第87話 仮面達

ヒーロー仮面は内野と同じ高校の制服を着ており、少し背が高い女子生徒。そして巨大なハンマーを肩に掛けていた。

ハンマーは内野の身長以上の大きさでかなりのサイズがある。


「誰だお前は!ひょっとしてコイツの仲間か!?」


青仮面が内野の方を指差してそう尋ねるが、ヒーロー仮面は何も返答しない。


「青、あの上の奴の相手は俺がやる。お前は強欲から目を離すなよ」


「ああ」


赤仮面の命令に従い、青仮面は上を見るのをやめて内野の方を向く。


「おい強欲。見たところ上の奴と同じ学校の制服だが、あのふざけた面を着けてるのはお前の仲間だろ。明らかにあれもプレイヤーだ。」


全く心当たりの無い者だが、内野は咄嗟に噓をつく。


「そ…そうだ!」


「一体いつ助けを呼んだのか全く分からなかったぜ。もしかして学校から出る時点で俺達に気がついてやがったのか?」


「そうだぞ。俺が逃げて時間を稼いだのも、全て援軍が来るのを待つためだ」


当然噓である。仮面の者達に追われてからスマホをいじる余裕などなく、誰にも連絡できていない。

この噓の援軍の事を聞いて大人しく退いてくれると一番良いが、そうなるとは思えなかったので内野は急いでショップを開き、魔法水を買って使用する。


闇に近づかずに攻撃する手段が無いからか、ショップをいじる内野に対して青仮面は棒立ちでいる。


赤仮面は上を見上げ、ヒーロー仮面の者と見つめ合っていた。


「下りてきたらどうだ?」


「…」


「動かないし喋らない…か。今の強欲の話は本当で、時間稼ぎに徹するつもりだな。ならその前に仕留める」


内野の噓を信じた赤仮面は援軍が来る前に短期決戦を仕掛ける事とし、建物のパイプや窓枠を掴みながら上へと登っていく。

ヒーロー仮面は赤仮面が動き出すのを待っていたかのように、突然屋上の柵から身を乗り出す。

そこでハンマーを上に振りかぶったかと思うと、下にいる赤仮面に向かって投げつけた。


窓枠に手をついていた赤仮面は腕の力だけで横に飛び、ハンマーを回避する。ハンマーが落ちた所の地面は割れて、激しい音と共にコンクリートの破片が辺りに飛び散る。


ヒーロー仮面はまたしても同じハンマーを取り出し、二投目を放つ。次狙ったのは緑仮面であった。


「青!翠を守れ!」


「ッ!」


赤仮面の警告で、青仮面は咄嗟に倒れている緑仮面を抱えて移動する。今のお陰で内野と青仮面の間には距離が出来た。


この頃には周囲にある闇が内野の元に戻ってきていた。そして魔力水を飲んで内野は動ける様になっていた。


今なら上に行ける!


ヒーロー仮面が隙を作ってくれたお陰で、内野は跳躍して何とか建物の上へと登れた。太股に刺さっていた矢も『酸の身体』のお陰で刺さっていた部分が溶けており、足を動かす邪魔にはならなかった。


「クソ!強欲に逃げられた!」


「…翠を回収して一旦退くぞ」


さっきのハンマーの音で周囲にいた人達が騒いできており、仮面の3人は一般人達に姿が見られない内に撤収する判断を下す。

3人は内野達から離れる方向へ撤収していき、すぐに姿が見えなくなる。


それを見たヒーロー仮面は下に落ちている二つのハンマーを回収し、再び建物の屋上へと上ってきた。

内野はすぐにヒーローの仮面を被った者に頭を下げてお礼を言う。


「あの…どなたか分かりませんが助かりました。ありがとうございます」


「…あそこに君の荷物置いてあるから。光の玉も詰め込んでおいたよ」


やはり見た目通りヒーロー仮面は女性であり、指差す方向には内野が背中を斬られた所に置いてきた荷物があった。

光の玉のせいで閉じていても鞄は発光している。


「荷物回収しておいてくれたんですか!?助かります!

あ、そもそも貴方は誰ですか?他のグループのプレイヤーですよね?」


「うん、それじゃ私はこれで帰るね。バイバイ」


「ちょちょ!少し待って下さい!」


そそくさと帰ろうとするヒーロー仮面の者の腕を掴んで引き留める。


「同じ学校ですよね?顔は隠したままで良いので、せめて名前を教えてくれませんか!?」


「名前だけって…同じ学校だから名前を教えたらすぐに顔バレちゃうよ」


「どうしても正体は教えたくないんですか?それなら無理にとは言いませんが…」


でもやっぱり誰なのか知りたい…せっかく友好的な他のグループのプレイヤーに会えたんだ。このチャンスを逃したくない。


「ごめんなさい、今は誰にもばらしたくないの」


「そうですか…それは仕方ないですね。

何処の大罪のグループなのかとかも教えてくれないですか…?」


「『憤怒』の平塚さん…君の隣に座ってたおじいちゃんの所だよ。それに貴方よりも年下だから敬語じゃなくていいよ」


「分かった。てか年下って事は1年生なんだね」


「…あ!

いや…違うの。ほら、年下だからって1年生とは限らないでしょ?

同学年でも誕生日によっては年下だったりするし…」


間違って自分の情報を話してしまい、ヒーロー仮面は焦ってそれを訂正しようとする。その様子を見て思わず内野は笑みがこぼれた。

さっきまで戦いがあったとは思えない雰囲気だ。


「そうなると君が俺の誕生日を知っている人物って事になっちゃうよ。

でもこの学校の生徒で俺の誕生日を知っているのは一人ぐらいしか思いつかないし、そいつは男だから絶対に違う」


「う……」


内野は制服が血だらけになりながらも普通に話しており、もう片方の者は仮面を被っている。傍から見たら異様な光景だ。


そんな時、突如背後から聞き覚えのある声がした。


「あんたその傷どうしたの!?

てかそのデカい武器持った女誰よ!」


横をみると、そこには兜を被った工藤がいた。


「魔力の反応が複数あって、確かめに来てみたらこの状況だったんだけど…一体何が起きたの!?

取り敢えず直ぐに治すから待ってて!」


「助かる…先ずは背中の傷からやってくれ」


血だらけの内野を見て、工藤は慌てふためきながらも急いで駆けつけて来る。工藤が来てくれた事にホッとしてかヒーロー仮面から手を離す。するとその瞬間にヒーロー仮面は前へと走り出し、他の建物へと移って何処かへ消えていった。


「あ、行っちゃった…」


「誰のだったの?あの動きはプレイヤーよね?」


「それが分からないんだよ、正体は秘密らしい。一応俺の学校の下級生らしいけど」


「そこまで絞れるとあんま秘密って感じがしないわね」


取り敢えず工藤にヒールを掛けてもらっている間、仮面の者達の事などを全て話した。



「プレイヤー同士で戦闘…とにかく襲ってきた奴らがいたって皆にも知らせておきましょ」


「てか工藤はどうしてここに?魔力の反応って言ってたけど、家でも兜を被ってたの?」


「ああ…実は前回のクエストの時に兜がボロボロになってて、どうにか直せないかと思って部屋で出してたのよ」


ん?

でも今工藤が被ってる兜は新品同様にピカピカだぞ?


「もしかして直せたの?」


「私は何もしてないのに、今日手元に出したら直ってたの。思えば松平達の武器とかも汚れたり傷ついたりしてなかったし、クエストが終わるごとにアイテムが新品のものに変えられてたりするのかも」


「なるほど、それじゃあアイテムの耐久力だとかはあまり考えなくてもいいのかもな。後で梅垣さんと通話する予定があるからその時にでも聞いてみよう。

それより、俺とヒーローの仮面以外の奴らのもの魔力の反応は見えないか?」


「私がここに来る前に4人分の魔力の反応が離れていくのは見えたわ」


工藤は仮面達が撤退していった方向を指差す。


4人…赤・青・緑の他にいたのか。もしかすると俺の脚に矢を打ってきたのがそいつかもしれない。


「それよりもその格好はどうするの?それで帰るつもり?」


背中と太股には斬られた後と矢が刺さった穴が開いており、血で服も汚れている。

この格好で外をうろつけば確実に救急車を呼ばれるであろう。


「それ帰るのは…流石に無理じゃない?近いし私んち寄ってく?

今家には誰もいないから血だらけでも大丈夫だし」


工藤のこの誘いにより、内野は人生初となる領域へと足を踏み入れる事となった。(女子の家)


ワクワク出来る様な状況じゃないのが悔やまれるな…

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