第90話 哀狼

内野が家に帰りまず最初にするのはシャワーに浴びる事であった。工藤の家でもシャワーを浴びたが今度は砂だらけになってしまったからである。

母にはどうして砂だらけなのか、何故学校帰りなのに制服を着ていないのか聞かれたが、友達と砂場で遊んでたといい何とか誤魔化した。

流石に内野の母親もイジメを受けているのか疑ってはいたが、そうなる事を想定して公園で松野と写真を取っていたので何とか信用してもらえた。


血だらけでボロボロになった制服は内野の鞄に強引に突っ込んである。これは見られるわけにいかないので、要らない鞄につめてクローゼットの奥の方に隠した。



もうそろそろ梅垣さんと約束してた時間だ。その時に今日の事と、住んでいる場所を聞いて俺が襲われた時になんとか来れる距離か確認しよう。

その後は進上さん達にも同じ様な事を聞く、どれだけの人がここら辺に住んでいるかによって今後の動きも変えよう。


少し待っていると梅垣から通話がかかってきた。


〔今日は大変だったみたいだね。とりあえず君が無事でよかった〕


梅垣とまともに話したのは前回のロビーぐらいであったが、その時の様に緊迫した雰囲気ではなく声が明るかった。


「ええ、でも奴らがまたいつ襲ってくるか分からないので、早々に手を打たないといけません」


〔何か考えているのか?〕


「はい。俺を襲った奴らとはまた別のグループの者だと思われるプレイヤーが俺と同じ高校の生徒にいるので、その人と接触してそのグループと協力関係を築こうと思っています。

その後、次のクエストで他のグループとも協力関係を結ぶつもりです。いつになるかはわかりませんけど…」


〔そうか、時間が必要なのか。なら俺も協力しよう。

暫くは緊急時に駆け付けられる所で暮らす〕


「え!そこまでしてくれるんですか!?

でも仕事とか生活があるだろうしそこまでしてもらうのは…」


〔1か月前に仕事は辞めた。

黒狼を殺すのに修行する必要があって、仕事なんかしている暇が無かったからな。お金はQPで手に入っているから生活に困ってはないぞ〕


命が掛かっているんだし、何よりも仲間の仇だ。仕事を止めるほど本気なのも頷ける。

でも梅垣さんが来てくれのはかなり安心出来るぞ。他の大罪の人達ですら使徒には苦戦していたらしいし、そんな使徒と一人で戦っていた梅垣さんはプレイヤーの中でもかなり強い方だと思う。


「それは助かります!

使徒と一人で渡り合っていた梅垣さんが来てくれれば、幾ら相手の方がクエスト経験が多くてもきっと勝てるはずです!」


〔…いや、俺一人であいつと渡り合ったというのは少し違うな。実は俺は万全の状態のあいつとはほとんど戦っていない〕


「万全な状態…といいますと?」


〔この前のロビーで、黒狼と初めて遭遇した時の事を話しただろ?あれにはまだ話してなかった事がある。(63話)

あの時…黒狼を追いかけていたメンバーが次々と殺されていった時。俺達のリーダーはスキルを使ってあいつの後ろ足の骨を粉砕した。俺がフレイムリザード時に切断した所と同じだ。

それで機動力が無くなっていたお陰で俺は幾度も奴と戦っても生き残ることが出来た。もしもそれが無ければ、俺は一人で黒狼に立ち向かおうとも思わなかっただろうな〕


前のリーダーの人が最後にそんな事を…積極的に魔物を倒すリーダーだったらしいし、よほど強かったんだろうな。

その人が生きていればきっともう少し早く黒狼を倒せたかも……あれ、蘇生石を買える分のQPは貯まっているはずなのに、どうして梅垣さんはそのリーダーや仲間を生き返らせないんだ?


「その…梅垣さんは仲間達を生き返らせたりはしないんですか?」


〔…黒狼を倒したしそれも良いかもしれないな。

それよりも内野君、話の本題に入りたい〕


梅垣に少し強引に話を変えられる。

話の変え方に少し違和感があったが、本来梅垣は黒狼についての話をするために通話をかけてきているので、内野はそこについては何も言わなかった。


〔松野君からある程度聞いているだろうが、黒狼について話したい事があったから連絡先をもらったんだ。

先ずはショップを確認してくれ、少人数で討伐対象を倒したから黒狼のアイテムがあるはずだ〕


すっかり討伐対象のアイテムという存在を忘れていたので、内野はショップの確認などしていなかった。

急いでショップを開いて確認してみると、今回はそれらしきアイテムが二つあった。

『哀狼の雷牙』『哀狼の指輪』だ。


哀狼って…読み方「あいろう」で合ってるのか分からんが、何で「哀」がついているんだ。

普通は見た目からして「黒」、「雷」とかが名前に付くと思うのだが。

名前何ていくら考えても仕方ない、とにかく説明文を見てみるか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

哀狼の雷牙  必要QP50

『主を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼。自動で魔力が貯まり、

本人のMP消費無しで雷を放つ事が出来る』


 購入しますか YES/NO

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何だこの説明文。

前半の『主を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼』って…多分これは武器じゃなくて黒狼の説明だよな?

とにかくもう一つの方の装備も見てみよう


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哀狼の指輪  必要QP1


『主を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼の魂。これは彼の選んだ道である』


 購入しますか YES/NO

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やっぱり意味が分からない。

なんかさっきと違い『狼の魂』となっているし、『これは彼の選んだ道である』だとか…この彼って黒狼の事か?

てか装備の効果が全く書いてないし、QPも凄く安いから…なんか凄い怪しいぞ。


〔説明文を見たら分かると思うが、アイテムの説明文に気になる事が書いてあるんだ。

主を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼…君にはこれが何なのか分かるか?〕


「いや…全く分かりません。

そもそも俺よりも梅垣さんの方が黒狼に関して詳しいはずですし、梅垣さんが分からないなら俺には…」


〔まぁそうだろうな、念の為聞いておきたかったんだ。

これを君に話す理由は、黒狼の行動を考えると君と黒狼の間には何かがあるんじゃないかとしか思えないからだ。

いや…君のスキルと黒狼の間と言うべきかな〕


「俺のスキルって…強欲の事ですか?」


〔ああ。

前も言ったが、ゴーレムのクエストの時に黒狼は君と君の身体から出てきた闇を見て動きを止めた。(67話)

奴が君か闇のどっちを見て動きを止めたのかは分からないが、君と黒狼の間に何か関係があるとは思えないし、恐らく奴は君の闇を見て動きを止めたんだ。


この裏を返せば、奴はあの闇について知っていたんじゃないかと考えられる〕


俺が『強欲』を見せたのはあの時が初めてだ。それなのに黒狼は闇を知っていたとなると…あ!


「もしかして…俺の前に『強欲』スキルを持っていた人がいたから?」


〔そう考えるのが妥当だろうな。奴は前の強欲所持者と対峙していて、闇に対して警戒していたと考えるのが一番納得できる。


だがまだ疑問は残っている。君といた新島という女性、彼女の前でも奴は2も度動きを止めている。

今度は闇など関係なく、確実に彼女自身を見て動きを止めたんだ。こればかりは彼女と黒狼の間に何かあるとしか思えない〕


確かにそうだが、新島も俺と同じで黒狼が動きを止めた理由が分からないと言っていたからな…


〔一度彼女とも話してみたい、通話に呼べるか?〕



梅垣にそう言われたので新島に連絡をしてみると、すぐに通話に参加できると返信がきた。

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