第55話 友の心配

今にも殴りかかってきそうな雰囲気の小西であったが、山田はそんな小西の前に出て行く手を阻む。


「待って小西君!君はもう少し頭を冷やした方が…」


「うるえせぇ!用があるのはそいつだ、関係無い奴は黙ってろ!」


「君だって関係無い人達を使って内野君を捜索してたじゃないか、あそこまでする必要無いはずだよ!」


山田と小西が真っ向から暫く言い争っていると、佐竹が学年主任の先生と共に入ってきた。佐竹が先生を呼びに行ってくれたようだ。


学年主任のおじさんの先生は教室に入るや否や大声で小西を呼び出す。


「小西!校門の前にいた奴らについて話がある!来い!」


先生にそう言われると、舌打ちをし小西は内野と佐竹を睨みつける。


「ちっ…内野、後で覚えとけよ。

それにアイツを呼んできたお前、顔は覚えたからな」


二人にそんな脅しめいた事を言うと、小西は先生と共に教室を出ていく。一先ず何も起こらず周囲は安心しているが、内野は内心焦っていた。


まずい…俺だけならどうとでもなったが、正樹まであいつに目を付けられた…


そんな内野の心配をよそに、佐竹は内野が怪我して無いのを確認して安心していた。


「ふぅ…殴られたりしてないよな?間に合った良かった…」


「ちょ、お前まであいつに目を付けられたんだぞ!?俺の事を心配している場合か!?」


「お前こそ俺の心配してる場合かよ。俺はまだ自分で自分の身ぐらい守れるが、お前は無理だろ」


前まではそうだったけど、今の俺は心配しなくてもいい…って言っても信じないだろう。

ただ心配しなくても良いって言ってもダメだろうし、多分正樹の前で金属バットを折るぐらいして見せないと信じてもらえない。


でもそうなると、どうしてそんな力があるのか問い詰められるだろう。

ステータスが高くなっても筋肉が付いた訳でもないし、俺の身体はひょろひょろなままだ。だから筋トレのお陰だとか言っても信じてもらえないだろう…


内野がそんな事を考えていると、気が付けば佐竹は山田の前で頭を下げていた。


「こんな事を山田…君に頼むはおかしいと思うが、教室の中では勇太を守っててくれないか?」


勝手にそんな頼みをする佐竹に内野は焦って詰め寄る。だが佐竹は内野を無視して山田に頭を下げて頼み続ける。


「こいつ今年の体力テストも全て平均以下だからあいつに追われたら逃げられないと思うし、自分から周りに助けを求めるタイプでもない。

教室で何かあっても…きっとこいつは俺に何も話をしてくれない。だからここでだけはこいつを…勇太を守っててくれ!」


佐竹が本気で自分の事を心配してくれているのが分かり、何も言えなくなる。

佐竹の「こいつは俺に何も話をしてくれない」という発言が、自分を信じていないからでは無く、自分の事を理解しているから言えたものだと分かり、内野は自分の不甲斐なさの悔いる。


今までの俺がこんな情けない奴じゃなければ…正樹にそんな心配させずに済んだんだろう…

いや、今からでも遅くない。今日の放課後にでも俺の力を正樹には見せよう。ステータスで上がった足の速さだとか力だとかなら見せても大丈夫だろう。

力を手に入れたい経緯だとか聞かれても知るもんか。「今は言えない」って素直に言えば、きっとコイツは待っててくれるはずだ。


佐竹にだけは力を見せると決意を決めた内野であった。


内野が決意を決めたタイミングと同時に、山田は佐竹に近づく。


「佐竹君がどれだけ内野君を思っているのかは今ので分かったよ。僕に任せて、教室だけと言わず学校の中では彼を守ってみせるよ」


山田は頭を下げている佐竹の肩を叩き、佐竹の頼みを快く受け入れた。それにお礼を言い、授業の時間なので佐竹は自分の教室へと戻っていった。


すると山田はにこやかな表情で内野に小声で話しかける。


「いい友達を持ったね。人の為に頭を下げられて、自分よりも他人の心配をできる人なんて中々居ないよ」


「まさかあいつが俺の為にあそこまでするとは思わなかった…後であいつの好きなメロンパンでも買って渡してくる」


「ふふ、それが良いよ」



その後通常通り授業が始まった。途中で小西が教室に帰ってきたが、授業中は大人しかった。いつも授業中はずっと周りの仲間の話しててうるさいが、今日は小西の取り巻き達も静かであった。


だが内野には一つ気掛かりがあった、それは松野が学校に来てない事である。


昨日小西が学校に来るって連絡を受けてから何も届いてないし…一体今どこにいるんだ?


念の為通話をかけ、メッセージを送ってみたが反応は返ってこなかった。



休み時間になり山田が内野の傍にいるのを見ると、諦めたのか小西達は教室を出て行った。


昼飯も当然山田と一緒に食べるのだが、その時にいつも山田と話してるクラスメイト数人が内野に謝ってきた。

それは先週の小西の鼻を折った日に一緒に昼ご飯を食べた人であった。


「見てる事しか出来なくてごめん!」

「俺…小西が怖くて動けなかったんだ…」


初めは2,3人だったが、それに釣られてか他の人達も内野に謝ってきた。

やはり皆も小西が怖くて、昨日までは内野に話に行けなかったようだ。だが山田が内野の傍に居るのもあってか、勇気を出して謝ってきてくれた。


小西に対する恐怖より、自分と仲直りしたいという気持ちが大きくなってくれたのが、内野は何よりも嬉しかった。


当然内野はそんな皆の事を許さない訳なく仲直り出来た。

だがその時、内野の頭の中に一つ考えが浮かんだ。それは本来ならもっと前に浮かぶはずの当たり前の事であった。


皆は俺に謝ってくれたけど…俺は小西にまだ謝ってないよな。

相手を怪我させてしまったら謝る、子供でも出来るぐらい当たり前の事だ。普通は真っ先に考え付くはずだけど…何で今までこの考えが一切浮かんでこなかったんだろう…



内野は小西に謝罪する事にし、小西達が教室に帰ってくるのを待つ。


だが昼休みの時間が終わっても小西の取り巻きしか戻って来ず、小西は教室に戻って来なかった。


学校サボって帰ったのか?

仕方ない…小西に謝るのは次会った時にしよう。



やはり学校が終わっても小西は教室に戻って来なかったので、今日はそのまま帰ることにした。


山田達は一人で帰宅する内野を心配し声を掛ける。


「内野君、帰りは一人で大丈夫なの?佐竹君は一緒じゃないの?」


「あいつは今日部活があるから俺一人だよ。なんか部活休んで一緒に帰るとか言ってたけど、大会が近いらしいしこれ以上は迷惑掛けられない」


俺の為にそこまでしてもらうのは、流石に幼馴染でも気が引ける。それに今日廊下で聞こえた会話で


「内野って山田君と佐竹君の二人に囲まれて羨ましいよね!」

「そうそう!私まじ内野になりたいわー」


「イケメン二人に挟まれてるあのチビ不快なんだけど、邪魔」


「山田君って去年彼女いた事が無いらしいね、…あっち側なのかな?」

「BLキターー」


と、一部の女子からそんな事を言われていた。

…こういう感じの変な噂が流れるのは嫌だし、正樹と一緒に帰ってるだけで更に噂が増えるかもしれない。それを避けるためにも今日は一緒には帰らない。


俺の力を見せるのはあいつの家でいい。取り敢えずあいつの前で折る用の鉄バットだとかを買おう。


山田達と別れ昇降口辺りに付いた時、スマホの通知が鳴る。

それは今日休んでいた松野からのメッセージであった。


『4階の空き教室まで来てくれ、小西について話したいから一人でな』


なんだよ、本当は学校に来てたのかよ。どうして教室に来なかったのか分からんが取り敢えず行ってみよう。



空き教室は4階の廊下の端にあり、たまにヤンキー達のたまり場になっているようで普通の生徒は寄り付かない。だから内野がこの教室の前に来たのは初めてであった。


周りに誰も居ないのを確認し、扉を開けて空き教室へと入る。


「松野、お前今日どうして学校に来なかっ…」


扉を開けて内野の視界に入ったのは、ガラの悪い多数のヤンキー達、机の上で携帯をいじりながら座る小西。

そして何発も殴られたかのようにボロボロになっている松野であった。

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