第67話 黒狼の隙

作戦が決まり、松野に本当の作戦を話すため広間の端へと連れて来る。


「…そういう事か、だからお前は始め俺を見た時にあんな表情をしてたんだな」


「うん。こんな状況で新規プレイヤーとして来たら絶対に生き残れないと思ってな…全部顔に出ちゃってたか」


松野は本当の事が分かって顔が引き攣り、身体も少し震えていた。それでも松野はいつもの様子で普通に内野に話し掛けようとする。


「でもこれでお前が強かった理由が分かったぜ。てか俺も生き残ればあれだけの力が手に入るんだろ?

絶対に生き残ってやる。QPとかいうのでお金と交換して豪遊してやるぜ」


「…なぁ松野。気になっていたんだけど、どうして小西を倒したあの時に俺のあの力について何も聞かなかったんだ?

あれを目の前で見たお前なら、衝撃を全て受け流したっていうのが噓なのは分かってただろ?」


これは内野がずっと気になっていた事であった。


俺の力を目の前で見たのに、松野はその事について全く聞いてくる様子を見せない。正直普通なら正樹みたいな反応をすると思うのだが。


「まぁ…別に今はまだ知らなくてもいいかなって思ったんだ。

最初にお前と話した時に、小西が結構ヤバい奴らとつるんでると分かって怖くなったって言っただろ?

多分それは小西と焦って距離を詰めすぎたせいで馴染めなかったんだと思う。今となってはそれで正解だったと思うけどな。

その反省を活かして、お前とはゆっくり仲良くなれば良いと考えて、あの凄い力の事も焦って聞かなくても別に良い気がしたんだよ。


そもそもお前の第一印象って、あのドッジボールの日にボールで小西の鼻を折ったから怪力ゴリラみたいな印象がだったんだわ。それもあったからか焦って聞こうと思わなかったな」


「そうだったのか…」


松野のその言葉で内野が最初に思い浮かべたのは、今日の下校時に揉めてしまった佐竹と両親のことであった。


正樹と違って松野とはまだ数日前に仲良くなったばかりだから、俺の事について色々聞いてきたりしなかったのか。

今日の下校時に正樹が俺の変化について色々聞いてきたのは、俺を信用してないからではないのは分かってる。俺だって正樹に何か急激な変化があったら問い詰めるし、何も話してくれないのは傷付くと思う。


でも相手が数日前に知り合った者ならこうはならない。そもそもよく知らない人間だから変わった事すら分からないだろう。


いや、それにしても金属バッドで殴られて平気なのはおかしいと思うが、結局は元の俺を知ってるかどうかが重要なんだ。

もしかすると父ちゃんと母ちゃんも俺が正直に話すのを待ってるのかな…


「内野君。友達と話してる所悪いが少し話がしたい」


内野がそんな事を考えていると、背後から突然声を掛けられて焦って振り向く。そこにいたのは梅垣であった。


内野は松野から離れ、梅垣と二人っきりで話す。


「な、なんでしょうか?」


「本題に入る前に、先ずは礼を言おうと思う。

君がさっき二人の事を説得してくれたから円滑に話が進んだ、ありがとう。

この作戦は一人でも反対する者が現れ新規プレイヤー達に本当の事を話してしまえば成り立たないものだったから、あの場で二人を説得してくれたのは本当に助かった」


「…ええ。自分もその点には気が付いていたので、少し酷い事と無責任な事を言ってでも二人を説得しました」


命の価値だとか、リーダーなんか無くしてしまおうだとか、そんな事を勝手に言っちゃったな…

でも俺があんな事を言ってでも説得したのは、ようやく出来た高校の友達をこんな所で死なせたくなかったからだ。ただその為だけに新規プレイヤー達を騙すのに加担した。


『貴方はそんな酷い事をするような人じゃ…』と木村君には言われたけど、俺は友達の為なら酷い事でも出来るようだ。木村君は俺を買い被り過ぎな気がする…


「本題に入ろう、と言っても幾つか聞きたい事があるのだが、最初に聞きたいのは君がゴーレムの核を壊した時の事だ」


「あ、ああ…あれは僕の『強欲』というスキルです。松平さんは知らないと言っていたのですが、梅垣さんは知ってますかね?

飲み込んで相手の…」


「いや、今聞きたいのはスキルの詳細ではない。君があそこで黒狼と対面した時の事を聞きたいんだ。

どうして黒狼があの時動きを止めたのかずっと気になっていてな」


ゴーレムの核を壊した時に聞かれる事と考えると、真っ先に思いついたのは自分のスキルの事で、てっきりそれについて聞かれるのだと勘違いして答えてしまった。

だが梅垣に聞かれたのはそんな事ではなく、全く身に覚えのないものであった。


黒狼と対面…?

新島が食われて俺が黒狼に恐怖してた時の事か?

でもあの後直ぐに、黒狼は梅垣さんの攻撃を避けるように動いたし、黒狼は動きを止めてはいないぞ。


「え、いや…そんな事ありましたっけ?

スキルを使った瞬間に気絶したので、もしかするとそのせいで少し記憶が飛んでたりするかもしれません」


「忘れたのか?

ならあの時起きた事を簡単に説明しよう、そうすれば思い出すかもしれない。


確かに君は奇妙なスキルを発動した後、ゴーレムの核の目の前で気絶した。それでも君の身体から現れた闇の様なものは核をどんどん吞み込んでいた。

俺は出来るだけ黒狼の動きを止め、完全に核が吞み込まれるまでの時間を稼ぐのに専念していたのだが、ある時急に黒狼が動きを止めたんだ。


戦闘中に動きを止めるなんて有り得ないし、もしかすると俺の知らない技を放とうとしているのかと思い警戒し、一度奴とは距離を置いた。


だがあいつは雷を放ったりする訳でもなく、ただ君がいる方を見ていたんだ。何事かと思い俺も君の方を見たら



そこには闇を放ちながら立ち上がる君の姿があった。

立ち上がると君は黒狼の方を見つめ、黒狼もまた君を見つめていた。


数秒見つめた後、黒狼は内野君から目を背けて倒れている飯田さんに向かって雷を放ち殺した。

そこで君が核を吞み込み終わり、クエストが終了した。


この話を聞いて何か思い出したか?」


…全くもって覚えてない。

俺は気絶した後にもう一度立ち上がった記憶なんか無いし、黒狼と見つめあった記憶なんて無い。


って…あれ…黒狼と見つめ合うって…


内野が思い出したのは、前回のクエストの時に闇から脱した黒狼が立ち止まった事。


「それについては覚えてないのですが、実は前回のクエストの時も黒狼が動きを止めたんです」


「黒狼が君のスキルから脱出した後だろ?俺も見ていたから知っている。

それも気になっていたが、黒狼が不自然に動きを止めていたのはそれだけじゃない。

ゴーレムのクエストの時に君と共にいた女性。彼女は3回前のスライムのクエストの時に黒狼に遭遇しているのだが、その時も黒狼は動きを止めていた。

本来なら発見したらすぐさま不意打ちで相手を殺すはずだが、何故かあいつはわざわざ場所を教える様に唸り声を上げ、彼女を襲わずに対面していた」


これは新島の話か。(27話)

何故か黒狼は俺と新島を前にして動きを止めた…理由はさっぱり分からない。

黒狼に対して『妙な懐かしさを覚えた』と言っていたし、それも何か関係あるのか?

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