第91話 フェイクニュース

グループ通話に移動し、内野・新島・梅垣で話す事となった。先ずは梅垣が新島に黒狼と遭遇した時の事を聞いていく。

生き返った新島に3回目のクエスト・ロビーの記憶が無いから、この時新島が話した事はスライムとゴーレムの時の事だけだった。


この二回の話は内野は聞いており、ここで新島が説明したのも全くおなじものである。梅垣と新島が話している間は、内野は話さず黙って聞いていた。



梅垣〔…君と工藤という子が感じたという妙な懐かしさが気になるな。

2人ともクエスト参戦の同期だし、とても無関係とは思えない。もう一人の君らの同期の…確か名前は進上だったか?彼とも話してみる必要がありそうだ。

俺に全て話してくれてありがとう、今日はこれで…〕


新島〔あの…私からも質問して良いですか?〕


梅垣が話を終わらせようとすると新島がそれを遮る。


梅垣〔問題無い〕


新島〔梅垣さんは蘇生石で誰かを生き返らせたりした事がありますか?それにこれまでに蘇生石で生き返った人が何人いるのか知っていますか〕


梅垣〔…俺がやったわけじゃないが、一回だけ蘇生石で仲間が生き返った事はある。

多分これまでに蘇生石を使ったのは、松平さんが飯田さんを生き返らせたのと、内野君が君を生き返らせたものと、今言ったもの、この三回だけだ〕


これはフレイムリザードの時のロビーで松平さんが言っていたな。やっぱり蘇生石は中々買えないから、たった3回しか買えた人がいないんだ。


新島〔それじゃあ、その人は自分が死んだ時のクエストの事を覚えていましたか?〕


梅垣〔いや…覚えていなかったな〕


新島〔…実はさっきこの質問を松平さんにしてみたんですけど、飯田さんも自分が死んだときのクエストの記憶を持っていなかったらしいんです。

取り敢えずこれで蘇生石により生き返った者は、死んだ回の記憶を持たないって事が分かりました。


それでここからは質問じゃなくて分かった事なんですが…

今日家族から色々話を聞いて分かったんですけど…どうやら私が死んでいた間も『私』は普通に暮らしていたみたいです〕


…ん?


内野は新島が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

だが新島から詳しく説明を受けてようやく理解出来た。


どうやら新島が死んでいた間も『自分の記憶を持った瓜二つの偽物の自分』が普通に暮らしていたらしい。

新島は一週間前のクエストで死んだから、本来ならば現実世界では急に失踪した事になるはずだ。

だが家族に話を聞くと、その死んでいたはずの一週間の間にも『自分』が家で暮らしていたという。当然死んでいた新島にはそんな記憶なんてない。

そして何よりも怖ろしいのが、家族が誰一人として新島の変化に気が付いていなかった事だ。

家族はご飯を食べる時に新島と昔の話をしたと言うし、その時にも何の違和感も感じなかったらしい。

この事から偽物は確実に新島の記憶を持っているのが分かる。



これでクエストの時に大量に死人が出ても全く騒ぎが起きない理由が分かった。

この偽物がいるせいで誰も本人が死んだというのが分からないんだ。

以前から疑問に思っていたものが解消されてスッキリしたが、それ以上に恐怖で背筋が凍る。


もしかして俺が死んでも誰も気が付かないのか?

俺は生き返れないし、その偽物が俺として一生生きるのか?

そんなの嫌だ…


これは今までとは全く別方向から感じるの死の恐怖であり、気が付けば腕が少し震えていた。


新島〔内野君、大丈夫?〕


「あ、うん。俺は大丈夫だよ」


まるで内野の心境が分かったかのように、新島は内野に声を掛けた。内野は平然を装って返すがその声は震えていた。


梅垣〔俺もその話は知らなかったな。

…だが今ので一つ考えるべき事が出来た。勝手で悪いが俺はここで通話を切らせてもらう。

黒狼の話は誰に話しても構わないが、今の話は出来るだけ皆には黙っておこう。死んでる間には偽物がいるだなんて話をしたら動揺が広がるからな。

恐らくこの事に気が付いているであろう松平さんと飯田さんには俺から話しておく〕


一方的に梅垣はそう言い、内野と新島が返事をするとグループ通話から抜けていった。

それから少し沈黙が続いた後、新島は再び口を開く。


〔怖いと思うのは当たり前だよ、特に君の場合はね。一度死んだら自分の偽物が代わりに現れて、一生本当の自分が死んだ事が誰にも気づかれない…少し考えただけでも怖いね…


私は君が死なない様に精一杯頑張るよ。生き返らせてくれた命の恩人だし〕


「新島は黒狼から一度庇ってくれたし、命の恩人というならそっちこそ当てはまるぞ」


〔あ、そっか。ならお互い様だね。

今考えたら前のクエストで…じゃなくてゴーレムのクエストで黒狼から君を庇って本当に良かったよ〕


あの時に新島が俺を押してくれてなかったら今頃ここにいる俺は俺じゃない偽物だったかもしれない。新島には感謝してもしきれないな。


でもどうして新島は俺を庇ったんだ?

まだ数時間程しか話してない相手を命懸けで助けるだなんて普通じゃないよな。


少し聞きにくい質問だが、新島にあの時の心境を尋ねる。


「ねぇ、どうしてあの時俺を助けたの?」


〔…どうしてだろう。

今考えると、あの状況でゴーレムの核を壊せる可能性があったのが君だけだったから助けようって思いつくけど、あの時はそんな事考えてなかった。


…今となっては分からないや。まぁ、身体が勝手に動いちゃったって所かな?〕


「そっか…」


新島と少し話しているとさっきまでの恐怖が薄まり、気が付けば震えは止まっていた。


一階から晩飯が出来たという母の声が聞こえてきたので、そこで通話切って一階で晩飯を食べにいく。



今日は父が早めに帰ってきていたので家族3人でテレビを見ながら晩御飯を食べる。


「最近妙なニュースばかり…なんでかしら」


「ニュースだけじゃなくて、最近はネットにも面白い記事が多いぞ。


不良のたまり場に1人の男が殴り込み7人が緊急搬送された。男は無傷で逃走中。

車に引かれそうになっている子供を、車を体当たりで止めて助けた。止めた者は無傷で車は激しく損傷。

ヒグマを素手で葬った。首を折って殺したんだとさ。


フェイクニュースにしか思えないが、どうやらどれも本当みたいだぞ」


…明らかにプレイヤーの仕業だ。

少しはプレイヤーって事隠せ…って俺が言ったら駄目だよな。俺の小西事件もまだネットで話題になっているし。


もしかしてネットであれだけ話題になった俺がプレイヤーだと分かり、人前で力を見せても力は没収されないと判明したからか?


「おい、このニュースの場所って結構近くじゃないか?


外から罵声が聞こえて近隣の住民が外を見ると、背中を斬られた男性が黒い服の者達に追われていた。

そしてその近くでは建物の上をジャンプで乗り越える人が現れた。

そんな世紀末みたいな事起こるんだなぁ~」


あっヤバ。それ完全に俺だ

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