第70話 討伐対象:無冠の王の使徒1

クエストが始まり目を開けると、そこは見覚えのある風景。周囲は砂漠と荒野を混ぜたような所、前回のクエストと同じ場所。


周囲が良く見えるから魔物を見つけやすいのは良い、だが逆にこっちも見つかりやすい。

これが良いか悪いかは判断できないけど、梅垣さんが早く黒狼と遭遇出来るのは大きいぞ。


内野がキョロキョロ周りを見渡しながら歩いていると、早速一つ発煙筒が使われていた。


黒色の煙…黒狼だ!黒狼がいたんだ!

運がいいぞ、数分も経たずに見つけられた。これで梅垣さんが直ぐにあそこに向かってくれるはずだ。

あとは使徒って奴の場所も分かれば完璧だが…名前からは見た目が分からないからどうしたものか…


取り敢えず内野は黒の発煙筒の方にゆっくり向かう。

魔物が見当たらないので他に行くべきところが無いからというのもあるが、内野には一つの考えがあった。


もしかすると、俺が黒狼を強欲で飲み込めれば今回のターゲットも倒せる様になるかもしれない。

そうなればクエストを終わらせる事が出来る。今後もそうだ、また同じ様に強い魔物が討伐対象になっても、俺がクエストを終わらせられるようになる。


出来れば黒狼を強欲スキルで吞み込みたい…死体を吞み込んでも効果あるのかは分からないし、梅垣さんが黒狼を瀕死にまで追い込んでくれたタイミングで使えると一番良い。

その為には梅垣さんと黒狼との戦いが見える位置に居ないとダメだ。


発煙筒の煙はずっと出ている訳でもないだろうし、消えちゃって方向が分からなくなる前に行かないといけない。

でも早く行きすぎれば、フリーの黒狼と遭遇する事になる。そうなれば俺は確実に助からない。梅垣さんと戦っている状態でないとダメだ。

だから急ぎ過ぎずゆっくり過ぎず行かないと。


そう考え、内野は歩きよりも少し早いペースで煙の発生源へと向かっていった。



ガシャアアアァァァァァン!


暫くすると発煙筒の方向から鋭い光が見え、雷が落ちた時の様な轟音が鳴り響く。雲がはほとんど無く、晴れているのにだ。


あれは確実に黒狼の雷、もう戦闘が起きてるって事か。

それに雷を使うほどの相手という事は、恐らくあそこにいるのは梅垣さんだ。


だとしたら、後は黒狼以外の魔物…特に討伐対象の場所さえ分かれば…

って…あれ…


ここでようやくある異変に気が付き、直ぐに周囲の空を見渡す。最初に見た黒の煙以外、発煙筒が使われた様子は一切無い。


おかしいぞ…なんで誰も発煙筒を使ってないんだ?

流石に遠くて見えないだけって訳でも無いだろうし…まだ誰も魔物を見てないとは考えられない…


もしかして新規プレイヤー達は俺達の噓に気が付いて、発煙筒を使ってないのか?

それぐらいしか理由が思い浮かばないな。


だが梅垣さんが黒狼と遭遇出来ているのなら、作戦は半分成功しているものだ。取り敢えず今は黒狼と戦っているであろう梅垣さんの所に行こう。



もうそろそろ初めに発煙筒が上がった所に着くという所で、前方に人の死体がある事に気が付いた。

上半身は完全に無くなっており、下半身のみが残っている。そして近くには使われた形跡のあるからの発煙筒があった。


内野はその死体から目を背けようとするが、その死体の履いている靴が動きにくそうなサンダルであるのに気が付く。


この動きにくそうな靴…新規プレイヤーか?

多分この人があの黒の発煙筒を使ったんだろうし、さっき俺が考えた「新規プレイヤー達が噓に気が付いて発煙筒を使わなかった」というのはハズレかもしれない。


…もしかすると本当に討伐対象と黒狼以外の魔物がいないのかも。

今回のクエストは異常だし、いつものクエストと違う可能性は十分に考えられる。

強いターゲットの代わりに魔物はそいつしかいない、だとかあるのかもしれない。


内野がそんな予想を立てていると、とある方向でまたしても雷の光と音が聞こえる。

そこまで距離が無いので、一度考えるのを止めてその方向へと再び進んでいった。



近づいたので誰かが黒狼と戦っているのが見えてきた。黒狼と対等に渡り合っている男、梅垣だ。


やはり黒狼は前回の傷が完全には癒えていないようで、後ろ足が片方無く、動く度に腹部から血が流れている。

黒狼は本気を出しているのか今までにない程の雷を纏っており、全身に纏っている青い雷はこんな状況でも美しいと思ってしまうほど綺麗だった。


機動力を失った黒狼は梅垣の動きに完全にはついていけてない様子で、防御に徹して慎重に動いている。そのおかげか、見たところ梅垣は傷を一切負っていない。


まだまだ時間はたっぷりあるし、これなら行けるぞ!今回で黒狼を倒せる!


そうなれば俺がすることは一つ、他の魔物に邪魔されないように周囲を見張ることだ。

さっき考えた通り他に魔物がいないかもしれないけど、魔物が見つからない以上俺が出来るのはこれだけだ、この広いクエスト範囲で松野を探すっているのは無理があるからな。



黒狼と梅垣は戦い続けている。だがそんな中、何故か黒狼と目が合った。それも一瞬ではなく数秒だ。


梅垣さんと戦っている最中で余裕が無いはずなのに…なんで俺を見るんだ?

何だか嫌な予感がする…今回のクエストは何かおかしいし…



「オォォォォォォォン!!」


内野が黒狼の様子に不安を抱いていると、突然狼の遠吠えがする。

その遠吠えをしたのは黒狼であった。


そんな隙を梅垣が見逃すわけがなく、梅垣は両手の剣を振るい黒狼の身体を切り刻んだ。それにより黒狼の身体は更にボロボロになる。


内野が黒狼の不可解な行動に驚いていると、遠くで発煙筒が上がる。それも一つではなく数か所で上がっていった。


魔物が現れたって事だろうけど、どうして急に色んな所で魔物が現れたんだ!?

黒狼が遠吠えをした瞬間状況が変った、あいつは一体何をしたんだ!?

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