第72話 討伐対象:無冠の王の使徒3

数分走っていると、何人かが魔物と戦っているのに気が付いく。

あのミミズと戦っている様だが、かなり押してる様に見える。だがさっきの俺の様に口と牙の様に見えるものがある方を攻撃している。


俺はさっきの戦闘でミミズの頭がある方が分かった。口みたいなやつがある方を攻撃してもあいつは倒せない。


「そっちはフェイクだ!もう片方の端が頭だ!」


内野は走りながらそう叫ぶ。

皆はその声が聞こえた様で、ミミズの攻撃する所が変わった。

前に出て戦っている1人とその後方に2人いる。全部で3人だ。


攻撃しないといけない方さえ分かれば、こいつはそこまで危険じゃない。死者が出て無ければ良いのだが…


ミミズの近くまで接近した内野はミミズの上に飛び掛かり、ゴーレムの腕を出して頭を潰す勢いで殴った。


ミミズの頭は衝撃耐え切れず潰れ、それ以降動く事は無かった。

進上さんがいなくても倒せて良かった。相手は疲弊してたからか動きが鈍かったし、何とか穴に潜られる前に倒せたぞ。


「内野先輩!また助けに来てくれたんですね!!」


倒れたミミズの近くにいたのは木村だった。

そして一人で前線にいた者が木村だった事に気がつく。

それもそのはず、木村以外のメンバーは新規プレイヤーの様なので前に出れるのが木村しかいなかったらしい。


生きていてくれたことに安心したが、今は工藤に教えてもらった大きい魔力を持つ人の所に早くいかないといけない。

工藤にその人がいる方向は教えてもらったけど、その人が遠くに移動してしまえば見失う事になる。

だから一緒に来れない様なら、梅垣さんのいる所を教えてそこに向かってもらおう。


「木村君、魔物と戦い終わったばかりで悪いけど今から移動出来る?」


「移動は出来ますが…何処に行くんですか?」


「時間が無いから簡単に言うと、黒狼と戦っている梅垣さんの所。そこで梅垣さんの近くに魔物がいかない様にして欲しいんだ」


内野がそう言うと、木村は後ろの新規プレイヤー達の方を向く。

新規プレイヤーの一人はツインテールの女子中学生。

もう一人は小太りの中年男性。


「二人共、大丈夫そうですか?動けます?」


「わ、私は大丈夫です…」

「私も問題ない。こう見えても学生時代は陸上部だった、君達に遅れはとらんよ」


二人はそう答え、木村・女子中学生・中年男性は梅垣の所へ移動していった。


あの感じだと二人とも俺達が噓ついたのをまだ知らないのか…もう本当の事を話して良かったかもしれない、謝るなら早めの方が絶対に良いしな。



そして内野は再び目的の場所へと走り出した。





数十分走り続けるが、遠目にミミズが見えるだけで一向に人と遭遇しない。


微かに空に発煙筒が使われた跡があったりするのでそこを経由してみるが、生きている人間はいなかった。あるのはミミズが出てきた穴と死体、どの死体も新規プレイヤーと思われるものだが、数はそこまでない。


流石に時間がかかり過ぎた…もう魔力の高い人は何処か遠くに移動したっぽいな…もうその人と合流するのは諦めるべきか?


目的の人を見つけられずに肩を落とす。

だがその刹那、とある場所で一つ発煙筒が上がった。それはまだ行ってない方向であり、急いでその場所へと向かう。



あれは…大橋さんのスキルだ!

きっと工藤が見た魔力が大きい人って大橋さんだったんだ!


発煙筒の場所にたどり着くと、そこには以前大橋がスキルで作っていた砂のドームがあった。だがドームの周りを囲む様にして大きなサソリが3匹おり、身動きが出来ない様子であった。



だがこれは…俺はどうするべきだ?

サソリは俺に気が付いてないから出来れば奇襲したい。でも奇襲して一匹も倒せなければ、今度は俺があいつらに囲まれる。

もしもあの砂のドーム中に大橋さん以外のプレイヤーがいれば、一人一体を相手にすれば良いから楽だが、中に何人いるのかは確認出来ない。


…なら強欲で確実に一匹倒すか。魔力水も買えるし、これならサソリ二体に対して俺と大橋さんで相手できるぞ。

出来れば二体同時に吞み込みたいけど、二兎を追う者は一兎をも得ずって言うし、ここは確実に行こう。


強欲を使う判断がついた内野は、魔物にバレないようにゆっくりと近づき、確実に強欲で吞み込める距離まで接近した。


スキルを使用するといつも通り闇が現れ、その闇はサソリを吞み込んでいく。そこでサソリ達はようやく内野の存在に気が付くがもう遅い。その時には既に一匹を吞み込み終わっていた。


内野はすぐさま魔力水を飲み、大橋に声を掛ける。


「大橋さん!一匹倒しました!」


「内野か!?来てくれて助かったぞ!」


内野が声を掛けると大橋は砂のドームを解除する。するとその中から5人現れる。

一人は大橋で、もう一人は泉。後の3人は新規プレイヤー達だ。大橋はドームから出るや否や一匹のサソリに向かって走り出した。


「俺と泉でこの一匹を倒す、内野にもう一匹を任せて大丈夫か!?」


「恐らく大丈夫です!」


大橋の指示に内野は頷き、目の前にいる一匹のサソリと対峙する。だが内野は戦う前にステータスを開いて、急いで獲得したスキルを確認する。

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【スキル】

・毒突きlv,1(10)


【パッシブスキル】

・火炎耐性lv,1

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魔物が持っていたスキルを確認すると、内野は大声で大橋と泉に警告をする。


「この魔物は毒突きと火炎耐性というスキルを持っています!二人とも気を付けて下さい!」


「分かりました!」

「了解!」


二人に警告した後は目の前にいる魔物に視線を移す。


サソリは成人男性程度の大きさで色は黒ずんだ黄色。二本の大きなハサミと尖っている尻尾を持っている。


毒突きってスキルは多分あの尻尾で突き刺してくるのだろう。毒がどれ程強いのか分からないし、尻尾の動きには注意しておこう。

だが前方向にはそこまでリーチが無いし、遠距離からなら安全に攻撃できるかもしれない。


内野は鉄の剣を取り出し、サソリの頭を狙って剣を投げる。練習の成果もあり狙い通りには飛んだが、その剣は両手のハサミで防がれ、剣はサソリの近くに落ちる。

だが防いだ所は無傷ではなく、剣の刃が少し通っておりひび割れていた。


硬そうな部分で防がれてもこの手応え…もしかすると相手はそこまで強くないのかもしれない。

なら今度はゴーレムの腕を付けた状態で槍を投げれば…


そう考えゴーレムの腕と槍を手元に出そうとすると、サソリの尻尾が動き出し、先端を内野に向ける。


まるで狙いを付けるかのように向けられた尻尾に嫌な予感がし、内野は直ぐに斜め後ろへ飛ぶ。


その瞬間、サソリの尻尾が数倍の長さにも伸び、尻尾の先端が内野の頬を掠めた。頬にほんの数ミリの切り傷が出来る。


尻尾の驚異の伸びに驚いていると、先程掠めた所が徐々に熱く、そして痛くなってきた。


これが毒か!

痛い…どんどん痛くなってくる…これは早く決着を付けないとダメだ!今俺が倒せなかったら大橋さん達の負担が大きくなる!


早く倒さなければならなくなってしまった内野は、ゴーレムの腕を取り出しサソリに真っ向から走っていった。

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