第71話 討伐対象:無冠の王の使徒2

「内野君、君は発煙筒が上がった所に行くんだ!」


内野がいる事に気が付いた梅垣はそう言う。その間余裕がないのか、黒狼は動こうとしない。


「遠距離攻撃を出来る者を連れて来てくれ。特に松平さんを連れてきてくれると助かる。

今こいつは回避に徹してて、仕留めるのには時間がかかりそうなんだ。それであと一押しが欲しい。


だが気を付けろ、下からも魔物が現れるかもしれない。感知スキルで魔物が地中に潜っているのは分かっていたが、今の遠吠えでそいつらが一斉に動き出した」


「わ、分かりました!」


梅垣さんがそう言うのなら従うしか無い、とにかく一番近くの煙の所に行こう。

俺の知る限り遠距離攻撃をできるのは数人しかいないけど…みんな生きててくれ!


内野は一番近くに上がっている黄色の煙を目指して走り出した。






一番近くの発煙筒の下に向かっていると、大きく、そして長い生き物が動いてるのが見えた。触手の様な見た目でうねうね動いている、黒くて大きいミミズみたいな魔物だ。

そしてその魔物と対峙している者の姿が見えた。


早く駆けつける為にスピードを上げると同時に、ミミズに氷柱の様なものが突き刺さっている事に気が付く。


「炎斬一閃!」


炎を纏った剣がミミズを縦に一刀両断し、全長20m程あったミミズの胴は真っ二つになった。


あれは…進上さんと工藤だ!

でもまだ魔物は生きてるし、先にあのミミズを倒そう。話すのは後でいい。


ミミズの様な魔物が真っ二つになったが両方ともまだ動いていた。


内野は先に頭があると思われる方に向かう。

頭なのか分からないが、端に口の様な穴とその周りに牙みたいなものあったのでゴーレム腕で牙をへし折った。


ミミズは苦しみ悶え、その穴からが岩を幾つも噴出する。

内野はゴーレム腕でそれを防いだので大したダメージは喰らわずに済んだが、その岩は少し離れている所にいた工藤の方にも飛んでしまう。ミミズは岩の噴射を一向に止めない。


防御するしかなく動けないで困っていると、進上がミミズに飛び掛かった。


「はっ!」


進上がミミズの上から剣を突き刺すと岩の噴射は止まる。だがそれでもミミズはモゾモゾ動いており、止まる気配は無い。


潰さないとダメなのか?ゴーレムの腕で頭を潰せるか分からないが、とにかく試してみ…


「本体はそっちじゃ無いわ!」


工藤の言葉に、内野と進上は動きを止めて工藤の方を見る。すると、さっき両断された身体のもう片方が地面に逃げようとしていた。


頭はそっちだったのか!


内野が咄嗟にその身体を掴み、思いっ切り引っ張る。

ゴーレムの腕を付けているお陰でミミズとの引っ張り合いに勝て、地中に潜られるのを防ぐことが出来た。


「進上さん!」

「任せて!」


進上は横に回り込み、剣でミミズの頭を切る。だが僅かに剣の刀身が足りず完全に断つ事は出来なかった。


「アイス!」


そこに工藤がスキルを使用したことで、またしてもミミズの身体は断たれる。尻尾と同じ様に少しモゾモゾと動いた後、完全に止まった。


「ふぅ…3人でも何とかなって良かった」


「内野!大変なの!」


内野が一息つこうと思っていると、工藤が焦った顔をしてそう言ってくる。


「狼の遠吠えが聞こえてから、クエスト範囲外から沢山魔物が来てるの!」


「え、クエスト範囲外から!?何匹ぐらいだ!?」


「見回して私が見えるだけでも40匹ぐらい。それにフレイムリザード位の魔力を持ってる奴も何匹かいる!」


もしかして黒狼のあの遠吠えで来たのか!

梅垣さんから地中に潜る魔物の事は聞いていたが、クエスト範囲外から魔物が押し寄せてくるだなんて想像もしていなかったぞ。


今回のクエストに参加しているのは、前回生還した者30人程度と今回初めて新規プレイヤー20人くらい。

だが新規プレイヤー達を戦力として見れるとは思えないし、前回の生還者の中にも、まだ数回しかクエストの経験の無い者もいる。俺ですらまだ4回目だ。

そして梅垣さんは黒狼の相手で手一杯。

どうする…戦力差は絶望的かもしれない…それにまだ一番の不安要素が残ってる…


「工藤、今回の討伐対象が何処にいるか分かるか?」


「…それらしき魔力は見えないの。魔力が大きくてもフレイムリザード程度で、レベル85の魔物とはとても思えないし…」


それじゃあ黒狼みたいに魔力が見えない敵って考えた方が良さそうだ…それはかなり厄介だな。

レベル85の敵の場所が分からないとなると迂闊に動けない…


内野が頭を悩ませていると、進上は工藤に質問する。


「工藤さん、その魔物達は何処に向かっているんですか?やっぱり遠吠えのした方向?」


「多分そうね。クエスト範囲外から囲むように来てて、皆遠吠えがした方向に向かってる」


その答えで内野の中に焦りが生まれ、工藤に詰め寄る。


「それじゃあ…その魔物達は黒狼の所に向かってるってこと!?」


「やっぱりあれって黒狼の奴だったんだ。ならそういう事になるわね」


梅垣さんは黒狼の相手で手一杯…きっと他の魔物の相手をする余裕なんて無い。魔物達を梅垣さんの所に近づけちゃダメだ!


「二人共…危険なんだけどお願いがあるんだ…」


梅垣から頼まれた事と黒狼の所に向かう魔物達を倒すのを頼もうとするが、それが危険というのを理解していたので、内野は少し言葉が詰まる。


「クエストで危険じゃない事なんてないでしょ、任せなさい」

「何かまた考えがあるんだよね?危険でも何でもやってみせるよ」


二人のその心強い言葉を聞き、内野は自分の考えている事を話す決意が付いた。

その為に梅垣が黒狼と戦っている事と、梅垣からの頼みを話した。


「それで今は遠距離攻撃が出来る松平さんを探してるんだ。その協力を二人にして欲しい。


先ずは今から発煙筒が上がっている所に手分けして向かって、そこで他の人と合流する。そこで松平さんを見つけたら発煙筒で知らせる。それを合図に3人とも黒狼のいる場所に戻るんだ。


遠距離攻撃が出来る人は黒狼の討伐に協力して、それ以外の人達は黒狼に向かっている魔物を倒して時間を稼ぐ」


「単純で分かりやすいね」

「分かったわ、それじゃあ時間がないわけだし早速動きましょ」


その後工藤に周りを見てもらい、松平と思われる魔力が大きい人間を探ってもらう。すると2箇所にそれらしい魔力があった。


それで工藤と進上の二人と内野一人に分かれてその場所へと向かう事となった。

工藤はMPが無くなれば戦えなくなるし、梅垣の言っていた遠距離攻撃が出来る者の条件にも当てはまるので、一人で行動させないようにする為2対1の分け方になった。


「死ぬんじゃないわよ」

「それじゃあまた後で会おうね」


「うん、二人も気を付けて」


こうして内野は二人と分かれ、工藤に言われた大きい魔力を持つ者がいる方向へと向かって行った

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