第56話 決意
「おっと、良かったな松野。頼もしいお前の仲間が来たぞ」
机の上に座っていた小西がそう言うと、周りのヤンキー達は笑い出す。
松野がボコボコにされてるのを見て、内野の中に沸々と怒りがわく。
…あの松野からのメールはこいつらの仕業か。それじゃあ今日松野が教室に来なかったのも、もしかしてずっとここに居たからなのか?
「ちなみにここら辺に誰も来れないように、外に見張りつかせたから助けを呼んでも無駄だし逃げられないからな」
「隣りの教室にスタンバイさせてたんだよ、気が付かなかっただろw」
周りのヤンキー達の言う通り、廊下からも数人の声がする。
怒りのせいで内野は今すぐ小西を殴りたいと思っていたが、それと同時に小西に謝らなきゃいけないとも思っていた。
どうする…正直今すぐこいつらを倒して松野を助け出したいけど…それでいいのか?暴力だけでこの問題を解決してもいいのか?
俺はまだ怪我させてしまった事を謝れてないし、力だけで解決させてしまったら…多分こいつらと同じになってしまう。
内野は自分の中にある怒りを我慢し、素直に謝罪することを選択した。
「…その…怪我をさせてごめんなさい。」
内野は小西に向かい頭を下げて謝罪する。
突然の行動に周りのヤンキー達はきょとんとし、その後ニヤニヤし始める。
小西は机から降り、内野の横にまで歩いて近づく。
「内野、謝ってくれて嬉しいぜ。俺も悪かった…
とでも言うと思ったのかこの馬鹿がぁ!」
小西は怒鳴りながら内野の背中を掴み、内野の腹を膝で数発打ち付ける。
ステータスのお陰で痛みは無かったので内野は反撃しない。
だが心の何処かではお互いに謝ってこの問題が解決するかもしれないと微かに希望を抱いていたので、この小西の応答には少しがっかりした。
…やっぱりそんな簡単にいかないよな。
でもこれで解決できないんじゃ…俺はどうすればいいんだ?
今ここでこいつらを倒してもまた復讐してくるはずだ。次は正樹や山田、そしてさっき仲直り出来たクラスメイト達にも何かしてくるかもしれない。
どう動くべきなのか分からないまま小西に殴られ続ける。殴られてる間に松野の方を見ると、こちらを見ながら小声で謝っているのが分かった。
何発殴っても全く痛がる様子を見せない内野に、次第に小西は怪訝な顔を浮かべる。
「さっきからこいつ全く声出さないじゃん」
「もしかして喉潰しちゃった?」
「こんだけ殴られて声出さないのっておかしくね」
周りのヤンキー達は少しふざけ気味にそう言う。
すると小西は殴るのを止め、少し何考えてから口を開いた。
「…いい事考えたぞ。お前ら、松野を立たせろ」
小西にそう指示されると、松野の身体を抑えていたヤンキーが動き出し、ボロボロである松野の身体を引っ張り無理やり立たせる。
「内野、松野、今からお前ら二人で殴り合え」
「「!?」」
小西の提案に二人を目を見開き驚く。
「内野、お前が少し頑丈な身体してんのは今ので分かった。だから身体の代わりにお前の心を削ってやるよ。
今から二人で殴り合って、勝ったら解放してやる。
内野に関しては、朝お前の事を助けに来たサッカー部の奴も見逃してやる。仲間にもお前の事は許したって言っておくから、もういつもの通り平穏な生活を送れるぞ。それどころかお前が望む学校生活を送らせてやるよ。
松野は勝ったら俺の所に戻ってきて良いぞ、今までの様に歓迎してやる。
だがその代わり、負けた方にはもっと苦しんでもらう。もしかすると友達や家族にまで被害が出るかもな。
ま、つい最近知り合ったばかりの奴だしお互いに本気で殴れるよな?」
小西は悪い笑みを浮かべて内野を見ながらそう言う。内野と松野の気がかなり合ったのを知ってて言っている様だった。
「お、いいなそれ!」
「やろうぜ」
「どっちが勝つか賭けようぜw」
「もしかして始めからそれ考えてたん?だから今そいつ殴るの手加減してたのかよ」
小西の話を聞いて周りのヤンキー達が騒ぎ出す。
だが周りが騒がしい中、内野と松野の二人はただ見つめ合っていた。
松野を犠牲にすればこの問題が解決するという事か。
松野とはまだ数日の関わりだし、普通なら自分、友達と家族の為にここで勝つべきなのだが…
そう考えていると、気が付けば松野が拳を握り締めながら内野の前に立っていた。
「すまん…すまん…内野…」
松野は震えた声で謝っていたが、拳を前に構えていた。
「お、やる気だな松野w」
「早くやれよー」
…そっか…お前はやる気なんだな。
松野が迷わず自分の前に来て拳を構えた事に傷つく。
工藤の「弱いから誰かとつるんでる」って言葉と、松野も同じ様な事を言っていた。(33,35話)
弱いと誰かと一緒にいないと安心出来ないのは分かるけど…それで幸せなのか?
いや、今の松野には、俺と違って正樹や山田みたいな頼もしい友達も、俺が持っているような力も無い。自分の事で一杯なんだ、こうなるのも仕方ない。
…けど…松野とは話もあったし、話してて凄い楽しかった。初めて自分の好きなゲームが同じ奴と出会えたんだ。
だからもっと仲良くなりたかった。でもそう思ってたのって…俺だけじゃ…
「よーい、スタート!」
内野の考えが纏まる前に一人の合図で開始してしまい、それと同時に松野が拳を振り上げた。
ドッ
松野の拳が内野の胸に当たるが、まるで何も感じない。
これは…俺にステータスがあるからじゃ無い、松野が全く力を入れてないからだ。
…誰がどう見ても力が入ってないパンチだ。
松野が露骨に負けにいってるのが分かり、それにより周りは盛り下がる。
「はぁ~つまんな」
「負ける気満々じゃん」
「美しき友情じゃww」
俺を勝たせようとしてるのか?
まだ数日しか話してないような奴を助けようとしてるのか?
内野はさっき松野の事を「弱い」と思った事を後悔した。
こいつは今強くなろうとしてる。俺を勝たせるのは、こんな事になった罪悪感からなのかもしれないけど、それでも自分を犠牲に俺を助けようとしている。
俺と違って正樹や山田みたいな頼もしい友達も、俺が持っているような力も無いはずなのにだ。
やっぱ弱いのは俺だった…所詮クエストの、貰いものの力で強くなっただけだ。それなのに、俺は自分のやりたい事をしようともせず逃げた。
そうだ、俺がどうしたいかなんて…本当は初めから分かってたはず。あんなに悩んでたのが馬鹿みたいだ。
後でどうなるとか知るか。復讐だろうが不良だろうが知ったこっちゃない。
俺は松野の様に、自分がやりたい事をやってやる。
たとえこれが貰い物の卑怯な力…チートであっても自分のやりたい事の為に使ってやる。
決意を固めた内野は、一番近くにいる1人の不良の顔を裏拳で殴る。
殴られた不良は並んである机を倒しながらを背後に吹っ飛び、その場で動かなくなる。
勿論本気ではなかったが、軽い怪我では到底済まない程の強さであった。
残りのヤンキー6人と小西、それに松野は何が起きたのか理解出来ずただその場で立ち尽くす
小西…そういえばさっき俺が望む学校生活がどうたら言ってたな?
俺が望むのは、友達と仲良く過ごす平和な学校生活だ。
そんな理想な学校生活を送るのにお前らは邪魔だ。だから…お前ら全員ぶっ潰す!」
感情的になってしまい最後の方は心の声が口に出てしまっていたが、今の内野はその事に全く気が付いていなかった。
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