第95話 変装
紫仮面を追いかけて校内に入るが見失ってしまう。
クソ、何処に行ったんだ?
一度見失ったら見つけるのは難しいな…あ、でも今は授業中だから廊下には誰もいないし兜を被っても大丈夫か。
他に誰もいないのを確認して兜を被り周囲を見てみる。すると一つは上の階で止まっており、もう一つはかなりの速さで上へと上がって行っていた。
止まっているのは多分ヒーロー仮面の方、あの動いているのが紫仮面のやつだ。
他に魔力の反応は無いし恐らく奴に仲間はいないが、梅垣さんみたいに隠密スキルを持っている者がいるかもしれない。一人で行くべきじゃないが、出来れば早めに正体は突き止めたいな。
今は行くべきじゃないと判断し校庭へと戻っていく。戻るとクラスの皆や先生からはお腹の調子を心配されたが、そのまま授業に参加して1限目を終える。
体育着から着替え終わり1,2限目の間休みに教室で松野と相談する。
「おれはまだテレポートぐらいでしか役立てないし、戦闘は内野だけに任せる事になる。
相手に伏兵がいないとも限らないからお前一人で挑みに行くのは危険だと思うが…」
「うん、だから今からヒーロー仮面の人の所に行こうと思う。何をしてくるのか分からないし悠長に昼休みまで待っているのも危険な気がするからな」
間休みは10分程度なのであまり時間は無い。だが昼休みまでに相手が何もしてこないとも限らないので、早めに動きたいところであった。
「でも廊下じゃ兜を被れないから特定には時間掛るだろ?この休み時間でそれが出来るとは思えないのだが」
「いや、もう周りの目なんか気にしないで堂々と兜被って廊下を歩こうと思う。命が掛かってるかもしれないわけだし、そんな事を気にしてられる余裕もない」
「まぁ確かにそうだが…あ!ならいい事思いついたぞ!」
松野は内野の発言から何か良い案が思いつく。そして松野に案内されるがままにとある教室へと向かっていった。
そろそろ2限目が始まるという所で、奇妙な格好で1年生の教室の前を歩く者が二人いた。
一人はお化け屋敷で使うような白顔の怖いお面を被っており、手には百均で買ったような安物の骸骨のおもちゃを抱えている。
もう一人は鉄の兜を被り、手にはパーティーグッズが色々入った段ボールを抱えている。
この二人は内野と松野であった。
「文化祭関係の小物を運んでる二人に見えるだろ?これでお前が兜を被っていても先生に捕まる事も無いし兜を没収されは心配もない」
これが松野の案であった。会議室の裏に去年使われていた文化祭の物があるのは知っていたので、それを拝借して文化祭関係の者に化けるという案だ。
周囲からはジロジロ見られているが、ほとんど全員が「文化祭の準備か」という反応で普通に廊下を歩けた。それに先生ともすれ違ったが特に何も言われずに通り過ぎれた。
「松野、この教室の中から反応がする」
「オッケー」
1-2の教室の前で立ち止まりそう言うと、手が空いてない内野の代わりに松野がドアを開ける。
当然1-2内に居いる者は二人の格好に驚きざわざわする。
内野は兜を被っており教室内の誰から魔力の反応がするのか見えるので、簡単にヒーロー仮面を特定出来た。
魔力の反応がするのは、窓側の席に座って本を読んでいる真面目そうな子。背がそこそこ高くて短髪な女子生徒。見る限り身長も髪もヒーロー仮面のものと一致する。
紫仮面は男だったし、彼女で間違いないな。
二人は彼女の元まで近付いていく、途中でその女子生徒も二人に気が付くと驚いた顔をしていた。
先手必勝と言わんばかりに、その子や周りの者が声を発する前に内野が喋り出す。
「ほら、文化祭関係の物運ぶって約束してたでしょ?それが今日に急遽変わったんだ。
まだ残ってる『ヒーロー系の仮面』だったり『デカいハンマー』とか運ばないといけないんだ。少し授業に遅れるかもしれないけどついてきてくれない?」
「あ…はい、わかりました」
『ヒーロー仮面』『デカいハンマー』という言葉でハッとし、その女子は言う通り二人の後を付いて行く。
兜を被っていて内野の顔は見えなかったが、この二つの単語から察したのだろう。
空き教室まで着くとドアを閉め、周囲に誰もいないのを確認してから兜を仕舞う。
女子生徒は内野の顔を確認した後、その隣にいる白い仮面を被った松野の方を尻目に尋ねてくる。
「…どうして私があの時助けたプレイヤーだと分かったんですか?それに貴方の隣にいる人もプレイヤーなんですか?」
「この兜の魔力探知効果でプレイヤーかどうか調べられた。俺の隣にいるこいつもプレイヤーだから安心してくれ」
「へぇ~そもそも魔力探知スキルが貴重なのに、それが装備効果に付くだなんて…かなりのレアアイテムですね。
そちらの方は戦闘出来るんですか?」
「いや、低レベルだからテレポート要員って所だ」
松野が仮面を外して顔を見せると、その女子は何か思い出した様な声を上げた。
「あ、あの動画に映っちゃった…」
「そうそう、あの動画でボコボコにされてた奴な。あの後プレイヤーになったんだ」
「いや…実は二人には言わなきゃいけない事がありまして…」
その女子はばつが悪そうな顔になり何か言うのを渋る。言わなきゃいけない事が何なのか気になるので、何でも話してくれと言うと口を開く。
「実は…あの配信をつけてたの私なんです、ごめんなさい!」
「え」
「え」
まさかの発言に啞然とする。二人して同じような反応で、声を出すタイミングも声量も全てシンクロした。
「本当は全世界に配信するつもりなんて無くて、ただイジメの証拠映像が欲しかっただけなんです。
あの教室に誰かを呼び出してボコボコにする…みたいな計画を偶然聞いてチャンスだと思って…」
「証拠映像ならカメラで良くない?」
「私はスマホ2台持ちで、両方とも同じアカウントで連結してるから片方で配信を付けていればもう片方のスマホでそれを見れるんです。
あまりにも酷い事をやろうとしてたら無理矢理にでも止めようと思って。
本当はその配信はプライベートモードってやつで私以外見えない様にする予定だったのですが…配信を付けるのなんて初めての試みでしたし時間もあまり無くて配信時の設定を間違えて…」
女子生徒は申し訳なさそうにそう言い、チラチラと内野達の顔を見る。怒ってないか様子を伺っている様だった。
あの配信のせいで騒ぎになり、それで通っている学校がバレたから現在仮面の奴らに襲われてる。
でも元をたどればそもそも小西の鼻なんか折った俺が悪い。不用意にクエストで得た力を振りかざした俺の責任でもある。
それにこの前助けてもらったからか、真実を知ってもこの子に対する怒りはこれっぽっちも湧かない。
「別に君だけの責任って訳じゃないし、良かれと思ってやってくれた事だから怒ってないよ。この前助けてくれた礼もあるしね」
「そもそも襲われたのが私のせいですし礼だとか感謝なんか…」
「とにかく俺は怒ってないからそれで良いでしょ。それよりも前みたいにタメ口で良いよ、そっちの方が楽だろうし」
「あ、ありがとう、敬語使うの慣れてないからそれは助かるよ」
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