第57話 蹂躙

「ッ!?お前ら!全員でボコるぞ!」


やっと何が起きたのか理解でき、小西の怒鳴り声と共に全員で一気に内野に向かう。


内野は先頭にいた者を蹴り、後ろにいた者も巻き添えにして教室の端まで飛ばす。

相手が少したじろいでいるその隙に、松野の腕を引っ張り自分の後ろに下がらせる。


「松野、少し離れて」


「…え、お前…」


小西含めた4人は内野に接近すると、一切の容赦なく本気で殴り掛かってくる。

倒れている机のせいで足場が悪く全部躱すのは無理だと考えたが、そもそも躱す必要など無い事に気が付いたので、内野はその場で全員の拳を受ける。


何発喰らっても痛がるどころかビクともしない事に4人は戦慄する。


「な、何でこいつ倒れないんだよ!」

「んだよコイツ!」


内野は両手で二人の拳を掴み、以前真子の前でヤンキーと戦った時の様に、少しずつ相手の拳を握り潰す様に力を少し入れる。


苦しむ声を上げる二人を見て、遂に小西は武器を取り出す。


「っち、ならこれならどうだ!」


「さ、流石にそれはマズイんじゃ…」


残った1人が小西を静止しようとするが、小西は教卓の裏から金属バットを取り出す。


「いくら身体が頑丈でもこれならただじゃ済まねえだろ!お前の顔面を叩き潰してやる!」


「いいのか?お前はこれ以上問題起こしたら間違いなく退学になるぞ?」


以前学年主任の先生が、去年小西は学校で問題を起こして停学になったと言っていた。

既にイエローカードを出されてるコイツが学校にこの事がバレたら、今度は退学になるはずだ。


「そんなの知るかよ!

このままコケにされたら…本当に俺の居場所が無くなっちまうんだよ!もう学校なんてどうでもいい!」


頭に血が上ったのか、小西は少し取り乱し気味になりながらバットを振り下ろす。


簡単に避けられそうではあったが、後ろに松野がいるので念の為避けずに受ける事にした。

腕を顔の前に立てバットを受け止めると、バットが少し曲がる。


!?

俺は腕でガードしただけだ。それなのにこれだけ曲がるということは…こいつ本気でバットを振ったのか!?

この威力だと当たり所が悪ければ、普通の人なら死んでたかもしれないぞ!



バットが曲がった事にお互い驚くが、その驚きは小西の方が遥かに大きかった。小西は曲がったバットを見て啞然としその場で立ち尽くす。


「お、お前…何者なんだよ…」


そんな小西の言葉を無視して袖を捲りバットの当たった箇所を見てみると、そこは少し赤くなっていただけで、痣にもならない程度のものだった。


その内野の腕を見て更に小西と残りのヤンキー達は戦慄する。それは傍で見ていた松野も同じであった。


「う、内野…?一体何が…今お前バットで殴られた…よな?」


「あ、心配しなくて大丈夫。当たり所が良かったから何ともない」


「いや、ちょ…」


何か松野が言いたげだったが、それを待たずに内野は小西に向かい歩きだす。


「小西」


「ち…近寄んな!何者なんだよお前!」


「これ以上俺達に関わるな。もし、報復にでもくるなら、お前が仲間をどれだけ集めようが、必ずお前をぶっ潰す」


内野に脅され、小西は苦虫を嚙み潰したよう顔をしながらも頷く。


「…分かった…もうお前には関わらん…」


小西のその宣言により、ようやくこの問題が終わると胸を撫で下ろす内野であったが、辺りを見てその考えは消える。

倒れているヤンキー達、荒れた教室、ボロボロの松野。廊下から誰かの騒ぐ声声が聞こえてくるので、恐らくこの状況を見られたらただ事では済まない。


「松野、先生達には…「避けろ!」


松野の方を向いこうとした瞬間、必死の形相で叫ぶ松野のそんな声と同時に、後頭部に強い衝撃を受けた。


思わぬ衝撃にバランスを崩してしまい前に倒れるが、それでもまだ後頭部を何度も殴られる。

内野の後ろに居た者は一人しかいない、小西だけだ。小西は必死の形相で何度もバットで内野を殴り続ける。


「クソ、クソ!お前のせいで…お前のせいで俺は…!」


そう言いながらひたすらバットを振り下ろすが、内野には一切効かない。振り下ろされるバットを掴んで止め、小西を睨みつける。


「どういうつもりだ!?まだやるつもりなのか!」


「お前のせいで…俺の居場所が無くなっちまう!だからこれじゃ終われねぇんだよ!」


負ける事で何かあるのかは分からないが、小西の様子が普通ではないのは確かに分かった。顔色は青ざめているが怒っているかのように眉間寄っており、目から涙を流している。まるで怒りと恐れが入り混じった表情であった。

近くにいた残りのヤンキーはそんな小西を止められず、数歩後ろに下がって固まる。


居場所が無くなる…さっきも同じ事を言っていたが知るもんか。さすがにこれはラインを越えすぎている。やっぱり痛い目合わないとダメか!


右腕で小西の顔を横から殴り吹き飛ばし、小西は教室のドアもろとも廊下へ飛ぶ。廊下にはこの教室に誰もの来ないのを見張っていた連中と、騒ぎに駆け付けた複数人の生徒がいた。


「う、うわぁ!どうしたんだ!何で小西さんが!?」

「まさか内野に負けたのか!?」


「うそ!うそ!これ小西だ!」

「なんだこれ!」

「ヤバいすぎ!先生呼んでくる!」


騒ぎが騒ぎを呼び、廊下には更に人が増える。


これは…仕方なかったよな?小西にあれだけ言っておいて、まさか俺まで退学になったりなんて…


少し冷静さを取り戻した内野は、直ぐにボロボロの松野に駆けつける


「なぁ…この後先生に呼び出されるだろうけど、俺の正当防衛って証言してくれないか?」


「は、はは…そうするけど、この惨状だと信じてもらえるかは分からないな」


あれだけ殴られても内野がピンピンしてる事を尋ねるわけでもなく、松野はただ笑いながらそう返した。


初めて松野の心からの笑顔を見た気がする、これからも苗字が似てる者同士仲良くしような。



「勇太!」「内野君!」


先生たちが駆けつけるよりも早く、佐竹と山田の二人が廊下から走ってきた。


「あ、二人ともどうしたn「お前!怪我は大丈夫なのかよ!」


佐竹は内野の言葉を遮り、近づくと直ぐに内野の後ろに回り込み、後髪に触れる。


「怪我って何の事だ?てか何で俺の髪の毛触るんだ?」


「何でって…あれだけ後ろ殴られてたら相当な怪我してるだろ!

応急手当てとかよく分からないけど、今すぐ布で頭を……あれ…」


内野の後頭部を見て佐竹は固まる。そして固まっていたのは内野も一緒であった。


待て待て、どうして正樹が俺が後頭部を殴られてたの知ってるんだ!?『あれだけ後ろ殴られてたら』…ってまるで見てたかの様な言い方もしてるし。


「おい、ここ何で殴られたの知ってるんだ?」

「おい…何で傷一つ付いてないんだ…?」


内野と佐竹の言葉が重なる。お互い訳が分からなくなった所で、山田が内野の前に立つ。


「内野君…これを見て」


そう山田はスマホの画面を見せてきた。それはとある配信サイトのライブ画面であった。


同時接続者数3万とは…多いな。

その画面には…


その配信の画面には空き教室の様子が映っていた。さっきまで内野が居た空き教室と全く同じ光景である。




え?まさか…


「ここの教室で起きたことがライブで配信されてたんだ…僕らはそれを見て駆け付けて今ここに…」


「え、もしかして全部映ってたの…?」


「うん…君がバットで殴られたのも、君がやり返したのも全部…」


…噓だろ………

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