第99話 どっちの助っ人?

「ッ!それじゃあ助けに行った方が良くないか!?

もう一回魔力水を飲まないとテレポートは使えないが、その人も一緒に逃げるっていうのは出来るぞ!」


「内野君、その魔力の反応の大きさはどう?」


二人が同時に声を上げる。内野は冷静に状況を見て、考えをまとめてから喋り出す。


「…まず、紫仮面の魔力の大きさは笹森と同程度。

大きさでしか判断出来ないから確証は無いけど、今屋上にいるうちの片方が多分その紫仮面。

そしてもう片方の人の魔力の光はあまり大きくない。こっちが援護に駆けつけて来た人なら、今すぐ行かないと間に合わないと思う。

だから…」


魔力の動きの動向をじっくりと見て誰が敵なのか突き止めるという余裕は無い。

そして自分を助けるために来てくれた人を見殺しにするという選択は頭に無い。そうなるともう一つしか道はなかった。


「このまま屋上に行こう!

その人と一緒にテレポートで逃げるか、それとも他の援軍が来るまで耐えて向こう側と戦うかどうかは上の様子を見て決めよう」


「おっけー、それならまた魔力水を買っておく」


「私はそれで良いよ」


そうと決まれば行動は早かった。

真っ暗なので手で壁を伝って扉まで移動し、そっと扉を開けて外に出る。

暗いところから急に明るい所に出たので3人は目を細めながらも屋上への階段を上がっていく。


そして屋上へのドアの元へと着いた。

物音を立てない様にそっとドアノブを捻ると鍵はかかっていない事が確認出来た。


「少しだけ開けて屋上の様子を見る。

相手はテレポートで俺達が遠くに逃げたと思っているだろうし、まさかこんな近くにいるとは思っていないと思う。だからタイミングを見計らって不意打ちで攻撃するぞ。

笹森の攻撃が一番強いだろうから、タイミングは任せる。


松野は敏捷性が上がってないだろうからここにいてくれ。

俺が手をチョキにしたら、それが逃げる合図だ。そうなったらテレポートで逃げるぞ」


二人はその指示を聞いてコクリと頷く。

内野はそっと少しずつドアを開けていき、外の様子を覗き見る。




屋上では二人のプレイヤーが戦っていた。

一人は先程まで内野を襲って来ていた紫仮面だったが、もう一人は衝撃の人物だった。


『進上さん!?』


内野と松野の心の声が被る。

紫仮面と対面していたのは進上であった。槍が地面から出るスキルに苦戦している様だが、まだ今のところ大した傷は追っていない。


笹森は進上の事を知らなかったが、二人の反応を見て彼が仲間だというのが何となく分かった。

笹森は相手との立ち位置を冷静に見る。


「紫仮面との距離はあまり離れてないしこっちに背を向けてる、いつでも不意打ち出来そうだよ」


「よし、じゃあ行こう」


そっとドアを開けて二人は物音を立てない様にゆっくりと紫仮面に近づく。紫仮面は片手に短剣を持ち進上と剣を交えている。


進上は紫仮面の背後から忍び寄る二人に気が付くが、それを相手に悟られない様に直ぐに視線を紫仮面へと戻す。

そして相手の注意を自分に引き付ける為かスキルを使用した。


「一閃!」


剣を横に薙ぎ払う技だが、相手はそれを片手に持った短剣で簡単に防ぐ。紫仮面は進上の剣を弾き、華麗な指捌きで短剣を回して余裕そうな態度を見せる。しかももう片方の手にはスマホを持っており、何者かに連絡しようとしていた。


「で、そろそろ力の差が分かったんじゃない?

はやく内野君を捕まえに行かないといけないし、あきらめてくれると助かるんだけど」


「しつこくてごめんね。でも内野君の所に貴方を行かせるわけにはいかないから、何としてでもここで殺すよ」


「へぇ~殺す…か。こっちは加減してなるべく死者を出さないようにしてるのに」


二人がそんな会話をしている内に、笹森と内野は紫仮面のすぐ背後にまで接近出来た。

笹森はハンマーを両手に出すとそれを大きく横に振りかぶり、紫仮面に向かい振るう。


「なっ!!」


当たる寸前で笹森に気が付くが、その時には避ける時間などなく紫仮面は直撃する。

ハンマーに当たった紫仮面は横に吹っ飛び、屋上の策を突き破って下へと落ちていった。その時に相手が手に持っていたスマホと紫の仮面は顔から外れて床に落ちる。


よし!不意打ち成功!


無事に不意打ちが成功して内野はガッツポーズをする。



「内野君!一人じゃ倒すのは無理そうだったから助かったよ。それにそこのハンマーの人もありがとうございます」


「進上さん!グループに参加してなかったのにどうして助けに来た…というか来れたんですか!?」


「今日の昼ぐらいにグループに入ったんだ。それで内野君のSOSに駆けつけられたんだよ。

それよりも早くトドメを刺しに行かない?まだ死んでないかもしれないし」


進上さんの言う通り、魔力の光が見えるから奴は死んでない。でもあんな攻撃を喰らったんだしきっと瀕死状態だ。それなら情報を吐かせたりしたい。そして出来れば殺したくはない。相手は俺を殺すつもりじゃなかったし、そこまでやらなくても良い気がする。


「流石に殺すまではしなくて良いと思うので、奴に情報を吐かせた後は縛りましょう。あ、縛るって言ってもプレイヤー相手を拘束できるものは…」


内野がそう言っていたタイミングで、突如として周囲で止まっていた幾つかの魔力の光が動き出した。

どれもこちらに向かって来ている。そして…


「いや~まさかこんなに近くに転移していたとは思わなかったよ。

でもわざと近くに転移したというよりかは、レベルが低いから此処ぐらいにしか転移出来なかったって感じか。

どちらにせよ、これまた一杯食わされたね」


紫仮面の男が跳躍して屋上まで戻って来た。しかも顔に笑みを浮かべていられる程度に余裕がある。

そんな紫仮面を見て、逆に笹森の顔からは余裕が消えていた。


「…内野君。

私は相手を殺す勢いで、『フルスイング』ってスキルを使ってまで攻撃したんだ。それでもあんなに動けてるから…どうやっても私達じゃあいつに勝つのは無理そう」


クソ…撤退するしかないか…

だが撤退するにしても、まだ周囲にはコイツの仲間らしき魔力の反応がある。逃げるのはもっと全員をここに引き付けてからだ。


「さて…流石にやられっぱなしは嫌だから。そろそろ君らにも痛い目見てもらうよ。一応殺しはしないけど」


男はそう言い切ると同時に真正面から向かってくる。

笹森の攻撃であまりダメージが入ってないから、内野は自分の攻撃じゃ歯が立たないのは分かっていながらも剣を構える。


笹森は数歩前に出てからハンマーで相手の短剣を受け、紫仮面の足を止める。


「ねぇ、もしかしてそのハンマーって『マジックブレイク』の効果が付いてる?

君の攻撃受けてからステータス下がっちゃった気がするよ」


「もしかして軽傷で済んだのも何かのバフのお陰って事かしら」

(※バフというのは、ゲームにおいて一時期なステータスの強化を意味する言葉)


「正解~今そのハンマーに当たったら無事じゃ済まなそ」


そんな事を言ってはいるが紫仮面は余裕そうに喋りながら笹森と激しい攻防戦を繰り広げる。


「内野君、僕らも加わろう」


「あ、ちょっと待って下さい!俺達は向こう奴をやりましょう」


前に出ようとする進上を内野が止める。笹森の手助けをしたいのは山々であったが、他に相手せねばならない敵が現れたのだ。


内野達の背後に現れたのは青の仮面を被っている大柄な男。


「よう、昨日ぶりだな」


声と体格からして昨日内野を襲った者と同じであった。


仲間かと期待したけど敵だったか…


こちらに来ていた魔力の反応が相手のものだったのに落胆する。だがその直後、一つの槍が校舎外の方向から青仮面目掛けて飛んできた。

青仮面は身体を逸らしてそれを回避する。


「この二人が内野君の言っていた敵だね、何とか間に合ったみたいで良かったよ」


聞き覚えのある声がする方向を見ると、そこには川柳がいた。相変わらず頭と下半身のみに鎧を纏っており、胴は普通のスーツという奇妙な格好だ。


「お、続々とプレイヤーが集まって来てるね~楽しくなってきた!」


紫仮面の嬉々としたそんな声が辺りに響く。


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これ以降は小説家になろうと同じ早さで更新します。週3話更新と少し進みが遅いと感じるかもしれませんが、エタらない為にも自分のペースでまったりと更新していこうと思います。

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