第80話 七人の名

「高木ちゃん、そんな怖い顔で仲間を睨むのはやめよう。

あ、まずは簡単に自己紹介してこうか。皆なんて呼び合えば分からないだろうしクエストの説明はまた後にしよう、先ずは暴食から!」


黒い球に呼ばれて、20歳位の綺麗なお姉さんが立った。胸の露出の多い服、ハーフパンツを着ており、脚の長さやウェストなどスタイルの良さが際立っている。


「私からなのね。

クエスト待機所から見てる皆はどこの視点から見てるの?」


「僕の視点がそのまま移されてるって感じだよ」


「…そう。

私の名前は『涼川 佳恵よしえ』、暴食のスキルを持っているわ。能力と年齢は内緒よ♡

これからよろしくね」


そう言うと黒い球に向かってウィンクし、下に組んだ腕でさり気なく胸元を揺らす。


…もしかしてこの自己紹介を見てる皆に向かってのアピールか?

今のうちに少しでも自分に好感を抱く人を増やすための自己紹介を直ぐに思いつくとは…中々頭が回る人なのかもしれない。


「涼川ちゃんありがとう!次は嫉妬の君!」


「『高木 愛冠ティアラ』…しゅん君以外の人間に興味ないから。

あんたらも早くこの自己紹介終わらせて、長々喋らないで」


次に発言したのはゴスロリ服の女の子だった。


キラキラネームってやつか。もしかしてあんな風になったのも家庭環境が悪かっただとかあるのかも。


「自己紹介ありがとう高木ちゃん、それじゃ次は…」


「僕の名前は『西園寺さいおんじ ひかる』、色欲さ!」


黒玉が喋っている最中で次の人を指名していなかったが、高木の隣にいたイケメンの高校生は立ち上り勝手に自己紹介を始めた。


「最近とあるアイドル事務所からオファーが来て、普通の高校生とは3味ぐらい違う生活を送っているよ。

ダンス・歌の練習や、美容とか筋トレとかも欠かさず毎日行っている。もちろんサインの練習もね。

そんな努力家の僕だから近いうちにトップスターになってるだろうし、名前と顔は嫌でも頭に入ると思うけど、改めて言うよ。

僕の名前は『西園寺さいおんじ ひかる』!」


袖や裾を捲って自分の身体を自慢しながら、黒玉に向かってオシャレなポーズをキメて自己紹介をする。


だが高木は長々と自己紹介をされた事に苛立っていた。


「あんた…さっき私が言ったの聞こえなかったの!?こんな自己紹介に時間使わないでって言ったじゃん!」


「しっかり全部聞こえてたよ。ただ、言ったそばから長い自己紹介をしたら君がどれぐらい怒るのか試したかっただけだけ」


「…ッ!?

ほんとしゅん君以外の男ってゴミばっか、消えろ、てか絶対に消してやる」


本気で怒る高木に対し、西園寺は半笑いで明らかにふざけている。そして高木の身体から少し闇が現れた。内野の『強欲』で出るものと全く同じものだ。


「あ、もしかして大罪スキルって全部この真っ黒な闇なの?僕のもこんな感じなんだけど」


西園寺の問いかけに、キレてる高木と目つきの悪い男以外の4人は頷く。すると西園寺は椅子に深く腰を掛けてため息をつく。


「なんか闇を使うって…僕達が悪役みたいに見えない?

さっきの大罪スキルと王の話もそうだけど、僕らが大罪ってのが少し気に食わないんだけど」


「いやいや、魔物達からしたら割と大罪人で合ってると思うよ。殺した魔物の数で見たら君らの右に出る者はいないでしょ」


「まぁね。僕と同じぐらい強力なスキルを持っているのなら、ここにいる全員相当な数の魔物を殺してるだろうし」


他の大罪の能力か…それぞれ違う能力なのだろうけど、一体どんなものなのか気になるな。


「それじゃあ次は傲慢、椎名君に自己紹介をしてもらおうか」


そう言うと黒玉は、ある男の前に移動する。そして男は立ち上がる。

男は20代半ばぐらいで高身長、顔立ちは良いが目つきが悪いので、黙っているだけでもかなりの威圧感がある。


椎名しいな ごう。協力するつもりは無い。以上」


それだけ言うと男は椅子へと腰を掛ける。


本当にこれで自己紹介終わりなのか…


「本当は君にも皆と協力して欲しいんだけど…まあいいか。それは本人の自由だしね。次は怠惰の川崎君」


「…俺の名前は『川崎 賢人けんと』、29歳だ。今言われた通り怠惰のスキルを持っている。これからよろしく」


30歳位の髭が中途半端に生えて髪がぼさぼさの身なりの悪い男だが、物静かな感じの人である。。


そして自己紹介の順番と席の位置的に、遂に次が内野の番。内野は緊張しながらも立ち上がろうとすると


「次は強欲…の前に憤怒が先にお願い」


「え」

「…儂が先か?」


黒玉になぜか順番を飛ばされてしまい内野は中腰で固まる。


な、何故俺は飛ばされたんだ…?


まだ自己紹介をしていない老人と内野は二人とも驚き、お互いに目が合う。


「…貴方が先みたいです。お先にどうぞ」


「ああ、すまんのぉ。

儂の名は『平塚 げん』、今年で75歳になる老いぼれじゃ。これからはよろしく頼む」


着物を着ているお爺さんで、渋い顔立ちをしているがにこやかな表情である。


「それじゃあ最後に強欲の内野君」


なんか一個飛ばされたけど俺の番が回ってきた。全く知らない人の前で話すのは緊張するな。


内野は緊張で少し顔が引き攣っていたが、それでも出来る限り力を抜いて自己紹介をする。


「どうも、内野勇太です。強欲のスキルを持っています。よろしくお願いします」


…今自己紹介してて思ったが、この個性の濃いメンバーの中にいる俺って影薄いな。他のメンバー割と見た目や性格に個性あるし。


「確か高校での暴力動画で映ってたのって君だよね?」

「儂も名前だけは知ってるな」

「あの動画が編集されたものじゃないのなら、彼は間違いなくプレイヤーだろうっていうのはこっちでも話が上がっていた」


パッとしない自己紹介で自分の個性の無さを実感していたが、大多数が内野の事を知っていた。

特に川崎の所では内野がプレイヤーじゃないかって話も出ていたという。


自己紹介の後に静寂のみが残るんじゃないかと心配していた内野だったが、周囲からの反応があって内野は内心かなりホッとしていた。

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