第104話 独王

金髪の男の脅しに屈し、赤仮面はようやく口を開く様になった。流石に喋っている間は口に指を突っ込んでいられないので、「こっちにはヒールを使える者がいる。死のうとしても無駄だ」と梅垣が脅しを入れておいた。


「先ず…俺達の目標は大罪スキル『強欲』と魔力探知系統のスキルを奪う事…です」


「「!?」」


金髪の男・笹森・スーツのおじさんを除いたメンバー、つまりは強欲グループ全員が驚愕する。これには流石の梅垣も驚きを隠せていなかった。


え、スキルって奪えるのかよ!?

てか3人は驚いてないって事は…まさか方法を知ってるのか?


内野は3人の中で一番話しやすい笹森に尋ねてみる。


「笹森、もしかしてスキルを奪う方法を知っているのか?」


「…心当たりはある。レベル100に到達すると買えるようになる『強欲の刃』ってものを使えば出来るらしい。私はまだ買えないし詳しくは知らないんだけど、相手のスキルを一つ奪うという効果があるって説明文にあるらしいんだ。これは平塚さんから聞いただけだし、まだ使った事がある人がいないからどんなものなのかは分からないけど」


「そちらの金髪の…怠惰グループの方はどうだ。強欲の刃については何か知っているかね?」


笹森の仲間というスーツのおじさんは、金髪の男の方に強欲の刃について尋ねる。

この時、「平塚さん」「怠惰グループ」と聞いた赤仮面は清水達を見て驚いていた。まさか既に2グループと接触しているとは思っていなかったのだろう。


「強欲の刃でスキルを奪えるのは実験してみたから分かった。

てかこいつらの狙いが『強欲』スキルを奪う事だっていうのは川崎さんが予想していたから、そこについては問題無い。気になるのはどうして魔力探知系統のスキルが必要なのかだ。

内野の話を川崎さんから多少聞いただけだから俺は何とも言えないが、『強欲』を奪うだけなら簡単だったんじゃないか?」


金髪の男は長々とそう話ながらスマホをいじる。すると誰かに通話を掛けようとする。

その時チラッと金髪の男のスマホの画面に映るアカウントの名前が見え、この金髪の者の名前が『清水 政宗』というのだと分かった。

清水は梅垣に「あんた随分いい動きするし、周囲の警戒は任せた」と言うと、スマホを耳にあて通話を掛けはじめる。



通話の相手は川崎であった。清水は川崎にここまでの流れを簡単に説明する。

清水は川崎から予め色々言われており、その中に【仮面の者を尋問する時は自分に通話を掛ける】というのものがあったらしい。ちなみに清水が赤仮面の口に指を突っ込んだのも川崎に言われていたものらしい。

そしてここからはスマホ越しの川崎が尋問の進行をしていった。

(ここからは〔〕が川崎のセリフです)


〔取り敢えず君らの目的は分かった。

次に聞きたいのは、君らが魔力探知系統のスキルを欲している理由だ。魔力探知が貴重で有用なスキルなのは全プレイヤーが知っているはず。だがそれが大罪スキルである『強欲』と同じ位だとは思えない、普通なら『強欲』最優先で動くと思うのだが?〕


「…長くなるでしょうが全て正直に話します。仲間との事、ステータスが下がった理由、どうして魔力探知が必要だったのか全て話します。なので…一つお願いがあるんです」


赤仮面にはもう内野達に逆らうおうだなんて考えは無いようで、丁寧な言葉使いになっている。

お願いできる立場に居ない赤仮面が「一つお願いがある」と言ったのが気に障ったのか清水の眉が少しヒクついていた。

だが〔ものによるな、言ってみろ〕と赤仮面のお願いを聞こうとする姿勢を川崎が見せたことで直ぐに元の表情に戻った。


「どうか…俺の仲間を殺さないで下さい。あいつらも誰かを殺すつもりなんかないのでどうか…お願いします!」


通話越しの川崎には見えなかったが赤仮面はその場で土下座の様な姿勢を取る。全身の怪我のせいで少し土下座と違った姿勢になっていたが、声と表情から赤仮面が本気言っているのは感じ取れた。



「先ずは俺達の事から話します。

俺達5人は傲慢グループ所属で、5人とも同じ回にクエストに参加した同期。初回のクエストは中々厳しいもので、20人いた新規プレイヤーの中で生き残ったのが俺達だけでした。それで生き残った5人の仲は深まり、それ以降のクエストでも協力し合って魔物と戦っていきました。


五人の中で一番戦闘が出来たのは薫森…短剣を使ってた紫の奴で、次に俺と青が同等ぐらい、その次に黄色といった順番でした。そして緑は『バリア』と『回復』といった便利なサポートスキルを所持してました。

でも…一人だけ戦闘もあまり出来なくて、当時はあまり良いスキルを持っていなかったんです。それがさっきテレポートで現れた黒仮面の…『黒沼 浩司』で、今の俺達のリーダーです」


あまり戦闘が得意じゃない人が今ではリーダー、それに『当時は』あまり良いスキルを持っていなかった。この言い方から察するに…


「さっきステータスが高かったのって、もしかして黒沼のスキルの仕業?」


「…はい、今の俺のステータスが元に戻ったのも黒沼がスキルを解除したからです。

あいつはこのスキルを手に入れてから変わってしまった…まるで今まで抑制されてきた欲が爆発したかのように…」


話していると、次第に赤仮面は悲痛な表情になっていた。拳に力が入っており、唇を少し噛んでいる。


さっきまで赤仮面は敵だった者だが、仲間思いというのは十分伝わったので、自然と皆の中から赤仮面に対する怒りなどは消えていた。


〔それじゃあ黒沼の手に入れたスキルについて教えてくれ〕


「…スキル名は『独王どくおう』。スキルを使用した相手のステータスを自分や他の者に移せるという能力です。これは何人にでも適応出来て、例えば五人分のステータスを一人に集めるって事も可能です。」


多少バラつきはあったが、その場にいる全員の顔が驚きの表情へと変わる。そして内野を含む数人はそれと同時に仮面達の強さの理由にも納得出来た。


〔なるほど。その話が本当なら仲間の数だけ強くなるんだな…それでお前の仲間は全部で何人だ?〕


「仲間…は俺達5人ですが、黒沼がそのスキルを使用したのは100人以上です。

黒沼は『独王』を無詠唱で出来る様になると、傲慢グループのほぼ全プレイヤーにこのスキルを使用しました。このスキルは発動しても派手な光とかが出ないので、皆はまだこのスキルを使われた事に気が付いてません。

ですので俺達に防御力のステータスを奪われている事に気が付いてないでしょう」


「って事は…百人のステータスを一人に集めることも出来るのか?」


「可能ですが、そうなるとステータス使用のMP消耗が激しくなるので現実的ではないかと…」


ステータス使用のMP消費?


皆も内野同様に疑問に思い、強欲グループのプレイヤーの頭の上に『?』が浮かんでいる。それを見て清水は電話越しに川崎に何か耳打ちすると、川崎から説明をされる。


〔その感じだと強欲グループは知らなさそうだな…まずステータスの恩恵を得るのにはMPが必要なのを知っているか?〕


「はい。MPが少なくなると生身の状態になるのは知ってます」


〔そうだ、それじゃあステータスの力を使う度にMPを消費しているのは?〕


「いえ…それは知りませんでした」


それは初耳だが、よくよく考えてみたら納得できる。

MPが無いとステータスの力を使えないというのは、裏を返せばステータスの力を出すのにMPを使っているという事。つまりMPはステータスの力を出すための燃料になっているんだ。


〔ま、取り敢えずそこら辺の詳しい話は後日にしよう。今はステータスの力を使う度に少しだけMPを消費しているって事だけを頭に入れておいてくれ〕


こうして川崎は赤仮面の尋問へと戻る。

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