第103話 黒仮面

突然現れた黒仮面の男。彼が仲間の仮面達を助けに来たのは明らかであった。


新手か!?

急に現れたって事は恐らくテレポート…コイツを3人に近づけるのはマズイ!逃げられるぞ!


緑・黄・青仮面は目の前に現れた黒仮面の男に急いで手を伸ばして触れる。

この動きから黒仮面のテレポートで逃げようとしているのが分かり、逃がさない為に大橋・川柳・進上は急いで黒仮面から3人を引き剥がそうとする。


「ウィンド」


緑仮面がスキルを使用すると突然緑仮面が手を向けた向きに突風が吹き、その方向にいた大橋と川柳が吹き飛ばされる。二人とも屋上フェンスのお陰で落ちずに済んだが、かなり飛ばされてしまった。

人が吹き飛ばされるほどの風であり、他のメンバーも仮面達に寄り付けない。唯一風を出した緑仮面の逆方向にいた進上のみまだ仮面達の近くにおり、緑仮面の腕を切り飛ばそうと剣を振るう。


だが緑の仮面を庇うように青仮面が前に出ると「フルメタル!」と言いスキルを使用する。一見なんの変化も無かったが、進上の剣と青仮面の身体が触れると金属同士がぶつかった様な音がした。

このスキルの効果は身体や衣服が鉄の様に硬くなるというもので、自分も動けなくなるが防御力が上がるというものだ。それのせいで進上の剣は青仮面に傷一つ付けることが出来なかった。


その後に進上も緑仮面の風によって吹き飛ばされ、「テレポート」と黒仮面が唱えると仮面達4人は内野の目の前から消えた。


遠くに逃げられたかと思ったが、黒仮面達は紫仮面の近くに転移していた。紫仮面と戦っていた金髪の男は、仮面達4人が目の前に現れたことで退かざる得なくなる。


「クソ…逃げられるな」


「うん、逃げさせてもらうね。本当はもっと戦っていたかったけど」


紫仮面は名残惜しそうにそう言うと黒仮面の肩を掴む。


それを見ていた梅垣は赤仮面だけでも逃がさまいと赤仮面に詰め寄っておき、黒仮面が赤仮面の近くに転移出来ない様にする。

そして赤仮面の首に剣を突き立て、黒仮面達に警告する。


「こっちに来たらコイツを殺す」


「…」


黒仮面は頭だけ梅垣の方に向ける。そして少しの沈黙の後に遂に言葉を発した。


「紅、剝奪だ」


「えっ、ちょ!」


黒仮面はそれだけ言い残し、赤仮面一人のみ置きざりにしてテレポートで何処かへ消えていった。今度は工藤の兜でも魔力の光が見えなくなるぐらい遠くだ。


え、赤仮面はどうするんだ?隙を見て回収するって感じか?


赤仮面を残して消えたので、まだ油断ならないと赤仮面の方に目を向けると、何やら赤仮面の様子がおかしくなっていた。


「み…見捨てられた……そんな…」


赤仮面は頭を抱えてその場で両膝を付く。今にも泣きだしそうな震えてる声だ。


「まさか仲間に見捨てられたのか…?

おい!お前の仲間は本当に逃げたのか!?」


「どうしよう…どうしよう…」


あまりにも気が動転したからか、赤仮面は大橋の声掛けに全く返答せずにひたすら「どうしよう」と連呼している。

この焦り方はとてもじゃないが演技だと思えないので、これが自分達をハメる為の作戦だとは考えられなかった。


「…おい。本当に見捨てられたのか?」


梅垣が赤仮面の肩に手を置いてそう尋ねるが、相変わらず赤仮面は同じ言葉を連呼しているだけで何も返さない。

そんな赤仮面に無理矢理にでも喋らせる為、梅垣は赤仮面の太股に剣を突き刺す。

すると梅垣の剣は太股の奥深くまで突き刺さり、赤仮面は痛みのあまり苦しみ声を出して地面を転がり込む。


「ちょ、梅垣さん。流石にそこまでやらなくても…」


流石にやり過ぎだと思い内野は直ぐに梅垣を止めようと前に出る。だが何故か、赤仮面を刺した梅垣までも驚いた顔をしていた。


「おかしい…どうしてこんなに防御力が下がっているんだ!?

さっきまでのお前ならこんな攻撃じゃ多少の切傷ができる程度なはず。お前にはまだMPが残っているし生身状態じゃないのは分かってる、一体どうして…」


どうやら先程までの赤仮面の防御力を考えて刺したらしいが、赤仮面の防御力が異常に低くなっていたからこんなに深く怪我させてしまったらしい。



「…取り敢えず赤仮面に対する尋問は屋上以外の所でやろう。大分屋上の階段辺りに人が集まってきているみたいだし」


笹森の言う通り屋上の階段辺りのざわめきが大きくなっていた。戦闘の金属音が激しくぶつかる音などを聞いて生徒や先生が集まっている様である。

今は大橋のスキルで扉が開かない様にしているが、屋上へ来るのには外階段を通る道もあるので、そっちから誰か来る前に移動しなければならなかった。


取り敢えず梅垣が赤仮面を担いで屋上から飛び降り校舎裏に向かったので、それに続くように一同も屋上から去る。当然階段は使えないので全員飛び降りなければならない。


「内野、私を抱っこして」


「え、俺?」


屋上から飛び降りる時、ステータスが低い工藤は誰かに抱えてもらわなければならなかった。それで工藤は内野にそれを頼んできたのだ。


内野はこんな状況であるのにも関わらず浮かれた考えが頭を過る。女子への免疫力が極小である内野が「抱っこして」と頼まれてウキウキしてしまうのは仕方のない事であった。


こんなに人がいてわざわざ俺を選ぶって事は…やはり工藤は俺に気があるのでは?


「そうりゃそうよ。これを頼める人の中で内野が一番汚れてないから選ぶのは当然でしょ?」


「あ…なるほど、消去法ね」


進上は青仮面の攻撃で血が出ており、大橋はスキルを使用したことによりかなり砂が身体に付いている。

別に工藤が好きと言う訳では無い…と思うが、消去法だと分かり内野は少し落ち込み肩を落とす。




内野は工藤をお姫様抱っこして飛び降り、他のメンバーは普通に屋上から飛び降りる。レベルが低い松野は以前のスカイダイビングの時に防御力を上げていたお陰で変な態勢で着地しても無傷だ。


梅垣・金髪の男・笹森・スーツのおじさんが武器を構えて赤仮面を囲み、逃げられない様にしてから尋問を開始する。

この時には赤仮面の仮面は外されており、太股を刺された事で梅垣に恐怖を抱いたのか怯えていた。赤仮面の顔は大学生ぐらいといった所で特に特徴は無い顔だ。


「さて…どうしてお前の防御力が下がっているのか、お前らの目的が何なのか聞かせてもらおう」


「それは…しゃ、喋れません…。俺は仲間を裏切れ…


ボキッ!


仲間を裏切れないと言おうとしていた赤仮面であったが、言い切る前に骨が折れた様な音がした。

それは金髪の男が赤仮面の右小指を折った音であった。


赤仮面はあまりの苦痛に叫び声を上げるが、直ぐに金髪の男に首を絞められて声が出せなくなる。そして更に金髪の男は、赤仮面の上顎と下顎の間に自身の指を突っ込む。

そして金髪の男は冷たい口調で喋り始めた。


「お前は自分の立場が分かっていないのか?

何でか分からんが今のお前にはさっきまでの力を感じない、そんなお前にこの場で選択権でもあるとでも?

洗いざらい全て話すか仲間の情報を吐かずに自殺するか何て選択肢は与えん。自殺なんかさせるものか。今のお前にあるのは全てを話すという事だけだ」


上顎と下顎に指を突っ込んだのは赤仮面が舌を嚙んで自殺出来ない様にする為であると分かり、咄嗟にこれが出来た金髪の男に内野達は驚きを隠せていなかった。


内野・工藤・松野は指が折られた段階で「うげぇ…」という風に顔をしかめ、川柳・大橋・笹森は少し眉をひそめていた。

梅垣・進上・スーツのおじさんは他の6人ほど表情に感情があらわになっておらず、これを見てもあまり表情に変化が無かった。


川崎さんの所から送ってもらった人だろうけど…もしかして尋…拷問慣れしているのか?

それじゃあ川崎さんも…


川崎もそうなのかもしれないと思い、内野は少しだけ川崎に対する恐怖を覚えた。

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