第88話 残念なお家デート

今の血だらけの状態では普通に歩道を歩いて移動するのは無理なので、取り敢えず工藤に適当な店で安物の服を買って来てもらった。



「お邪魔します…」


「誰も居ないわよ」


仮面達と戦った所から10分程で工藤の家に着いた。


初めての女子の家、願わくばときめく様な状況が良かったな…彼女とのデート終わりとか。


「取り敢えずお風呂入っちゃいなさい、ヒールじゃ傷しか塞がらないからシャワーで血を流して」


「え、いいのか?」


「血だらけな奴を部屋に入れる訳にはいかないもの。綺麗になってからじゃないと私の部屋には上げないわよ」



工藤に家のシャワーを浴びながら、内野は色々な事を考えていた。だが最初に考えていたのは仮面達の事ではなく、工藤に家に誘ってもらった今の状況の事であった。


お風呂を貸してくれ、その上自分の部屋にも入れてくれるのか。

俺はアニメの主人公みたいに鈍くないから何となく分かるぞ、工藤は俺にそこそこ気があるのかもしれない。

この前は一緒に色々食べ歩きしながら歩いたし、その可能性は十分にある。


あ、待って。俺の恋愛の知識は全て二次元から教わったものだ、もしかするとこれが普通なのかもしれない…

それに知人が血だらけでいたら普通風呂ぐらい貸すか。やっぱり浮かれない方がいいな、変な思い込みは禁物だ。


そんな事を頭で考えてはいるが、心臓の鼓動は早くなる。

人生17年、同年代の女子から好意を寄せられることなどなく、それ故に女性に対する免疫も恋の知識が無いのだ。



工藤の家のシャワーを貸してもらい、取り敢えず身体は綺麗になった。身体に汚れが残っていないのを確認し、工藤の部屋のドアを開ける。


部屋の中は意外と物が少なく質素であった。内野はもっとピンクな物とかぬいぐるみが置いてあるものだと思っていたので、その意外な部屋の内装に驚く。


工藤は小さなテーブルの近くに座っており、机の上にはアイスが置いてある。


「シャワー浴び終わったのね。アイスあるんだけど、ゴーヤ味とナポリタン味どっちが良い?

一応冷凍庫に他の味もあるんだけど、私のオススメはこの二つよ」


「その…普通のバニラで頼む」


「あ~多分バニラ無い。

ステーキ味とかならあると思う。なんか超低価格で大量のに販売されてたから沢山買っちゃった」


この前も野菜クレープ買ってたし、結構特殊な味覚…というか味の好みなんだな。

てか何処の企業のアイスだそれ。その味のチョイスじゃ売れる訳が無いだろ。


取り敢えず興味本位でナポリタン味のアイスをもらい、アイスの蓋を開けながらテーブルの前に座る。


「で、これからどうするの?

仮面の奴らがまた内野の前に現れる可能性があるんだし、何か対処法とか考えないと駄目よね」


女子の家に来たということでうつつを抜かしていたが、冷静になると自分がどれ程やばい状況にいる事に気が付いた。


・敵は複数人

・相手は自分の学校を知っている、家まで知っている可能性もある。

・こっちは相手の目的が分からない


「…どうしよう。かなりマズイぞ」


「ナポリタン味合わなかった?今ならゴーヤ味と変えてあげてもいいけど」


「へ?違う違う、今の状況がって事。

工藤が見たのは4つの魔力の反応、だけど敵はあの場にいた4人だけとは限らない。奴らは同じグループのプレイヤー同士だろうし、他に仲間がいてもおかしくはないぞ。

それに向こうの目的が分からないから交渉のしようがない。だから逃げるか戦うか選ばないといけないが、十中八九向こう側の方が強い」


「他グループには梅垣や松平以上のクエスト経験がある奴がいるもんね」


だが、相手の戦力が分からないうちは下手に動けないというのは相手も同じなはずだ。ヒーロー仮面が来た時に、赤仮面と青仮面は俺の噓にだまされていた。

この事から、奴らは俺の仲間までは特定出来ていないのが分かる。顔を知られているのは俺だけだ。

まだ皆を巻き込んでしまっていないのが救いだな…って、あ!


とある自分の失敗に気が付き、内野は急いで立ち上がり帰る準備をする。


「工藤!俺がここに居たらマズイ!周囲に他のプレイヤーがいないか確認してくれ!」


「え、どうして?」


「仮に向こう側にも工藤みたいに魔力が見える奴がいたらプレイヤーの特定は可能だ。だから工藤もあいつらにプレイヤーだとバレると思う。


だが俺の仲間じゃないプレイヤーには極力関わらないはずだ。他のグループの情報が無いうちに無暗に敵を作ったりするほど馬鹿じゃないだろうしな。


でも、もし特定したプレイヤーが俺の仲間だと分かれば容赦なく襲ってくると思う。

特に工藤の家は俺の学校からあまり離れてないし、次に俺を襲った時に素早く援軍として駆けつけられる工藤は狙われる可能が高い。

だから俺と一緒にいる所を見つかったらお前が危険だ」


「そういう事…でもこれからどうするの?

最初にも聞いたけど、あいつらに襲われない様にする方法はあるの?」


「…何も思いついてない。

取り敢えず松平さんと梅垣さんに相談してみる」


この話を聞いて工藤は不安そうな顔をしていたが、内野を引き止める事なく玄関まで見送る。


「気を付けるのよ。もし何かあったらすぐに駆けつけるから連絡してちょうだい」


「ああ、そっちも何かあったら連絡してくれ」


「やっぱりちょっと待って!これは内野が持ってた方が良いでしょ、この件が終わるまでは貸すわ」


そう言うと工藤は内野に近づいて鉄の兜を内野に差し出す。


「い、良いのか?」


「一番襲われる可能性が高いんだからあんたが持っておくべきよ」


「そうか…ありがとう」


工藤から兜を受け取り装備してみると、目の前にいる工藤の胸辺りに青色の光が見えた。

そして工藤から貰ったものだが、内野は自分のインベントリに入れる事も出来た。


そう言えば新島から貰ったブレードシューズもインベントリに入ったし、貰い物でもインベントリに入るのか。

てかこれが出来るのなら…もしかして相手が武器から手を離したタイミングで自分がその武器に触れたら、その武器を完全に奪えるのか?


そんな疑問を抱くが時間が無いので今は考えるのをやめた。

そして部屋に入って数分も経たたずして、工藤の家をあとにする。内野は今後やらねばならない事を頭の中でまとめながら歩く。


色々考えてみたけど、一番良い方法はさっきのヒーローの仮面を被った人に会って、『憤怒』の平塚さんと協力する事だ。

仮面達が何故俺を攫おうとしたのかは分からない。だが大罪の俺が襲われたという話をすれば、平塚さんもこの件に無関係ではいられないと考えるだろう。

いずれ襲ってくるかもしれない仮面達を倒すため、強欲側と協力するという考えになってくれるはずだ。


後は次のクエストまでの時間を稼げれば良い。次のクエストには他の大罪もいるから、そこで『怠惰』の川崎さん・『暴食』の涼川さん・『色欲』の西園寺の話が通じそうな3人と協力関係を築ければほぼ安泰だ。


これ以外良さげな作戦は思いつかないし、一先ずは俺の学校の下級生であろうヒーローの仮面の人と早く接触をしたい。

工藤の兜があれば俺を助けてくれ人の正体が分かるだろうから、明日学校で使ってみよう。


内野歩きながら数人に連絡を入れる。

松平には他プレイヤーに襲われた事を他の皆にも伝えるように言い、梅垣には約束の時間より早めに通話したいと、二人にメッセージで伝えた。


二人から返事を待たず、今度は松野にも連絡を入れた。


俺とヒーロー仮面が同じ高校だと分かった相手は、きっと学校内にいるプレイヤーを探ってくるはずだ。そうなれば松野も危ない。

同じクラスだし松野と俺が繋がっているのは相手にすぐバレる。松野のは悪いが、俺が平塚さんと協力関係を結べるまでは学校に来ない方が良いかもしれないな。もうテストだとか言ってる場合じゃない。


松野には、襲われた事と学校に来ない方が良いという話をしておいた。松野からは割とすぐに返信がくる。


〔俺の予備の制服いるか?少しサイズ大きいかもしれないけど、必要なら貸すぞ〕


最初に送られてきたメッセージがこれであった。


…なんか凄い物分かりが良いな。だが俺の制服はボロボロだし、このままだと明日学校に行けなかったから助かる。

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