第102話 黒の救世主

「大橋さん!このまま落下すると危険なので砂でどうにか出来ますか!?」


「任せろ!」


落下中の内野の指示に従い、大橋は固まって落下する皆を囲む様に砂のドームを作り出す。

砂だらけになったものの、おかげで誰一人怪我する事無く着地する事が出来た。


「笹森、あのおじさんと金髪の人がお前の仲間か!?」


「おじさんは私の仲間だけど…あの金髪の人は知らないよ。でもおじさんのお陰で赤仮面以外のバフが無くなった。今ならやれるかも!」


そうか…ならきっとあの人が川崎さんが送ってきてくれた怠惰グループの人なんだ。



金髪の者に飛ばされた赤仮面は、自分の肩の怪我を見て驚愕していた。


「ッ!

この槍の奴ヤバいぞ!マジックブレイクを喰らってない俺の身体を傷つけやがった!」


唯一おじさんのマジックブレイクを避けバフが掛かっている状態の赤仮面であったが、その赤仮面に怪我を負わせた事に他の仮面達も驚きを隠せていなかった。


くれない落ち着け。

相手は攻撃特化のステータスなはずだし付け入る隙はいくらでもある。だからこの槍の奴は俺が相手する、当たらなければどうってことないもんね。

俺はここに残るが退きたければ退いても良いぞ。てか赤以外はもう退いた方が良い、バフが切れた状態じゃやられかねん」


紫仮面は目の前に現れた強者に興奮を抑えきれず今にも飛び出しそうになっていたが、その欲を抑えて仲間に指示をする。

紫仮面の命令に従い、青仮面と緑仮面は屋上から飛び降りようとフェンスの方へと走り出した。


だが二人がフェンスの方を向いた瞬間、黄色の仮面を被った者が学校の屋上へと飛んできた。あまり深くは無いが全身に切傷があり、余程焦っていたのか着地に失敗して屋上の床を転がり込む。


「その傷はどうしたんだ黄金こがね!」


「目的の者は見つけた!だがそいつが相当な手慣れで…」


黄色仮面が味方に向かいそう話していると、先程黄色仮面が来た方向からもう一人やって来る。黒ローブに身を包み、両手に二つの剣を持っている男。


今度の者は内野達も知っている人物であった。


「梅垣さん!」


「遅れてすまない。こいつを倒すのに手こずってしまってな」


最後にやってきた助っ人は梅垣であった。クエストの時を違いフードを掛けておらず、ハッキリ顔が見える状態だ。

黄色仮面はここに来た時に息が上がっていたが、梅垣の息は全く乱れていない。それどころか全く負傷した形跡は見つからなかった。


梅垣・おじさん・金髪の男。三人の助っ人により状況が一変した。


これならこいつらにも勝てる…が、さっきの黄色仮面の『目的の者は見つけた』っていうのが気になる。

未だにこいつらの目的が分かってないし…



「目的は達成できた訳だし帰ろう…といきたい所だけど、そうは簡単にはいかなさそうだね。ローブ着てる奴と金髪の奴は相当な手慣れだろうし」


「ああ、目的を吐いてもらうぞ。

内野君を襲った理由と、さっきの『目的の者は見つけた』っていうのが何なのか知りたいしな」


「じゃあまだ暫くは戦うしかなさそうだね。

取り敢えず俺は金髪の男をやるから、くれないに黒ローブは任せる。残りのメンバーは後ろの奴らやっといてくれ。MPの出し惜しみはせず、大罪への警戒は忘れずにね」


「了解!」


紫仮面の命令に返事し、仮面達は各々武器を前に構える。

赤は剣、青は素手、緑は杖、黄色は弓、紫は短剣。先程の少しの対話の間に緑仮面は赤仮面の負傷をヒールで直しており、向こう側で負傷しているのは黄色仮面だけであった。



「さっきの私のマジックブレイクとガードブレイクで、あの赤・黄色仮面の奴以外の防御力は下がっている。今なら君らの攻撃も通じるだろう」


スーツ姿のおじさんは、目前の前に敵がいるというのに鏡を取り出して身だしなみを整えながらそう言う。


こちらは内野・進上・工藤・松野・大橋・川柳・笹森・梅垣・おじさん・金髪の男。

相手と同じ様にこちらも工藤のヒールで笹森と進上の怪我は大方治った。笹森の身体の自由を奪っていた毒もヒールでかなり軽減され、戦闘に参加できる程度には動けるようになっていた。


学校の屋上のドアは大橋が砂の壁を出して封鎖し、一般人が入って来れない様にしてある。

学校の屋上は仮面達と対決する為のフィールドと化していた。



それからはプレイヤー同士のぶつかり合いが学校の屋上で行われた。

金髪の男は紫仮面の相手。紫仮面の床や壁から槍を出せるスキルは屋上では真価を発揮できず、金髪の男の猛攻に押されていた。だがそんな状況であっても紫仮面は顔に笑みを浮かべていた。


梅垣は赤仮面の相手をしている。バフにより赤仮面の防御力はかなり高く、剣を振るうも浅い切傷ぐらいしかつけられない。

だが赤仮面は梅垣の動きに一切付いていけておらず、ただ一方的に浅い傷を付けられ続けていた。

梅垣が今まで相手していた黒狼に比べれば、赤仮面などただ防御力のある雑魚同然であった。


そして残りのメンバーは緑・青・黄色仮面と対峙していた。笹森のハンマーにある『マジックブレイク』の効果で黄色仮面のバフも消え、バフがなくなった3人には内野や進上の攻撃でも十分の負傷も与えられるようになる。


数の利もあり、こちら側は大した負傷を負わずに3人を追い詰めていた。3人の中でも青仮面が一番前に出ており、一番負傷を負ったので最初に青仮面が片膝を床に付いた。


「クソ…こんな攻撃なんかに…」


「よっぽどバフ頼りだったみたいだな。で、そろそろ降参したらどうだ?

赤と紫の奴もそろそろ限界だろうし、もうお前らに勝ち目は無い。それに俺はまだ大罪スキルを使ってないぞ」


「ちっ…」


3人を追い詰め、内野が一歩前に出て青仮面に降参するよう促す。まだ自分は大罪スキルすら使ってないと言い、相手の戦意を更に削ぐ。

仮面で表情は見えないが、3人は確実に焦っていたのが雰囲気から何となく分かった。


恐らくもうこいつらに策はないだろう。工藤に仮面を返して周囲を見てもらっているが、もう他にプレイヤーはいないらしい。


「お前ら5人組か?他に仲間は?それに目的は何だ?」


聞きたいことを質問してみるが、相手は全く喋ろうとしない。その3人を見て隣にいた進上が内野に小声で提案してくる。


「ねぇ…試しに一人殺ってみない?

それで後の二人を脅して情報を吐かせれば楽だと思うんだけど」


「…確かに楽かもしれませんが、少なくとも相手に俺達を殺す気はありませんでした。

だから流石に誰か殺すっていうのは駄目です…」


平気で人を殺すだなんて言ってくる進上に少しゾっとしたが、内野は冷静にそれを断る。

そして笹森の助っ人であるスーツ姿のおじさんの方を向く。


「取り敢えず梅垣さんと金髪の人があの二人を倒すのを待ちましょう。

えっと~笹森の助っ人の方は赤仮面にマジックブレイクっていうの喰らわせられます?

防御力さえ元に戻れば梅垣さんが直ぐに倒してくれるでしょうし」


「可能だ…が、もう終わるみたいだぞ」


おじさんがそう言ったと同時に赤仮面は床に倒れた。全身切傷だらけで血まみれになっており、立ち上がろうと体を動かすが痛みでそれが出来ずにいた。もう赤仮面は戦えそうにない。


そんな梅垣の戦いを見ていた笹森は内野の隣に行き、梅垣について尋ねる。


「内野君、あの人何者なの?

あのバフがある状態の赤仮面を完封してたけど」


「あの人は…たった一人で使徒と戦い続けていた人です。ウチのグループの中で確実に最強ですよ」


「使徒と一人で戦ったって本気で言ってる?」


「負傷した状態の使徒とらしいですけどね」


それを聞いた笹森は目を丸くして驚き、スーツ姿のおじさんは内野を疑っているかの様に眉をひそめる。彼も使徒の強さを知っている故に、とてもじゃないがそれを信じる事は出来なかったようだ。


残りは紫仮面と金髪の男のみで、こちらも金髪の男がリードしていた。もはや戦況がひっくり返される事があるとは思えず、その場にいる全員が完全に勝った気でいた。



「ッ!?

内野君!そこに一人プレイヤーが増えたぞ!」


そんな全員が油断しきっていた時、突然梅垣が振り返ってこちらに注意を呼び掛ける。それを聞いてすぐさま周囲を見てみると、一同の視線は一人の者に集まった。



なんと内野達が追い詰めた3人の仮面達の前に、真っ黒の鬼の仮面を被っている者が立っていたのだ。その者は音なく現れたので、内野含め仮面達を見張っていた者以外は全く気が付けなかった。


内野がその黒仮面を目撃した時には、仮面達3人を見張っていた川柳と進上が既に槍と剣で男に攻撃していた。だが黒仮面には二人の攻撃は効いておらず、一切態勢を崩すことなく平然と立っていた。

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