第106話 集会
内野達はそれぞれ教室へ向かい、着いた頃には8割方の生徒がクラスに戻ってきていた。
「空き教室の窓ガラスが割られてたらしいよ」
「しかもガラスの破片がある向き的に、誰かがボールをぶつけたって感じじゃないんだって」
「小西がいなくなってイライラしてる連中がやったんでしょ」
「あれ、屋上がどうとかって俺は聞いたんだけど」
「屋上のフェンスが壊れたってやつだろ」
クラスでの話は空き教室の事か屋上の事かの二つで溢れていた。内野と松野は知らん顔して自分の席に座り先生を待つ。
数分もしない内に担任の先生が入ってくる。内野のいる2-3の担任の先生は
最近は、内野と小西の事件でやってきたマスコミの相手を学年主任と副校長とするのに忙しく、疲れがたまっているのが見て分かった。以前より肩が下がり、声に活力があまりない。
「えーまた事件が起きました、今度は二件同時です。全員揃ったら体育館に移動するが一つ聞かせてくれ。
…このクラスにどちらかの事件の犯人はいないよな!?
頼むからこれ以上問題を起こさないでくれ!」
ごめんなさい先生…どっちも俺…
先生の心から出た叫びが教室に響く。それを聞いて皆は同情したりヘラヘラしてたりしていたが、内野だけは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
体育館に集まってされた話はやはりこの二つの事。
屋上の床の数か所に血痕があったので流石に警察を呼ぶつもりという。まだ双方の犯人は分かっていないらしいが、思っていたよりも大事になってしまい焦りで内野の顔は少し強張る。
バレたらヤバい…流石にこれ以上問題を起こしたら俺も退学になりかねないぞ…
体育館での校長からの話が終わりクラスごとに教室に戻ろうとした時、学年主任の先生が内野を呼び掛ける。学年主任の先生は顔が厳つく、呼び止められた内野以外も少しビビっていた。
「すまない、小西の事件について聞かねばならない事があるんだ。今すぐ来てくれないか?」
「ぁ…分かりました」
一瞬今回の事件の話かとヒヤッと背筋が凍ったが、以前の事件についての話と分かり内野は安心して先生に連いていった。
「あの窓ガラスを割ったのは君だね?」
「…はい」
なんと会議室で学年主任の先生に監視カメラの映像を突き付けられ、内野は言い逃れ出来なくなってしまった。カメラは廊下にのみあり、内野が紫仮面と共にトイレを出て空き教室に向かう所までしっかりと写っている。当然二人の顔はハッキリと写っている。
「この映像は私が最初に見つけて持ち出したから、他の者には見られていないから安心していくれ。
だが…幾つか疑問があるんだ。この君の前にいる者は誰だ?どうして窓ガラスを割った?出てくる所が移っていないが何処から出たんだ?」
内野は何も答えられず、俯いたまま黙り込んでしまう。それはこの質問の中に内野が正直に答えられるものは一切なかったからだ。
俺の前にいるのはここの生徒じゃない。
窓ガラスは飛び降りる為に割った。
出てくる所が移ったないのは4階から飛び降りたから。
こんなの話せるわけがない…
暫く沈黙が続くと学年主任がゆっくりと口を開く。普段は怖い先生だと生徒から恐れられているが、とても優しい口調だ。
これが普通の生徒のしでかした事ならば叱りつけている所だが、内野の場合は別である。学年主任は内野が現在小西関係で色々問題を抱えているのを知っているので、あまり追い込まない様に細心の注意を払っているのだ。
「…どうして割ったのか、一緒に行動している者が誰なのかは言いたくないのなら言わなくても良い。だが何処から出たのかだけは教えてくれないか?
監視カメラの故障で、教室から普通に出ていく所が移ってないだけって事はないだろうし、そうなると一ヶ所しか外に出れる所が思い浮かばないんだ。
まさか…窓から飛び降りたのか?」
万事休すか…これの言い訳の仕様が思い浮かばない…
覚悟を決めて正直に話そうとすると、少し先に学年主任の先生の方が声を出した。
「もしや、この君と一緒にいる者に無理矢理やらされたのか?だとするとこの生徒は小西の仲間なのか…?」
ッ!?
学年主任が考えたその予想を聞き、突如として内野の中に一つのアイデアが生まれた。それは…
「…実はそうなんです。
こいつはここの生徒じゃなくて他校の小西の仲間で、制服を来て潜入してきたんです。それで「4階から外壁を伝って下まで降りられたら、お前の勇気に免じてもう絡まない」と言われ、僕は渋々やりました。窓ガラスが割れたのは、それを断った僕に相手がキレて暴れたからです」
紫仮面を小西の仲間という事にして、全て小西の仲間に罪を被せる作戦だ。教室内にはカメラが無いし、これなら教室内で机が散らかったりしている理由も付けられる。
学年主任は小西について色々知っていたので、他校の生徒がこの学校に来ても不思議じゃないと考え内野の言葉を鵜吞みにする。
「なんて酷い事を…そんな命令はただの脅迫でしかない、私がこの件を警察に…」
「あ!いや、待って下さい!
この前の事もあって、今はこれ以上騒ぎを大きくしたくないので黙っててもらえませんか?
もしかすると本当にこれで小西の仲間から絡まれる事も無くなるかもしれませんし」
「流石にそれは…」
「実はこいつと一緒に4階から下りたので少し仲良くなったんです!なのでもう大丈夫かもしれません!
でも騒ぎになるとまた目をつけられるかもしれませんし、この件は内緒にしてもらえると助かります!お願いします!」
内野が机に両手を付け頭を下げると、学年主任の先生困ったような顔をしながら右手で頭を掻く。我ながら酷い噓だと思ってはいたがこれ以外思い浮かばない。
「確かにこの者が空き教室から出てくる所は写ってないし、二人で窓から降りたというのは本当か…それなら騒ぎにしない方が良い……のかもしれない…
分かった、今回だけは見逃そう。元々学校の窓や扉の老朽化が進んでいたし、早かれ遅かれ新調するつもりだったからその者を呼び出して被害についての請求もしない。校長にも「窓ガラス一つで内野君が小西の仲間から受ける酷い行為が無くなるかもしれない」と言えば今回の事は納得してくれるだろう」
「ありがとうございます!」
「だがこんな危ない事二度としたら駄目だぞ?
なんとも無かったから良いものの、もしかすると死んでいたかもしれないんだ。そんな事をやらなきゃいけない程君が追い込まれていたのに気がつかなかった私にも責任があるが、何事も話してくれないと分からないんだ。今度からは直ぐに何かあったら教えてくれ」
…やっぱり良い人だ。自分にも責任があるだなんて中々言えないし、本気で俺の事を心配してくれているのが伝わった。
今後小西関係で何かあったら真っ先に相談しよう。
内野が礼を述べて教室から出ようとすると、またしても声を掛けられ呼び止められる。
「そうだ。君は屋上の件について何か知っているか?」
「い、いえ、知りません」
「まぁ…そうだろうな。君にはアリバイがあるからあんな事が出来るとは思えない。疑うような聞き方をして悪かったね、どうか気を悪くしないでくれ」
内野は良い人に幾度も噓をついてしまった事に胸を痛めながら教室へと戻って行った。
教室へと戻っていく最中に自分のスマホを見てみると、新島達からの安否を確認するメッセージ、梅垣と川崎からは内野達離脱後の話をまとめたものが送られてきた。
今は授業時間であまり時間が無いので、簡単に木村や新島からのメッセージに目を通し返信する。
皆に心配かけちゃったな…でも仲間がいてくれたお陰で今はどうにかなったし、やっぱり皆に相談してよかった。
…あの黒沼(黒仮面)って奴も昔はこんな感じに仲間を信頼し合ってたんだろうか。
赤仮面が仲間思いなのは分かった、黒沼がどう思っていたのかは知らなけど…ムカつくな…絶対に数発殴ってやる。
敵であるはずの赤仮面を案外好きになっていた内野であった。
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