第100話 集うプレイヤー
学校の屋上に既に7人プレイヤーが集まっていた。
強欲側…内野・進上・松野・川柳・笹森
仮面側…紫仮面・青仮面(紫仮面の仮面は取れていますが、名前は紫仮面のまま書きます)
内野が周囲を確認する限りここに向かって来ている者はまだおり、内野は退くか戦い続けるか迷っていた。
笹森が紫仮面と、川柳が青仮面と対面している間にあれこれ考えているが、どうするべきなのか分からず頭を掻く。
相手の目的は俺と俺の仲間なのは分かった、だがそれ以上がさっぱり分からないから判断に困る。
俺の仲間を把握するのが目的?
俺と同じ様に仲間も攫うつもり?
これが分からないから、ここで退いて良いのか分からない…ここで退いた所でどうにかなるとは思えないし…
「内野君、僕の
近くにいた進上に声を掛けられ内野は顔を上げる。
「我儘って一体…」
「僕はここで戦っていたい、もしも退くなら僕を置いてって」
進上の顔は紫仮面の様な狂気的な笑顔では無く、微笑むような優しい笑顔であった。
え、ちょ…進上さんどういうつもり!?
もしかして…
「もしかして…僕らが逃げる時間を稼ぐ為に残るつもりなんですか!?」
「え?
いや、今言った通り普通に戦いたいだけなんだけど…」
内野の言葉を聞いて、今度はキョトンとした顔になる。
…そう言えば進上さんって前回のクエストの転移前にクエストを待ち望んでいるかのような表情してたよな。
それにフレイムリザードの時も魔物と戦いたがってたし…
「…戦うの好きなんですか?」
「う~ん…まぁ、そんな感じ」
進上はそう言うと笑顔のまま青仮面の方へと向かって行った。
最初は俺が判断に困っているのを見て、気を利かせてあんな事を言ってくれたのかと思ったけど…あれは素で言ってるっぽいな。
でも進上さんが戦うつもりなら、俺だってやってやる。
奇しくも進上の言葉のお陰で内野は決断を下す事が出来た。これが狙ったのか偶然なのかは進上にしか分からない。
青仮面一人に対して内野・進上・川柳が囲んでいる。
紫仮面の方には行かずに青仮面の方に向かったのには理由がある。内野の狙いは少しでも早く相手の数を減らす事であるからだ。
「一人に対して三人で囲むとは…随分と俺を高く評価してくれてるんだな。
だが俺より
青仮面は笹森達の方を見ながら三人に向かってそう言う。コードネーム的なものなのだろうが、取り敢えず紫仮面が何と言われているのか分かった。
「残念ながら俺らもそのハンマー女より弱いんだ。弱い者同士戦おうって事だ」
それに対して内野は皮肉気味に返してみるが、相手は特に逆上などせずに静かに笑うだけだった。
相手がムキになって自分を狙ってくるのを期待していたがそれは叶わなかった。
こうして話してても仕方ない、俺が先陣切って仕掛ける!
膠着していた状況の中、内野は最初に動き出した。それにより川柳と進上も前へと踏み出す。
青仮面は最も警戒せねばならない内野から距離を置く様に後ろに下がる。進上はちょうどその隙に剣を振るうが、青仮面は流れるようなスムーズな動きで裏拳を剣の横から当て、進上の剣の軌道を曲げた。
今度は川柳が首元を狙って槍で突き刺すが、青仮面はそれを片方の掌だけで受け止め、その後槍頭を握り潰す。
川柳はその槍から手を離した後、もう一つ槍を手に出す。今度の槍は先程の鉄の槍とは違い、少し錆びているが黒色の竜の装飾が入った少し豪華な槍であった。
「ドリルウェポン!」
スキルを発動すると槍が高速でドリルの様に回りだし、そのまま前に突く。今度のものはまともに受けるとマズイと感じたのか、青仮面は態勢を低くして避けてから蹴りで槍を折ろうとする。
だが今回の槍はかなりの強度があり、槍は曲がるどころか傷一つ入らなかった。
「これ硬いな!この槍本当にお前のか!?」
「…?そうだけどそれが何か?」
川柳はそう答えながらも槍で突くのをやめない。青仮面は3人に反撃するのより回避と防御に徹しており、時間稼ぎをしている動きなのは何となくわかった。
相手のペースに吞まれてる…どうにかしてこの青仮面だけでもやるか、誰かが来てこの流れを変えてくれないと…
内野がそう願った時、何者かが屋上のフェンスから上がってきたのが分かった。
「内野!加勢に来たぞ!」
「内野!加勢に来たわよ!」
そこにいたのは工藤を背負っている大橋であった。工藤は間髪入れずに手のひらを青仮面に向けると、そこから氷柱が勢い良く飛んでいく。スキル名を言ってないので無詠唱だ。
そこそこ距離があったので青仮面は飛び上がりそれを容易く避ける。
だがその直後に氷柱の軌道が弧を描いて変化し、飛び上がった青仮面の背中に直撃する。
大したダメージにならなかったが、空中で青仮面の態勢を崩すのには成功した。
「どんなもんよ!今のうちにやっちゃって!」
工藤のその掛け声と共に進上が走り出し、空中の青仮面に向かって飛ぶ。
「炎斬一閃!」
進上のスキルで刃が炎に包まれ、青仮面の胸から腹にかけて剣を振るう。が、青仮面の身体には傷一つ付いていなかった。
「なっ!」
「ハハ…連携は良かったが残念だったな!」
青仮面は空中で身体を捻り、進上を勢い良く蹴りつけた。進上は腕で蹴りをガードするが、蹴りの衝撃で床へと叩きつけられる。
進上はそれでも立ち上がるが、蹴りを受け止めた腕は折れており、もうまともに腕を動かすのは無理そうであった。
「おっと…良い攻撃力の割に防御力は上げてないんだな。まさか空中での蹴りでそこまでいくとは思わなかったぜ」
進上の与えた攻撃に対して相手は痛がってすらおらず、今ので相手とのステータス差がどれ程のものなのかを一同は痛感する。
今の進上さんの攻撃は完璧だった。それなのにあんなピンピンしてる…これじゃあ大橋さんや工藤が来ても無理だ…
一同の表情が曇ったのを見て、青仮面は面白がるようにさらに追い打ちを掛ける。
「絶望してる所悪いな、どうやら俺の仲間が来たみたいだ。そんでもってハンマー女もダウンしたぞ」
後ろを振り返ると笹森が紫仮面の前で倒れていた。そしてその近くには赤仮面もおり、赤仮面の持っている赤黒い剣は笹森の血で濡れていた。
赤仮面のあの剣に毒があるのは以前の会話から知っているので、笹森がアレの餌食になったのは見てわかってしまった。
「あーあ、紅がこの子斬っちゃったから動けなくなっちゃったじゃん」
「すまん紫苑。だがコイツの武器が『マジックブレイク』付きだから仕方ないだろ」
「でもさ~この子中々強かったからもう少し戦っていたかったんだけど」
赤仮面と紫仮面は吞気にそんな事を言っている。
紫仮面を抑えていた笹森はもう戦えない。今戦える内野・工藤・大橋・川柳で、圧倒的格上であろう三人を相手しないといけなくなってしまった。
先程まで、ここで逃げても無駄という考えで仮面達と戦っていた。だがこれ程の実力差を見せられ、いよいよ戦っても無駄でしかないと思えてしまった。
「どうしよう…もないのか…?」
内野は両膝を地面に付き、ついそんな声が口からこぼれる。その声に青仮面は反応する。
「そうだ。大人しくしているっていうのならこれ以上の戦闘はしない。その方が賢い選択だと思うぜ」
「大人しくしてろって…一体何をするつもりなの!?内野を攫って何がしたいの!?」
工藤は内野の前に出て、威勢良く青仮面の前に立ちはだかる。工藤の声も身体も震えており、これが単なる虚勢というのは内野だけでなく敵にも分かった。
「悪いね、理由は今話すわけにはいかないんだ。こんな状況でも虚勢を張れる君の勇気には称賛したいが、大人しく座っててくれると助かるよ」
後ろから紫仮面にそう言われ工藤が口答えしようとすると、とある者によってそれを止められる。
「工藤、それに皆。こいつらに従おう。もうどうやっても勝てやしない」
工藤を止めたのは内野であった。
「松野、お前もこっち来い」
更に内野は屋上階段辺りで身を潜めていた松野すら呼び出す。
そう、
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