第94話 紫の仮面
(水曜日)
昨日の仮面の者達の事もあり登校する時は常に周囲の警戒をしていた。最近は今まで真子と会っていた公園にも寄っていない。今は寄り道する余裕なんて無いからだ。
後ろをつけてきている者などはおらず、何事もなく学校へと到着した。
内野は教室には向かわずにトイレの個室へ入る。
取り敢えずここで兜を被って、あのヒーロー仮面の人がいるかどうかの確認だ。
内野は兜を被り周囲を確認してみる。
…え?
周囲を見ていると、なんと学校内に二つ魔力の反応があった。一つは松野のものだと思ったが松野の魔力の光は見えないはずだし、そもそも二つの魔力の光は松野のものよりも大きい。明らかに自分が知らない者の魔力の光だ。
一つはヒーロー仮面で…もう一つは誰のだ?
両方とも上の階にいるな、詳しい距離は分からないけど3,4階。両方とも普通に廊下を歩いているっぽいし生徒もしくは先生だろう。
流石に敵じゃ…ないよな?
とにかく今はヒーロー仮面の特定をしよう。ヒーロー仮面は一年生だし、一年生の教室がある3階でまた兜を被れば分かりそうだな。
本当は兜被りながら歩ければ楽なんだけど…
3階まで上がりトイレの個室でまた確認する。
やはり魔力の光は二つあり、両方とも1年生の教室辺りにいる。
まさか二つプレイヤーの反応があるとは思っておらず、どうするか考えているうちに出席確認の時間が迫ってきたので教室へ戻ることになった。
1限目は体育で、体育着に着替えながらこっそりと松野に相談する。
「ヒーロー仮面と謎のもう一人のプレイヤー…問題はもう一人の奴が仲間かどうかって事だよな」
「ああ。仮面の奴らみたいに敵対してくるかもしれないから迂闊に特定しに近づけない。俺が見た光の大きさ的に中々強い奴だし」
光が大きいのは、相手が強い上にMPを温存しているという事なのでまともに戦えば苦戦するのは目に見えている。
内野は強欲を使っているので現在あるMPは魔力水一つで回復した50程度、魔力水をまだ4本買えるとはいえ、戦闘は避けねばならない状況だ。
少し沈黙が続いていると、松野が提案を出してくる。
「ヒーロー仮面が一年生の女子なのは分かっているし、昼休み辺りに双方の性別と学年を調べよう。学年は上履きの色で分かるしな。
あ、下校時に校門を見張っているのもアリかもしれないぞ。誰もいない教室から校門見張れば、堂々と兜を被って見張れるし」
「だな、取り敢えずそうしよう」
制服を脱ぎ終わり上裸になった所で後ろから声を掛けられる。
「あれ、内野君って…思ってたより筋肉無いんだね」
話しかけてきた委員会が不思議そうな表情でこちらに話しかけてきた。
そう言いえば身体能力が上がっても、あまり身体は変わって無いな。少し筋肉付いた気がする程度の変化だ。
委員会は俺のあの動画を見てるだろうし、流石に不審に思ったか…
「能ある鷹は爪を隠すってことだよ。筋肉を表に出さない事で小西みたいに相手は油断するから、その隙を突ける様になる」
「なるほど!そうことだったのか!」
内野が返答に悩んで適当に返してみると、委員長は全く疑わずに納得した様子をみせる。
あれれ、試しに言ってみたら信じちゃったよ。何か純粋無垢な子供を騙した気がして嫌な気分…
てか能ある鷹は爪を隠すって…皆にあの動画が知れ渡ってるから意味ないじゃん。委員会って天然だったりするのかな。
委員長は内野よりも背が低く童顔なので、より一層子供を騙したような罪悪感が生まれた。
「よし、今日は体育祭のクラス種目の練習だぞ。何も決まっていない状態でリレーをしてみて、今後の話し合いに繋げていくんだぞ」
内野のいる2-3と2-4の練習試合、ちなみに佐竹は2-4なので敵だ。
本当は体育祭の練習はもっと後なのだが、クラス種目だけ早めに一回やっておこうという先生の勝手な取り決めで今日やる事になった。
まさか今日やるとは思わず、内野は加減の練習が出来ていなかったので少し焦っていた。
リレー大丈夫かな…ヤバイ記録出したりしないだろうか。
「リレーの順番は男女交互、一人必ず一回走る、欠席者がいたら代理で誰かが走る、アンカーはトラック1週で代理で他の所には入れない。
ルールはこれぐらいだね、早速順番を決めようか」
クラスごとに二つに分かれ、2-3では山田が前に出て仕切っていた。山田や元気のある陽キャ達が積極的に順番を決める。
その結果松野が最初に走り、アンカーが山田となった。そして内野は中間のあまり目立たない位置に置かれた。その理由は委員長の一言。
順番決めの前、周囲からこんな声が聞こえてくる。
「内野って喧嘩強いのを隠してたよな?もしかして走るのも早かったりするのかな?」
「そうかも!小西が居なくなった分を内野が埋めてくれるかもな!」
「内野君足速いのかな?陸上部並みだったりして…」
「凄い楽しみ!」
そんな周囲の声にプレッシャーを感じていると、委員長が山田にとある提案をする。
「そうだ!さっき能ある鷹は爪を隠すって内野君が言ってたし、リレーでもそれをやってみない!?」
本番以外では内野は中間のあまり目立たない所に置き、平均程度の速さで走る。これで内野はそこまで足が速くないと思わせる作戦らしい。
山田はその作戦を聞き、納得したような顔でその作戦に賛同する。
「なるほど…内野君の実力はまだ未知数。実力は隠しておいた方が良いかもしれないね」
山田の意見に反対する者はなく、僅か数秒でこれは決定した。
なんか勝手に決まっちゃったけど…もしも俺が本当に足遅かったらどうするんだろ…
だがこれは今回遅く走っても文句を言われない作戦なので、内野はその疑問を声には出さずそれに乗ることにした。
リレーの走る順番に並び、座って待機中。
さっきまではクラスの皆の期待があったからある程度速く走らないといけないというプレッシャーがあったが、この作戦なら平均以下の速さ程度で走れば良い…これぐらいなら簡単なはずだ。委員長には今度お菓子でも奢ってあげよ。
そんな事を考えているとスターターピストルの音が鳴り、4組の陸上部と松野が走り出した。
今の松野はMPが0なので生身の状態、つまり本気で走っても問題無い状態だ。
そんな普通の状態でも松野は陸上部相手に引けを取らない足の速さであった。
その後内野の番が回ってくるまでの間に幾度も抜いたり抜かされるのを繰り返しており、応援の声は練習だとは思えないほど盛り上がっていた。
そして内野の番。相手とは僅差で負けているがほとんど差が無い状態でバトンが回ってくる。内野の相手はバスケ部の者、かなり足の速い方の者であった。
皆が見ているから失敗は出来ない…そうだ!後ろから相手の速さを見ながらなら調整し易いかも。
相手の人はかなり速いだろうし、そこそこ距離を離される程度のスピードを出せれば丁度良さそうだ。
二人はほぼ同時に女子からバトンを受け取って走り出す。
内野は相手の背中を見ながら数メートル距離を離されるぐらいの速さに調整し、狙い通りのスピードで次の者にバトンを渡せそうであった。
いいぞ、いい感じに調整できてる!
丁度良い調整が出来て心の中で喜ぶ。
だが次の瞬間、昇降口付近に立っている奇妙な男が目につき内野はバトンを落とす。
その内野が見た男は、学校の制服を着ているが紫色の鬼の仮面をしていた。確実にあの仮面達の仲間だ。
なっ!どうして学校内に仮面の奴がいるんだ!?
しかも制服を着ている…俺がさっき見た魔力の光の片方はあいつのだったのか!
「ちょ、内野君!早くバトンを拾って!このライン超えないと私はバトンに触れないの!」
バトンを落して棒立ちの内野に、次の走者の女子が焦って声を掛けてくる。
そのタイミングで紫仮面の者は逃げる様に学校の中へと入っていった。
「ッ!?
ごめんなさい!お腹痛いからトイレ行ってきます!」
内野は急いでバトンを拾って目の前の女子に渡すと先生にそう言い、先生からの許可を得る前に走り出した。逃げる紫仮面を全力で追いかける。
「え…トイレに行く時の方が足速くね…?」
「相当限界だったんだろうな」
「嘘!あんなに足速かったの!?」
後ろからそんな声がするが、今の内野の耳には入って来なかった
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