第105話 仮面の望み

その後も川崎は『独王』というスキルについて赤仮面に尋ねていった。それで判明した事を川崎がペンでメモしている音が通話越しに聞こえてくる。

そして書き終わるとメモした紙を撮り、念の為と言い内野に送信してきた。


内容は以下のものだ


・触れなければスキルは発動しない。この時のみステータスを分け与えたり出来るが、解除は遠隔で可能(黒沼はスキルに掛かっている者を眷属と言っているのでここでも眷属と書く)


・ある眷属のステータスを他の眷属に移す事が可能。だがそれには上記の様に黒沼が対象者に触れなければならない。


・MPと運は移せない


・スキルの効果が消えて眷属じゃなくなるとステータスは元に戻る。その眷属のステータスを持っていた者は、その分のステータスが消える。


赤仮面から聞けた『独王』というスキルについてはこれぐらいで、次は仮面達の計画について尋ねる。


「先程申した通り、俺達の目的は『強欲』と『魔力探知』の二つのスキルを奪う事です。

強欲を奪った事が他のグループのプレイヤーに知られれば、他の大罪達にも目を付けられると考え、それらの者達との戦闘を避けるために魔力探知系統のスキルが必要でした。

ですが傲慢グループの魔力探知スキル所持者は少し前のクエストで死んでいたので、どうしても強欲グループの者から奪わなければなりませんでした。そこで最初に考えたのが、内野さんを攫って人質にするというもの。こうして俺達は内野さんを襲いました。


ですがその時、内野さんは「俺が逃げて時間を稼いだのも、全て援軍が来るのを待つためだ」と言ったんです。見張っていたので分かりますが援軍を呼べるの学校から出る前ぐらいなので、この発言で内野さんが魔力探知スキルを持っている可能性が現れたのです。


そして今日、本当に内野さんが魔力探知スキルを持っているのか紫苑しおんに確かめてもらいました。わざと姿を見せ、魔力の反応がする方に追いかけてくるかなど」


「だから一時間目の体育の時にわざと姿を見せたんだな。でもそんなリスクを背負う必要あったのか?

俺が魔力探知を持っているとかなんて、俺を攫ってから幾らでも聞き出せるはずだろ」


「もしも貴方が魔力探知スキルを持っていた場合はそのまま捕えれば良い。ですが、持っていないのなら最初に襲った時に言っていた援軍を呼んだというのが噓になるので、今度は貴方を助けに来た者が魔力探知スキルを持っている可能性が出るんです。

それによって今後の動き方を変えるつもりだったので、確認が必要でした。恐らく紫苑が貴方にわざと援軍を呼ばせたという事は、貴方が魔力探知系のスキルを持っていないと判断したからでしょう」


〔…内野君。今の彼の話は全て本当か?〕


「はい、一応これで色々と合点がいきました」


内野のその返答を聞いて「そうか」と答えた川崎は、少し黙って考える時間をおいた後、再び口を開く。


〔それで今日の目的は…内野君の仲間を確認する事か?〕


「そうです。そして今回の目的は達成出来た…と言えます。

そこの二刀流の方が遠方にいた黄金こがねに気が付いたので、彼が魔力探知スキルを持っているのだと判明し。他の大罪グループとも組んでいる事も分かったので黒沼は満足でしょうね…」


〔そうか。それでお前は黒沼が今後どう動くつもりか知っているか?〕


「…ごめんなさい、俺達は知りません。もしかすると紫苑には何か話しているかもしれませんが…後のメンバーには何も…」


〔そうだろうな。全ての計画を知っている様な奴を見捨てて逃げるとは思えない。重要な情報を持っていたのなら、黒仮面は逃げる前に口封じのためお前を殺すはずだ〕


川崎のその言葉を聞くと赤仮面は拳に力を入れ、目に涙を浮かべる。


「俺は…俺は仲間さえいれば他の事なんてどうでもよかったんだ。あそこで築いたものが俺の全てだったのに…こんなあっさり見捨てられて…

俺達は一度も黒沼を足手纏いだなんて思った事ないし、本当にかけがえのない仲間だと思っていたのに…」


感情的になり敬語は消えてしまったが、誰もそれを責めない。

消え入るような赤仮面のそんな声と彼の目の縁から零れる涙を見て、これが赤仮面の本音なのは全員が分かった。


「少し…可哀想だね」

「内野を襲ったのは許せんが、これを見てしまうと…」


声に出したのは工藤と大橋だけであったが、他のほとんどのメンバーも同じ気持ちを抱いていた。




赤仮面が鳴き終わるのを待っていると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。それを聞いてハッとした赤仮面は袖で涙を拭い顔を上げる。


「すまない。こんな情けない所を見せてしまい…」


「いや、貴方が仲間思いだというのは分かって良かったです。先程の仲間を殺さないでという願いも出来るだけ守りたいと思います」


〔それが出来るかどうかは相手の出方次第だがな。相手がもし本気で殺る気ならこの約束を破る事になる〕


「本当ですか!?ありがとうございます!」


内野と川崎の承諾を得て、赤仮面は直ぐに深く頭を下げて礼を言う。さっきまでの緊迫感のある空気は完全に無くなっていた。



そのタイミングで校内放送が流れてくる。


《緊急集会を開きます。生徒は一度自分のクラスへ集合し、その後は担任の先生の指示で体育館へと移動してください》


このタイミングでの放送となると…多分俺達の騒ぎについてだな。俺は空き教室の窓を割っちゃったし…


この放送を聞いて、工藤が三人に教室へ帰るよう促す。


「内野と松野と…笹森だっけ?三人は早く戻った方が良いんじゃない?遅いと怪しまれるよ」


「本当はもう少しここで話を聞きたかったけど…そうだな、それじゃあ俺達3人は先に戻ります」


三人は渋々教室へと戻って行った。




「そういえばさ、あの笹森が呼んだおじさんの名前なんて言うの?」


「私も知らない」


「「え?」」


「秘密らしくて教えてくれないんだよね。SNSのアカウントの名前も『おじさん』だし、皆んなに渡してる名刺の名前も『おじさん』、そして一回もランキングに載ってないから名前が分からない。だからいつもおじさんって呼んでる」


笹森はあのおじさんの職場がここら辺だと知ってたし、仲が悪い訳じゃないんだよな?それなのに名前を教えないって…そんなに恥ずかしい名前なのか?

もしかしてキラキラネーム…いや、あの人40代の見た目だし流石にまだその頃はキラキラネームなんて無いよ…な?

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