第96話 紫仮面の正体

「あ、そう言えばまだ名前を言ってなかった。

私は1-2組の笹森ささもり夕陽ゆうひ。クエスト経験は42回でレベルは79。プレイヤーの中でも私はまだ戦闘出来る方だよ」


レベル高いな…流石に42回もクエストを受けていることはある。スキルはどんなものを持ってるんだろう。


あ!てか俺がピンチの時に助けに来てくれたって事は、もしかして笹森も魔力探知のスキルを持っているのかもしれない。

それなら紫仮面の魔力の反応も分かるだろうし話が早そうだ。


「ところでさ、どうして俺のピンチに駆け付けられたの?」


「あー実は配信の事を謝りたくて君の後ろをつけてたの。スキルで『視力向上』があるからかなり遠くからだけど。


それじゃこっちからも質問するね。どうして今、こんな時間に私の所に来たの?昼休み方が時間に余裕あるし、あんな目立つ事やらなくて済むよね?」


何も知らない笹森に、この学校内に仮面の者がいるという事を告げると真剣な表情へと変わった。


「それは確かに一大事だね、それでどうするつもりなの?相手が一人なら今のうちに倒しちゃった方が良い気がするけど」


「今あいつは学校の外に逃げているんだけど…どうも奴の動きが怪しいんだ。わざわざ俺の前に姿を現したのも、全て俺を誘い出すためとしか思えないし迂闊に追いかけるのは危険だと思う。

でも野放しには出来ない。次あいつが学校に戻って来た時に援軍を呼んでおいて、全員で捕まえるっていうのはアリかもしれない。そっちからは誰か呼べたりする?」


「あー聞いてみないと分からないけど、職場がここら辺だって人に一人心当たりはあるよ」




笹森が連絡した相手はクエスト経験35回でレベル60、長距離射程の魔法に長けており十分戦力になる者だという。


その後内野は特定の相手に位置情報を送れるというアプリに笹森を追加し、いつでも助けに呼べるようにしておいた。


数分待機していたが、紫仮面と思われる魔力の反応は学校外で止まったままなので今は話だけして解散する事となった。


「取り敢えず休み時間ごとにあいつが何処にいるのか確認するから、どう動くかはそれを見てから決める。だから今はもう授業に戻ろう。


あ、あと援軍で駆け付ける人に背後に気を付ける様に言っておいて。奴らが魔力探知のスキルを持っていないとは限らないし、プレイヤーだと分かれば襲ってくるかもしれないから」


「分かった、何かあった時は授業中であっても駆け付けるよ。それじゃまた後で会おう内野君、松野さん」


笹森は教室から出ようとドアに手を掛けていたが、『内野君』『松野さん』呼びに違和感を感じて教室から出ようとする笹森を引き止める。


「その…俺も松野も同じ年なのに、どうして松野にはさんつけなの?」


「え、あ!ごめんなさい!

内野k…さんがあまり年上に見えなくて、私の弟にも似てたのでつい…」


笹森は女子の中では背が高い方なので、内野より数センチ背が大きかった。


…俺の背が低くて年上に見えないのは仕方ない、けど…流石に傷つくな。


肩を落とす内野を見て、隣にいた松野は無言で内野の方を見てニヤニヤしていた。


「なんだよその顔」


「いや、見た目だけで言ったら納得の理由だと思ってな。二人並んでみると特に分かりやすいぞ」




笹森と別れたあと松野のもも裏に軽く蹴りを入れ、そのまま二人で教室へと戻っていった。


そして授業時間が終わることにトイレの個室にて紫仮面の場所を確認する。休憩時間になる度に周囲の席の者から「かなりお腹の調子が悪いんだな」と心配されたり、「スゲー足速いんだな!」と体育の時の事を言ってくる者もいた。



昼休みになっても内野に話しかけてくる者は後を絶たなかった。


話しかけてくれるのは嬉しいけど今は考えなきゃいけない事がある。今日は松野と校舎裏で食べよ。


内野は松野に声に掛け、共に校舎裏へと向かう。


「あ、ちょっと紫仮面の場所を見てくるわ。お前は先に校舎裏に誰もいないか確認しといて、人がいたら空き教室だとかに場所を変えよう」


「おけおけ」


内野はそう指示し、道中にあるトイレで紫仮面の場所を確認しに行く。

ここのトイレは教室から離れているのであまり人がいる事は無く、案の定トイレには誰一人いなかった。

だが以前まで不良達のたまり場の一つであったからかトイレには少しだけタバコの匂いが漂っていた。


個室に入り内野は便座に座る。そして鉄の兜を頭に出した。

今日何回もやった行為であり手慣れた動作であったが、内野が兜を頭に出した瞬間、目の前のものを見て背筋が凍った。


兜を被った瞬間、目の前に魔力の反応が見えるのだ。内野の目の前、つまり個室のドアの前だ。


!?

おい…これって松野と笹森の魔力の光じゃないぞ!もしや…


コンコン


内野が固まっていると、扉の前にいる人物が軽くノックを二回をしてくる。相手は何も喋ってこず、他に物音が一切しない。沈黙がトイレ内を包み込んでいた。


内野はいつでも援護を呼べるように例のアプリを起動し、念の為に普通に相手に返してみた。


「は、入ってます」


「知ってるよ。小?大?

早く出てきてくれると助かるんだけど」


返ってきたのは優しく明るい口調の男の声。

だが以前の様に突然襲ってくるわけでもなく、まだ相手の目的はさっぱり分からないのでそのまま普通に返し続ける。


「個室なら隣が空いてるはずですよ」


「…あ、そうか。

俺の目的は内野君だから。別に大便しに来たわけじゃないよ。てか早く出た方が良いと思うよ、そんな狭い所じゃ俺の攻撃避けれないでしょ?」


「!?分かった、直ぐに出る」


今の言葉で向こう側にいる者が確実に敵だと分かり援軍を呼んだ後、兜を仕舞って直ぐにドアを開ける。

ドアの目の前にはこの学校の制服を着ている男がいた。上履きから1年生だと分かり、外見はあまりパッとしない者だが少し大人びた雰囲気であった。


「急いで出てきたって事は今ので俺がプレイヤーだって分かったんだ。いや~急かしちゃって悪いね。

取り敢えず俺について来てよ」


「…分かった。でも一つ聞かせてくれ、あの紫の仮面の正体が…」


「俺だよ、これ以上の話は着いてからしよう」


紫仮面の正体の男は襲ってくる様子はない、今だって強引に連れていこうとする訳ではなく手招きしてくるだけである。


援軍は呼べた…今はこいつに着いて行って時間稼ぎと情報を引き出すのを優先しよう。


男の後ろに並んでトイレから出る。

紫仮面の男と共に廊下を歩いていると、窓越しから遠目に松野が見えた。




松野は内野から送られてきた位置情報を見て緊急事態だと分かり、急いで校舎裏から最短ルートであのトイレ向かっていた最中だ。


外を走っていると内野を見つけたので無事か尋ねる為に声を出そうとするが、内野が手の平をこちらに向け「待て」と言っているかのようなジェスチャーを小さくしてきたので、松野は口を塞いで黙って様子を見る。


内野が前にいる人物と何か話しているのが見え、その様子からその男が緊急事態の原因であると察した。


もしかしてあいつが紫仮面の正体?

で…俺はどうするべきだろう。あの様子から見て内野はあいつに従っているみたいだし、多分内野は助けが来るまでの時間稼ぎをするつもりなんだろう。

笹森には梅垣さんとか他の助けが来るまで待機しておくように言っておいた方が良いかもしれないな。




内野が大人しく着いて行っていると、男は4階の空き教室前で止まる。あの小西との事件があった場所で本来は立ち入り禁止だ。

空き教室の中から数人の話声が聞こえてくるが、紫仮面の仲間などではなく昼ご飯をここで食べようとしている生徒の話声であった。片方のドアが無いので声が駄々洩れである。


「中に誰かいるね。困ったな~多分俺が「出てけ」って言っても、彼ら素直に言う事聞いてくれないよ。殺した方が早いかもね」


「い、いや俺が言うから少し待ってくれ」


男の「殺す」という言葉がとても冗談で言っているとは思えず、直ぐに自分から教室の中に入り中の者に出ていく様に言った。


中に居たのは3年の先輩だったが、それが内野だと分かると直ぐに昼ご飯を持って教室を出ていった。


「知名度って便利だね。あんなガタイが良い連中でも素直に言う事聞いてくれるんだから。

じゃあ二人っきりになれたし話でもしようか」

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