られてか、周りの人もそれを見ると内野の方に集まって来る。
「あの狼を倒してくれてありがとう!」
「君のお陰で助かったよ!」
続々と色々な人たちが内野に礼を言いに来た。皆とはグループで色々話したが、実際にお礼が言いたかったようだ。
こんな多くの人に囲まれて礼を言われるのには慣れておらず、内野の中に大きな高揚感が生まれていた。
「皆、あれを見て」
誰かのそんな声で一同は視線を広間の前の方に移す。ドラゴンの石像の下にはいつも通りクエストボードが現れていた。
遂にクエストボードが出たか。多分ここで黒幕の言っていた防衛対象の者の名前が出てくるんだろうが…どうかターゲットに選ばれるのが知人でない事を願おう。
もうすっかり見慣れた光景だが、ボードを見に行く時の緊張度はいつもよりも高かった。近くにいた全員で揃ってクエストボードの近くまで行き、書かれているものを見る。
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防衛対象
〈レベル84〉二階堂 凛
〈レベル78〉石井 圭吾
〈レベル65〉早大 靖俊
〈レベル62〉芹澤 隆一
〈レベル59〉長谷川 瞬
〈レベル55〉相田 宗次郎
〈レベル53〉川島 啓五郎
場所:横浜
クエスト開始:3日後の昼時
クエスト時間:8時間
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これが今回のクエストボード。防衛対象になる者の名前と、クエスト場所、クエスト時間が書いてある。
クエストが今すぐ始まる訳ではないのと、7人の防衛対象の者に内野が知っている人物が誰一人いなかったので安堵し、ホッと一息つく。それは一同揃って同じ反応であった。
レベル的に全員他の大罪の所にいる人達だろうな。取り敢えず今回は強欲グループからは誰も選ばれなくて良かっ…
「緑仮面の名前があるな」
「!?」
急に後ろから声を掛けられ、急いで内野達は振り返る。そこにいたのは黒い帽子を深く被っている梅垣だった。いつもの黒いローブは来ておらず私服だ。
「梅g…」
内野が名前を口にしようとすると、梅垣に手で口を塞がれる。
「しっ、前回の新規プレイヤーには俺は悪役に見えているんだ。見つかって騒ぎを起こさない為に名前は口にしないでくれ」
内野が「了解」と首を縦に降ると手を離してくれ、クエストボードを見ながら話し始める。
「それよりも上から3番目にいる
「あ、緑仮面の名前…すっかり忘れていました」
「私もこれっぽっちも頭に浮かんで来なかったわ」
「僕も今日聞いたばっかりだけど忘れてた…よく覚えてましたね」
「ターゲットになった者は必ずクエスト範囲内から出られないらしいし、俺達からすると好都合。相手のサポート役を捕えるチャンスかもしれない。今度怠惰グループの川崎さんと合う時に計画を練ろう」
「分かりました」
「ふざけんな!」
「早く家に帰してよ!」
梅垣の話が終わったタイミングで、そんな罵声がロビーに響いた。声がしたのは新規プレイヤーが初めて出てくる部屋からだ。
大声で先陣を切って数人が部屋から出てくると、ぞろぞろと部屋から人が大量に出てきた。
今回の新規プレイヤーの数がかなり多く、学校のークラス分程度、40人ぐらいはいた。
飯田達は何とか騒ぎを治めようとしているが人数が多いので抑えきれずにいる。
これは俺達も手伝わないと駄目だな…
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